物語#3
「あ――」
少女は裸で鏡の前へ立っていた。自分の目では届かない背中を覗いている。
「うわぁ」
19と描かれた入れ墨がほとんど欠けていた。下半分がないせいで、なんの数字かが分らない。
「はぁ、行くか」
真っ白なワンピースを被って外へ出た。家々や人々は無事だというのに、皆が皆どよんとしている。疲れ切った顔が目立ち、壮麗な街並みを堕とした。
少女はそれらを横目にある店の前にたどり着く。入れ墨屋だ。入店すると、早速その作業が見えた。
彫師は客の地肌へ触れ、光の絵を描いていく。紋様や文字を形成し、最後に黒く染まった。
「ふぅ、終わったよ。どうだい?変更はまだ可能だよ?」
「いや、これでいい」
「そうかい。ならもう行きな。次の客が待ってる」
左腕を失った男が店を出た。死んだような顔をしていた。
「嬢ちゃん、今のは兵隊さんだよ。そんで、亡くなった友人の名前を彫ってくれって依頼。すごいよなぁ、あんな状態でも死んだ人間を気にするなんて。私は女だから運が良かった」
「ふぅん、そんなことより、数字を彫って欲しんだけど」
「ホントに掘るの?まだ若いのに」
「趣味じゃない。義務だから」
「――――奴隷かい?」
「そんなもん」
「んな自由な奴隷がいるかい。まぁいいよ。金さえあればなんでもいいさ」
少女は握っていたくしゃくしゃの札を二枚渡した。小太りな女性は札を広げて数える。
「あい、足りてるね。数字って、何を掘るんだい?」
「とりあえず背中を見てほしい」
少女は椅子へ座り、しなやかな動きで腕を背中へ回した。そしてワンピースをめくると、違和感のある削れ方をした入れ墨が現れた。それを見た彫師は眉をひそめる。
「うーん、なんだこれ?それに、傷が多いな」
「何も聞かないで。たぶんよくない」
「そうかい。で、どうする?」
「残った入れ墨に沿って、19って彫って」
「19?これ、本当に19かい?」
「え?なんで?」
「いやねぇ、どっかで見たデザインなんだが。これがちょうどそんときの17でな。てっきり私は17を掘るかと思ったよ」
「―――――――――歪でいいから19って彫って」
「あいよ」
彫師が少女の地肌へ触れる。光の線は残った入れ墨に沿って形成を繰り返す。ものの数秒で元に近い状態へなった。
「これでどうだい?」
鏡を背中へ合わせ、デザインを確認する。そこには多少歪な19が刻まれていた。前のよりかは不格好ではない。
「うん、大丈夫」
「手足の長さとか、これから生える髪の色なんかも変えれるけど。どうする?」
「なにそれ?」
「知らんのかい?入れ墨ってのは、体をいじくる魔法だからね。常識の範囲内であれば変えれんのさ。特にあんたはまだ成長期だろ?自由の幅はかなり広い」
「じゃあ、常識の範囲外で、大人がやったらどうなるの?」
「死ぬよ。内臓破裂とか起こして」
「ふぅん」
「あー、思い出した。正門の近くにある店だ」
「え?」
「いや、嬢ちゃんの入れ墨の話だよ。そのデザイン、正門の店で間違いない。私の先生だからよく覚えてる」
「へぇ、その先生って、私と同じ白髪で、黒い目だった?」
「目は覚えてねぇけど、だいたいそんなんだったな。ただ、そんなに髪は白くなかったと思う。どっちかっていうと、銀髪?かね」
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