三章
第28話 提案
「つ、疲れた……」
力が抜けるように全身がソファに埋もれるようになってしまう。
「お疲れです、レクスさん。初仕事だけどよく頑張りましたね。偉いですよ」
「は、はは……あ、ありがとう、ございます」
ニッコリとした笑みを浮かべているウロス様に頭を撫でられる。
普通ならば恥ずかしいのだが、今の俺にはそんなこと考える余裕がなかった。
(う、ウロス様が普段行ってる仕事ってここまで忙しいのか……?ていうかこれを毎日……?)
先ほどまで俺は、ウロス様のお仕事の手伝いをしていた。
マリー様のおかげで今日も分は終わりを迎えたが……気づいたらもう昼を過ぎていた。
「これでも、貴方がやったのは普段母様がやってる仕事の2割しかないわよ」
「に、2割……」
……改めて当主様って凄いんだなって実感できた。
マリー様も慣れない仕事で少しは疲れが溜まってるように見えるが、俺ほどではない。
「ほら、シャキッとしなさい。このあと打ち込み稽古があるんだからね」
「は、はい……」
子供って元気なんだなぁ……いや、マリー様と同い年の俺が言ってどうするんだよ……。
「お疲れ様ですレクス様、マリー様。紅茶と洋菓子をご用意いたしました。どうぞお食べください」
「よ、洋菓子……?あ、ありがとうございます」
てかスミーヤさんいつの間にそこにいたの……?
俺は彼女の存在感の薄さに驚きつつ、スミーヤさんが用意してくれたであろう紅茶と……先ほどの洋菓子といったものに目にやる。
「あら、今日はマカロンなのね。何気に見るのは久しぶりね」
「はい。ちょうど材料が揃っていたので作らせていただきました」
「ふーん……よくやったわねスミーヤ。褒めてあげるわ」
そう言ってマリー様はマカロンというものを一つ取って口の中に入れた。
「レクスさんもお一つどうぞ。このままじゃマリーと私が全部食べてしまいますよ?」
「……で、では」
俺も一つだけ取って、マリー様や今食べているウロス様と同じく口に入れた。
「な、なんだこれ……?」
食べた事のない味に困惑してしまう。
外はサクッとしてるのに、中はふわっと口の中でなにがが包み込んでくれるような味がした。
「いかがですかレクス様?」
「お、美味しいです……でもそれ以上に困惑が」
「無理もないわよ。これ、貴族が食べるようなものなんだもの。普通の庶民は食べられないわ」
「な、なぁっ!?」
嘘だろ!?お、俺はなんてものを食べちまったんだ……。
驚愕して空いた口が塞がらなかったが、それをみてウロス様が可笑しそうに笑った。
「遠慮しないでください。これも今回の依頼の報酬だと思って、ね?」
「う、うぅ……」
ウロス様にそう言われるが……現実味が持たない。
(……でもこれ、ほんとに美味いんだよな……俺よりも、みんなが好きそうだ)
頭に思い浮かんだのは、俺が冒険者になるまで過ごしていた教会……そこにいる孤児のみんなと……フェリシアさんだ。
……今まで食事は準備してきたけど、サプライズで何かを渡したことなかったな。
「……あの、スミーヤさん。これってもう少し作れませんか?」
そう聞くと、スミーヤさんは少しだけ眉を顰める。
「……難しいですね。そもそも砂糖自体売っていることが稀です。それに」
「仮に多く量産できたとしても、あんまり庶民に渡すのはやめたほうがいいわ。私たちはどうでもいいけど他の貴族が何を言ってるか分からないわ」
「……だめ、ですか」
……だよな。言われてみれば貴族の食べ物を庶民に渡すのはあんまりよくない……偏見で悪いけど、貴族が何をするか分からないし。
「……レクスさん。一つだけ条件を飲み込んでくださるなら、これよりも味は薄いですが、その珍味を差し上げます」
「ッ!?……い、いいんですか?」
ウロス様の言葉に驚く。それは二人も例外ではなく彼女を見る。
「……いいのですか?」
「えぇ。レクスさんに恩を売るのも悪くないと思いましたからね。スミーヤ、レクスさんにマカロンの作り方を教えてあげなさい」
「……承知しました」
「あ、あのウロス様。その条件とは?」
ただで教えてくれるはずがない。困惑と疑問を残したままウロス様に聞くと、彼女は俺に視線を向けて言い放つ。
「レクスさん。マリーと一緒に魔物の討伐依頼をしてみない?」
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