第15話 リリナさんのとてつもない圧


「つ、疲れた……」


やっと終わった……あの人、俺を何かのおもちゃと勘違いしてないか?


俺は久しぶりに感じたげんなりとした気持ちのままギルドに行くべく、酷使した足を動かす。

依頼を終えて、マリー様には明日もよろしくねとそれだけ言って自身の部屋に戻って行った。

ウロス様には……謝られた。ほんとに申し訳なさそうにしてたので、何故か気の毒に思ってしまった。


いや……だったら依頼なんて出さなきゃいいのにと思ってしまうが……それを聞くのは野暮なのだろう。


クライバス家のことを考えながら、歩いていると、どうやらギルドに着いたようだ。気がついたら目の前まで着いたようだ。


「は、早く報告して家に帰ろう……」


き、今日はフェリシアさんやみんなには申し訳ないと思うが、ご飯を持っていけそうには……あぁいや駄目だ。みんなが悲しむ顔が想像できる。


ふぅ……とため息にも似た息を吐きながら、俺はいつも通りに扉を開ける。


部屋に入ると、いつも通りにギルドの中はとても賑わっていた。

時間が夕方や夜に近いということもあり、今日は帰ってくる人が多い様にも見えた。


立って待つのもあれだから、少しだけ座っていよう。


そう思って、俺は空いていた椅子に座り込んで、落ち着くまで受付の光景を眺めていた。


リリナさん頑張ってるな……今日も笑顔で対応してるし……イミリアさんも忙しそうにしてる……大変そうだなぁ……。


(あ、あれ……なんだか眠気が……)


座っていると疲れが一気に来てしまったのか、俺はその眠気に身を任せて意識が遠のいてしまった。





「……さん………スさん」


う、うーん……なんだ、誰かの声が聞こえてきて……。


「……クスさん。レクスさん!」


「………あ、あれ……リリナさん……?」


そこには無表情なはずなのに必死な様子が伝わってくるリリナさんの姿があった。

や、やばい……いつの間にか寝てたのか……。


「い、今……何時ですか?」


寝たことで硬くなった身体をほぐそうと枕にしたことで痺れ切った腕を上に上げて伸ばしていく。


「もう8時です。いつの間にそんな寝てたんですか?」


「……えっ?」


う、嘘!?窓を見てみると明かりなんて皆無と言って過言ではないほどの外の景色が広がっていた。


や、やばい!まだ夕食作ってない!?は、早く今日の分の依頼を渡さないと……ってあれ?


「こちら、今日の報酬金となります。どうぞ受け取りください」


「あ。ど、どうもリリナさん……」


どうやら俺が寝ていた間に彼女が色々とやってくれたらしい。

心の中でリリナさんのことを感謝しつつ、報酬金が入った袋を受け取って………うけとっ……て………?


「……あの、リリナさん?そんな力強く俺の手を掴まれると痛いのですが」


俺が袋を手に取った瞬間、とんでもない力でリリナさんの手が俺の手に襲いかかった。

正直に言うと、冗談抜きでまじで痛い。それに、なんだがいつもよりもリリナさんの顔が険しい様な気がする。


「……レクスさん」


「は、はい?」


「今日受けた依頼の中に……クライバス家のものがあったのですが」


「あ、はい。目に入ったので折角だから受けてみようかと……まぁ結果この有様ですけど」


あははと苦笑してしまうが……それでもリリナさんの雰囲気が一向に変わらない。

な、なんでそんな怒ってるのでしょうか?いや確かに俺に冷たい態度を取るのは必然かもしれんが……。


「……レクスさん」


「は、はい!」


「私はギルドのしがない受付嬢なので、こういうことを言うのはよくありませんが……クライバス家の依頼は今後お受けにならないでくださいね」


「え、で、でも俺。もう受けてしまいましたし……それに、多分マリー様に目をつけられて……」


「ッ!……………なら私が直々にウロス様とマリー様に言っておくのでご心配なく」


「い、いやでも」

「いいですね?」

「……は、はい」


今の彼女には逆らったらいけない……何故かそんな本能に従ってしまうように俺は首を上下に動かしました。


「よろしい。では、今日もお疲れ様でした」


「は、はい……お疲れ様です」


そうして、とてつもない圧を感じたリリナさんと最後に挨拶を交わした後、俺は急いで家に帰宅するのであった。





「……ダメだよそれは」


ギルドにて、先ほどレクスが受けた依頼書を見ていたリリナはそう呟く。


「ダメ……それはダメ……レクスくんがこの街を去るなんて……あってはならない」


自身も何度もこの依頼を受けた冒険者を見た。そしてその人達は全員等しく……このミルティーユからあとを去っている。


もしレクスが彼女の……マリーの横暴により、この街を去ってしまったら……リリナの中にある何かが崩壊しそうな気がした。


「……絶対にさせない。レクスくんがいないと私……おかしくなっちゃうから」


イメリアが聞いたらその重めの発言に引くであろうが、今は誰もいない。

リリナは夜にも関わらず、クライバス家に行くために、準備を固める。


全ては大好きな男の子のために……彼女は動いた。



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