SSRIを使ってみる

中原恵一

離脱症状・副作用

視界の端の虫

 高校3年生ぐらいから不眠がひどくなり、マイスリー(ゾルピデム)を日常的に服用していた。

 大学に入ってすぐかかりつけの心療内科に行けなくなったせいで断薬してしまった。睡眠障害がかなり悪化し、様々な症状が出た。

 まず体内時計が狂い、例えば今日10時に寝たら次の日は朝6時に起き、次の日は12時に寝て8時に起きるという感じで毎日睡眠サイクルが2〜3時間ずつ後ろ倒しになっていってしまう。

 このせいで社会生活が不可能になってしまった。授業を受けるにしろアルバイトするにしろ、一日の中で決まった時間に通学・出勤しようとすると体内時計的に真夜中に起きて行かないといけなくなるからである。睡眠が十分に取れないまま学校に行って、ほとんど徹夜みたいな状態が続いて景色が白黒に見えたときもあった。

 しかし残念なことに、これについて話しても周囲の人は「ただ怠けている」という認識になることが多く、私は学校を辞め、バイトにつくこともできなかった。

 家族ですらも「外をずっと歩いて疲れれば眠れる」という程度の理解で、私は終始「何をやっても続かない・こらえがないクズ」という扱いを受け続けた。

 

 大学を辞めて実家に帰っても、睡眠障害は治らずかなり困っていた。家族が体内時計がずれているにも関わらず「朝起きれば治る」などと言って無理やり叩き起こしたり私の行動を制限するせいで体調が悪化し大変苦しんだ。

 実家にいるのが耐えられなくなって家を飛び出し、住み込みで新聞配達を始めたが、あろうことか夜中に出勤しなくてはならないといけない仕事を選んでしまい、今度は短時間しか眠れなくなった。

 この頃からだったろうか。

 睡眠不足が極まってくると、視界の端に「」が見えるようになった。本体は見えないのだが、大きな虫の足だけが浮かび上がってくるのだ。もぞもぞと動くそれが見える度、ああ、俺は疲れているのだ、と思ってはいた。

 こいつの正体がなんなのか、いまだに分からない。

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