名前はまだ無い異世界転生物語
敬虔な翁
第1話 日常(前編)
皆さんどうも!突然ですが僕は今、森の中でラッシュボウに死ぬ程追いかけ回されて結構マジで死にかけてます。
あの太く尖った鋭い牙、ぱっと見僕の身長と同じ…いやそれ以上はありますよ、あっ、ちなみに僕は167cmです。チビとか言わないでね!?
昔からの付き合いで、近所に住んでるエリーおばちゃんに「あんたももう16歳なんだから、森に住む猪くらい狩れるようにならなきゃね〜」と言われ、木の弓担いで来たものの今はこんな状況ですよ。
なんでそれだけで行ったの?バカなのかって?、猪だよ?ねぇ僕は猪って聞いたんだよ!?これは完全におばちゃんのせいだよね、何が猪だよ、ただの怪物の間違いだろうが。
あぁやべ、体力尽きてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
よし!もう諦めよう…
そして僕は後ろの方を振り向き、バッと両手を広げた。
「さぁ来たまえ!僕は君の全てを受け入れようじゃあないか!」
ドスドスと物凄い勢いでラッシュボウは真正面から突っ込んでくる。僕は覚悟を決め、目をつぶり最後の時を待つ。そして…
「ファイアー・アロー!!」
その掛け声と共に炎を纏った矢が何処からともなく現れ、見事ラッシュボウの頭に命中した。
ラッシュボウはその勢いのまま盛大に地面を滑り、ドォン!と物凄い音を立てながら僕の真横にある木にそのまま直撃した。
「ん?…うわっ!?」
僕はそっと目を開け、間近にある死体となったラッシュボウに驚き尻餅を着いてしまった。
「な、何だこれ本当に死んだのか?」
僕はおそるおそる死体に近づきその生死を確かめようとする。
「おいウィル!」
ビクッ!
すると僕の名前を大声で呼び、1人の男が僕の後ろにある木の上から颯爽と降りて来た。
「と、父さん!」
この人は僕の父さん、バン・ハーストン。僕が住む村の中では1番腕の立つ冒険者だ、昔はこの国の王都で活躍してたそうだけど今は村の警護部隊の隊長として働いている。
因みに僕のこの世界の名前はウィル・ハーストン皆んなからはウィルって呼ばれてる。たまに変なあだ名で呼ばれる事もあるけど…
「いやー本当に助かった!危なく死ぬところだっ——」
「このバカ!」
ガン!
そう言うと父さんは、今度は僕の頭に拳を命中させた。
「いってぇー!!急に何すんだよ父さん!」
「お前はまた訳の分からん事を言って…なにが『さぁ来たまえ!僕は君の全てを受け入れよう!』だ!?バカ言うんじゃねぇ!」
ガン!
二度も同じところを殴られ、半泣きになりながら少しの間頭を抱える。
「だからいてーって言ってんだよ!そもそも何で父さんがこんな所にいんの!?」
「はぁ、何でって…お前が森の中に弓持ったまま入ってくのを見たってルカが言ってきたもんだから念の為に見に来たんだよ、まさかラッシュボウを狩ろうとするなんて思ってなかったがな、お前こそなんでこんな所に…」
「俺はエリーおばちゃんにもうすぐ16になるんだから森の猪ぐらい狩って来いって言われて来たんだよ!」
「なるほどなー。はぁ、またあの婆さんか…」
そう言うと父さんはやれやれという感じで首を傾げる。
「な、なんだよ…」
「あのなーウィル、何回も言うがあの婆さんは有名なホラ吹きだ。昔はドラゴンがそこら中にいただの、この村の洞窟には勇者様にしか抜けない剣があるだの、さらには『ワシは昔聖女と言われ世の中の男を虜にしたもんじゃ』なんて妄想まで作り上げてる始末だ」
「そもそもだな、ラッシュボウはただの猪なんかじゃない、中級の魔物だ。それを1人で狩るなんてありえないんだぞ?ベテランの冒険者でも1人で戦うなんて厳しいはずだ」
父さんは心底呆れた様子で話をした。
「え、あれ魔物だったの?やけにでかいなとは思ったけど…動物とかじゃなくて?うっそー」
「お前本気で言ってんのか?前にも何度か見せたし、話もしただろ…」
額に手を当て「はぁ、」とまた一段深いため息をつく。
「あれ?そうだっけ?」
俺のそのあっけらかんとした様子を見て、完全に父さんの話す気が失せたようだった。
「………もういい、帰るぞバカ」
「あ、また僕にバカって言った!はいぃーバカって言った方がバカなんで——」
ガン!
「お前はもう黙れ」
「はい…ずびばぜんでじだ」
さっきよりより一層強く殴られた。殺意も入っていたように感じるけど…まぁなんとか忘れよう。
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