Episode12  イベントは、突然に!





 ノアも同じ状態で後を追って来た。


 顔が後ろを向いていようと、お構いなしに引きずられる。

 わたわた暴れる陽翔はるとに比べて、場慣れしているノアは冷静である。


陽翔はると。イベントが発生している。無駄な抵抗は止めて大人しくするように」

「イベントって、突然すぎるでしょ!」



 広場では大々的にファンファーレが鳴り響き、武道大会の告知が行われていた。参加するには四人一組のパーティであることが条件だった。


 システムで補正がされているのか、凄いスピードで居酒屋の二人が陽翔はるとを追い駆けてくる。あまりに勢いがあるので、思わず逃げ出したくなったが足が動かない。


「いつかの二人。強くなったじゃない! 私たちと大会に出ない?」


「いつかの」って言いますが毎晩話しかけたでしょ、と思ったが、イベント発生中のため、自由に会話ができなかった。そして、陽翔はるとの意志とは関係なく次の句が出る。


「奇遇ですね! 僕たちも仲間を探していました」


 一同の動きが完全停止すると同時に、視界の上のほうに白抜き文字が大きく表示された。



『イシュタルとカイが仲間になった』



 伸びやかで爽やかなメロディーが流れ、左上のParty欄が四行になる。


 その一連の動作が終わると、ようやく体の自由が効くようになった。

 あまりの事に、みんな同時に笑い出す。




「ふふふ、面白いわねゲームって。さっきのセリフ、言ってて笑いそうになったけど、笑うこともできないのね。改めまして、わたしは白龍のイシュタルよ。こっちは、剣士カイ。カイは体力も攻撃力もあるからタンクでもアタッカーでも大丈夫よ。わたしは攻撃魔法と支援魔法が得意だからサポータになれるわ」


 イシュタルは、褐色の肌に白い髪と水色の瞳をしていて、やさしそうなお姉さんという感じだった。


「よろしくな。ハルト、ノア」


 カイに関しては、体は大きいが粗雑な大男と言う感じではない。なんとなく品のある偉丈夫いじょうぶだった。漆黒の闇のような瞳と髪をしていた。


「こちらこそよろしくお願いします。お二人はAIなの?」


「そうよ。このエピソード限定のAI。そっちは人類?」


「僕は人間で体が現実世界にあります。職業は研究者です。ノアはイピトAIで、職業は魔導士です」


「イシュタルさん、カイさん、がんばって武道大会を制覇しましょう! どのみち、陽翔はるとが優勝しないと終わらないと思う」


 ノアが腕組みをしながら言う。


 カイは大きな体で朗らかに笑いながら、呼び捨てでいいよと言った。

 陽翔はるとはイシュタルとカイはノアに似ていると思う。なんとなく親しみがわいた。





✽✽✽






 いよいよ、武道大会本番となった。

 武道大会の参加パーティは二十五組で、試合形式はトーナメント形式となる。


 古代のコロシアムのような場所が城内にあり、観客席の中央部分に玉座があった。

 北欧神話にでてくる、いくさの女神というような風情の女王が、玉座に鎮座していた。


 この世界の戦いで死は無い。


 倒されたら一定時間戦線離脱の棺桶ペナルティの上、所持金の八割とドロップ用のアイテムが相手に渡る仕様だ。


 特殊装備を除いた、一番レベルの高いアイテムがドロップされるため、倒されると非常に痛い。

 さらに、トーナメントが最初からやり直しになる。


 千クオーツ以上のお金なら銀行に預けることができ、預金は負けても影響を及ぼさない。なので、せっせとお金を稼いだら銀行に預けるのがベストだ。




 トーナメント戦は、聖国フロームの兵士や神龍族の騎士など、はちゃめちゃに強いメンツが登録しており、優勝までの五試合を勝ち抜けるのは至難の業だった。



 陽翔はるとは生来争いを好まない性格をしている。

 諦めも早く、無理もしない。

 パーティ全体の指揮官のような役割を、好んで選ぶタイプでもない。


 従って、ここまでの人生で大きな挫折は無いし、のんびりと育ってきた。

 従順でわがままも言わないため、大人に反抗することもないのだ。


 しかも、このトーナメントは優勝しなくても、参加賞のハイポーションをもらって終わらせることができる。

 陽翔はるとの性格を考えると、一回戦負けを何度も繰り返していたら、諦めてしまってもおかしくない。


 しかも、トーナメントで全滅すると、そんな陽翔はるとの性格を見透かしたように、目前にメッセージがでるのだ。



『トーナメントをやり直しますか? それともあきらめますか?』



 なんか、ちょっと癇に障る。

 しかも、その後のメッセージがもっとひどい。シアンは性格が絶対悪いと思う。いったい誰の人格を移植されたんだ。



『あきらめて、次に進む。まぁ、そんなものです。イピトAIが凍結されたって、子供のあなたが悩む必要は無いです。大人になってから解凍する方法を考えてください』



 もう一つはこれだ。もっとひどい。



『トーナメントをやりなおす。こっちは困難が待ち受けてますよ。子供のあなたが苦労する必要はありません』



 諦めろと言われて諦められるものじゃないと思う。

 陽翔はるとは悔しさのあまり、参加賞のハイポーションを握りつぶす。


「絶対やり直す。そして、シアンをギャフンと言わせる」


 聞き分けも諦めも良いほうだが、今回だけは途中で放り投げるわけにいかない。


 ここで『氷の塔』を諦めれば、父と母の行方は分からないままになってしまうし、ノアも凍結されてしまう。


 ノアを家族のように思い始めている。ノアと離れるのも嫌だった。

 雫月しずくとの出会いと共に始まったこの攻略は、どのような意味があるのかも確かめる必要がある。これは、陽翔はるとの戦いなのだ。





✽✽✽






 何度もチャレンジしてようやく勝ち上がった決勝の相手は、この国の軍隊のメンバーで構成されたパーティだった。


 このパーティの大将である騎士ユフタスは、経験値も高く、指揮官としても優れている。


 的確な判断でメンバーを采配し、攻防のバランスが良い。

 また、自身はタンクを担い、体も大きく頑健で越えられない壁のように立ちはだかっていた。


 パーティの構成は、アタッカーに魔導士と魔導剣士、ヒーラーの聖職者となる。

 しかも、全員が土属性の翠龍すいりゅうであり、癒しの回復魔法に特化し、植物や岩石を使う攻撃魔法も操る。





 ---続く---

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