神探陰陽師:蘆屋道満の巻
@HasumiChouji
序章
業火
老人は
病によるものだとしても、年齢によるものだとしても、異常な干涸び方だ。
まるで……
「たしかに、このような病は見た事が有りませんな……。ですが、原因は突き止めました」
ここは、占術をもって朝廷に仕える「
そう告げたのは、陰陽寮より派遣された陰陽師だった。
だが、干物にしか見えぬ老人の口は微かに動き……呼吸をしていた。
いや、呼吸に見えているだけで、何かを告げようとしているのかも知れない。
しかし、老人には、声を出す力さえ残っていないようだった。
「一体、何が起きているのですか?」
老人の長男は、陰陽師にそう訊いた。
そもそも、陰陽師と
共に、占術を得意としている。
陰陽師の口元が微かに歪む。
優越感の笑みだ。
「五行の内、強い『木』の『気』を持つ物の怪が取り憑いている様子。『木』を生むは水。それ故、この方の体内の『水』を、その物の怪が食らっているのでしょう」
「なるほど……」
と言ってはいるが、余り良く理解出来ているようには見えない表情だった。
「しからば、『木』に打ち克つは『金』。この方の体内の『金』の『気』を強める呪法を使えば、『木』の『気』を持つ物の怪は弱る筈」
そう言うと、陰陽師は手印を組み、
遥か後の時代の者達からすると、神道の
小半時も過ぎた頃、陰陽師の顔は青冷め、脂汗が浮いていた。
「あの……」
老人の長男が声をかけるが……。
「し……静かに……まもなく、良くなる筈……」
だが、そう答えた陰陽師の声には焦りの色が有った。
『どうなっている? まるで……』
何かがおかしい。
老人の体内で強められた「金」の「気」は……。
相生・相克。
それが陰陽道の基本となる「五行」の考え方の基本の1つ。
土より金が生まれ、金より水が生まれ、水より木が生まれ、木より火が生まれ、火より土が生まれ……かくして万物は循環する。これが相生。
金は木に克ち、木は土に克ち、土は水に克ち、水は火に克ち、火は金に克つ……かくの如く、万物は「何か」に打ち克てると同時に、他の「何か」に対しては打ち負ける。この世界には「最強」なる何かも「絶対」なる何かも存在しない。これが相克。
それ故に、陰陽師は強い「木」の「気」を持つ物の怪を調伏する為に、「木」に打ち克つ「金」の「気」を強める呪法を行なった。
だが、「金」の「気」は……何故か、瞬く間に「水」の「気」に変り、そして「木」の「気」を強め……。
まるで、
ぞわり……。
陰陽師は、自分の背骨が氷柱に変ったかのような嫌な悪寒を感じた。
「おい、何かおかしいぞ。早く、その呪をやめ……」
老人の長男が、そう叫んだ瞬間……。
……「木」より生まれるは「火」……。
老人に取り憑いていた物の怪を構成していた「気」が、一瞬にして「木」より「火」に変った。
そして……。
水分が失なわれていた老人の体は、一瞬にして燃え上がり……やがて、その炎は屋敷そのものを飲み込み……。
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