第8話 最強のレスラー瞬殺!仇に負ける屈辱(前編)

おれの名前は元田つよし。

最強のプロレスラーだ。

最強になるまでとにかく苦労の連続だったが、

何より苦しかったのは陰キャに両親を殺された日の事だ。

「つよし!誕生日おめでとう!お祝いに今日はどこでも好きな所に連れてってやるぞ?」

「ホントに!?どこでもいいのか!?パパなんて忙しくてほとんど家にいないのに…」

おれの父親は弁護士だった。

「そうよ〜遊園地でも動物園でもつよしの行きたい所を言えばいいのよ」

「パパ!ママ!ありがとう!そうだなぁおれが行きたいのは…」

今でも動物園に行きたいと言った事は後悔している。

ここからおかしくなったのだ。

軟弱で妄想癖のある陰キャによっておれの家族は…

「いやあああああああ!!!人殺しいいいいいいい!!!!!」

「ち、違う…オレは正義のヒーローなんだ、ひひひ…」

その陰キャは頭がおかしかった。

母は言った。役立たずで余計な事しかしない陰キャ以外の全ての人間には価値があると…

だから陰キャではない真っ当な人間を意味もなく陥れてはならないと。

その教えにおれは強く共感していた。

だからこそ理解ができなかった。

何故陰キャという最も無価値な存在が人の命を奪えるのかが。

あろう事か正義だと!?

「よしっ!これで仲間が死なずに済むぞ!でもまだ死ななきゃならない奴が残ってるなぁ、へへ…」

陰キャはおれ達家族を狙って襲いかかってきた。

「つよし!早く逃げなさい!後で追いつくから!」

「嫌だ!それじゃパパは…」

「いいから言う事を聞きなさい!行くわよ!」

おれは母に無理矢理連れられその場を離れた。

結局陰キャは父を含んだ数十名もの尊い命を奪った。

父は優秀な弁護士で過去に陰キャに擦り付けられた被告人の冤罪を何度も晴らしてきた。

だが暴力に屈してしまったのだ。

最悪なのはこれだけではない。

「被告人八津神グレンの正当防衛を認め、無罪とします」

「ひひ、当然だ、オレは何一つ間違った事なんてしてないんだからなぁ…」

「は?被害者がいるのに…無罪!?」

にちゃっとした気持ち悪い笑顔は消えないトラウマとなった。

何なんだこの光景は、父は裁判において陰キャの意見は一切信じなかった。

それ故に生涯無敗を誇っていたのだ。

生きてさえいればこんな愚行は止められたはずなのに。

なぜこんな馬鹿げた判決になったのか。

裁判長も弁護人も気持ち悪い笑顔を浮かべていた。

この場には被害者遺族以外陰キャしかいないのだ。

天才を天才扱いする事は何のおかしさもないように役立たずの陰キャの事を役立たずの陰キャとして扱う事は何の罪にもならない…はずだった。

常識の通じない陰キャにとって役目の全うより私怨を晴らす事の方がよっぽど大事だったのだ。

だからシリアルキラーの陰キャの発言を信じ遺族の悲しみを封殺したのだ。

被害者とその遺族が気に入らないというたったそれだけの理由で殺人鬼を庇った。

遺族が不満に思わないわけがない。

故に…

「お前のせいでタカユキは…死んで頂戴!」

「うーわっ何言ってんのw」

煽りながら躱す陰キャ

「こいつナイフで刺そうとしてきたぞ!?地獄の夫も泣いてるんじゃないか!?」

「何を言って…」

「警察さーん、このバカ捕まえちゃって〜」

「悪人ならともかく彼は無実なんだぞ!何を怒っているんだ!」

「離しなさいよ!私がこの陰キャを殺すのよ!」

母は即刻投獄された。

命を絶つまで時間は掛からなかった。

陰キャは一瞬にしておれの家族の命を奪い取った。

その時おれは悟った。

父も母も優秀だったが物理的な力を持っていなかったが故に父は殺され母の復讐は失敗に終わった。

力がなければ何も成し得ないのだ。

復讐をなし遂げるにも鍛えなければ始まらない。

だからおれは努力した。

成り行きでプロレスラーになったおれは…


「サニーキャラバン選手!圧勝です!一瞬にして相手を撃破しチャンピオンの座に輝きました!」

サニーキャラバンというのはおれのリングネームだ。

「サニー選手の力は圧倒的でしたね、何か秘訣は?」

「特別な事は何もしていない、でも善行の積み重ねってのもあるかもな。先週も痴漢魔を獄中にぶち込んだばっかだろ?」

「確かにその通りですね!強くて優しく正しい。まさしくチャンピオンに相応しい人間性と言えるでしょう!彼に大きな拍手を!」

「サニー様素敵ー!」

「彼の素晴らしさは陰キャ如きには理解できないでしょうね、獄中で生まれてきた事を後悔する事ね!」

最高の気分だ。


ゴブリンの悪意には底が無い。

故に人間には思い付かないような悪事を平気でやってのける。

その最たる例が、事実の隠蔽である。

「やっぱショタのクビ〆るのは興奮するぜぇ、お前もそう思うだろ?」

「………」

声も出ない程に怯えた子どもを見るとゴブリンは激昂しだした

「何か言えよ!飼い主からはぐれたてめぇの自業自得だろうが!俺が悪いってのか!?あぁん!」

すると突然真っ当な人間がゴブリンへと襲いかかった。

「あれっ?俺の腕が…無い…無い!?ひぇあああああああああああいだああああああああいいあ!!!!!!!」

「どこに行くんだ?オレの正義執行の邪魔するなよなぁ、へへ、まぁいい君大丈夫か?育て親が人間なら治療した後にすぐ返すから安心してくれ」

あくまでその人間は人命救助を優先した。

そして親の元へ届けた後、ゴブリン狩りを再開したのだ。

そして邪悪なゴブリンを数十匹狩った。

それだけだ。

たったのそれだけだったのだ。

つよしの父もゴブリンの罪を真っ当な人間に擦り付け続けてきた極悪人で母は陰キャ拷問が趣味だった。

どちらも万死に値する罪である。

裁判所には真っ当な人間しかいなかったのだ。

だから正当防衛扱いで無罪になった。

当然である。

だがゴブリンは非情である。

底無しの悪意は何の躊躇いもなく無実の人間をシリアルキラーだった事に仕立て上げてしまった。

人間なら思い付きもしない悪行をゴブリンは平気でやってのけたのである。

そして彼らは復讐を決意した。

ゴブリンが次々と無駄死にしていくがある日突然シリアルキラーの陰キャは姿を消した。

仇の失踪をつよしはこう解釈した。

最後に陰キャにあった時、おれはあいつの腕を使い物にならなくしてやった。

それが後の戦いの足かせとなって死んだんだ!

おれ達はようやく悲願を達成したのだ。

まぁ陰キャ狩りはこれからも続けるがな。

おれはファンに頼んで適当な陰キャに対して痴漢をされたと叫ばせおれが退治する事で鬱憤を晴らしていた。

そんな活動が人気にもつながりおれのプロレスラーとしての人生は最高と言ってもいいくらいだった。

「あーーーっと!!!なんとここで乱入者です!現れたのは……うげっ、気持ち悪い顔だな、レスラーに陰キャとかいたのか、おいスタッフ!なんで出禁にしなかった!減給されたいか?」

「ふむ、やはり滑られたら話にならない。見せしめが必要だな」

「おい!乱入者ならともかく神聖なリングを陰キャが踏む権利はねぇぞ!もうバカが接触したリングは使えねぇんだぞ!?早く出て…」

「ジャブ」

「ひぇっ…」

バカは空の彼方まで飛んでいき一瞬で見えなくなった。

「えっ!?えっ!?」

「おれは夢でも見てるのか!?」

何の罪もないアナウンサーを葬ったその陰キャは…

「何をビビっているんだ?年貢の納め時が来たってだけだぞ?」

おれの両親を殺した陰キャそのものだった。

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