冥王? はい。メイドの王ですが、なにか?

華洛

プロローグ 十六夜冥夜

第1話 メイド王に私はなる


「私、悪子(アクネ)みたいなメイドを目指す!!」


 まだ小学生に成り立ての少女、十六夜いざよい冥夜めいやは、十六夜家に雇われている王佐おうさ悪子あくこに、向けてそう宣言した。


「――お嬢様。私のようなメイドを目指すと言ってくれるは、仕える者とした大変嬉しいのですが、お嬢様でしたら、メイド以上の者、そうですね、王になれる素質がございますよ」


「それじゃあ、メイド王を目指すことにするよ!」


 メイド王ってなんでしょう。と悪子は思ったが、表情にはそのような疑問を抱いている様子は微塵も見せない。

 悪子はパーフェクトメイドさんなのだ。自称


「お嬢様。メイド王とは……?」


「メイド王とはね、パーフェクトでオールラウンドなスーパーウルトラなスペシャルハイパーアンリミテッドメイドのことだよ」


 よけいに分からない……っ。

 悪子は頭を抱えそうになるものの、冥夜に感づかれないように至って平然としていた。

 悪子は雇われているメイドである。

 そのメイドが世話をしている子供が、「メイド王」になるとか言い出したら査定に響く。

 更に「メイド」から「メイド王」にジョブチェンジする過程で、悪子が余計なことを言った効果が大きいので、雇い主にバレたらどうなるか。


(お嬢様にせがまれて表裏のメイド術を色々と見せたのが間違いでした。……これは少し思考性を誘導して、別のものを目指すようにさせましょう)


 メイドが持つ標準スキル「高速思考」

 主に問われたことを直ぐに正しい回答できるようになられなければならない。そのためにも通常よりも数倍早く思考することは、メイドとして必須スキルであった。

 悪子は冥夜に向けていう。


「お嬢様。それでしたら、「冥王」を目指しましょう」


「メイオウ?」


「はい。「メイド王」では語彙が悪く、無知蒙昧な者から侮られることもありましょう。ですが! メイドの王。略して「冥王」という単語の強さ。人々に畏怖と憧れを抱かせることになることでしょう」


「でも、「冥王」ってダサくて悪役ぽい――」


「そんな事はありません。「冥王」――。カッコいいではありませんか。それに正義や悪などの概念は、所詮個人的感想の産物でしかありません。正義? 悪? 下らない。「冥王」を目指されるお嬢様が征くは王の道。正義や悪といったものは、お嬢様自身が見定めたらよろしいでしょう」


「……なるほど? わかった。私、「冥王」を目指すことにする!! 悪子。「冥王」になるためにも、貴女のメイド技術の全てを私に教えて下さい」


「分かりました。お嬢様が望まれるのでしたら――。ただ、王佐流メイド術は、王を補佐するために編み出された術。全てマスターするには、かなり厳しく指導する必要で出てきますが、構いませんか?」


「いいよ。指導している間は、悪子と私は、師匠と弟子の関係。お嬢様とメイドってことで、中途半端に指導されるのは――イヤだ」


「かしこまりました。王佐悪子が持つ全ての技術を、十六夜冥夜に教えると致しましょう」





 後年で悪子は語る。


「……冥夜お嬢様。恐ろしい方です。まさか3年ほどで、王佐流メイド術を皆伝して、4年で武力を上回ってくるとは。今にして思えば、あの流れは冥夜お嬢様が仕掛けた罠だったのでしょう。王佐流メイド術を全て自身のものとする為の……。ちょっと無茶苦茶な事をやらせて諦めさせるつもりだったのですが、まさか全て熟して、想定を上回る成長をなされるとは。本当、あれが天に愛された才能の持ち主なのでしょうね」


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