正夢に君が写った春

ひろみ

第1話春

唐突に見た夢は夢にしては鮮明だった。

「それでは、井上!ここの主人公の心情について答えてくれ。」

「えーーーっと…」

 井上 いのうえ はるは未だ白紙のノートを凝視し、現代文教師の下森からの質問に対しての解答を必死に捻り出そうとしていた。


「!?」

 未だぼやける視界と回らない頭、男子高校生の春は自宅の布団で夢から覚めた。

「なんかめっちゃリアルな夢見た…」

「春ーーー!そろそろ起きなさーーい!」

 母親の怒声に近い声が春の脳を覚醒させた。

「もう起きてるからーーー」

春は目を擦りながら1階のリビングまでフラフラと向かう。

「ったく何回叫べばあんたは起きるのよ。」

「しょうがないじゃん、俺朝めっちゃ弱いんだから。」

 春は文句を言いながらも朝食を急いで口に詰め込み、学校へ向かう準備をした。


「それじゃあ、行ってくる!」

 春は駆け足で高校へと向かう。


「おはよ!春今日も眠そうな顔してんな。」

「あぁ紫優か、しょーがないだろ。朝まじ弱いんだから。」

 春の唯一の親友である猫柳 紫優ねこやぎ しゆうは呆れ顔だった。

「俺なんか朝練もあるから6時起きだぞ?」

「すげーすげー、ソンケイするわー。」

「ったく、そういえば現代文の宿題はやったのか?また大目玉喰らうことになるぞ?」

「あぁ、もちろんやってない!そういえば今朝変な夢見たんだよなー」

「変なってどんな?」

「なんか現代文の授業で主人公の心情について当てられて、俺が答えれず困ってる夢。」

「どうせ宿題やってないからそんな夢見んだよ。現代文三限なんだからちゃんとやっとけよ。」

「わーった、わーった。」

 紫優は一通り話すと、所謂陽キャと呼ばれる集団の元へ向かっていった。

『ったく、今日は四月十九だから出席番号的に俺な訳ねーのに…」

 春は紫優の忠告を無視し、机の上で寝息を立て始めた。


時間は過ぎ三限の現代文となっていた。

「それでは、井上!ここの主人公の心情について答えてくれ。」

「えーーーっと…」

 春は未だ白紙のノートを凝視し、下森したもり先生からの質問に対しての解答を必死に捻り出そうとしていた。

『まじかよ、まじで俺に当たっちゃったじゃねーか。全く思いつかねー。』

 春が助けを求めて紫優の方向をウルウルと見つめるが、帰ってきたのはだから俺は言ったのにという表情だった。

「おい井上、お前まさかまたやって来てないってわけじゃねーよなー?」

「えーーーーっと、すみませんすっかり忘れてました!」

それから下森による説教は数分間続いたが、春からすればまるで数時間のように感じていた。


「だから言っただろ、やっとけって!」

「本当に俺に当たると思ってなかったんだよ!出席番号的にも俺じゃねーし。」

「春が答えられなかったせいで、俺に当たっちまったじゃねーか!」

 春に呆れた下森はなんの因果か紫優を当てた。

 もちろん春と違って流暢に答えていたが。

「いつも尻拭いサンキューな紫優!」

「うるせ!」

 紫優はそう吐き捨てると陽キャらに呼ばれ連れションへと向かった。

『まさか本当に夢の通りになるとは、正夢ってやつなのかな…』

 その後特に何事も起こることなく春はだらけながら一日を過ごした。


「お前まじだるいんだよ!」

「てめーこそ!くそしょうもない事でウダウダ言いやがって!」

『あれ?また夢か?あいつらはよく紫優の金魚の糞してる陽キャどもじゃねーか。なんだこの夢、とりあえず時間は昼休憩の時っぽいな。』

 春は目に映る夢の光景をよく観察した。


「!?また夢か、昨日の正夢のこともあるし。今日の昼食は食堂にしようかな…」

「春ーーーーーー」

「もう起きてるからーーーーーーー!!」

「あの子ったら自力で起きるなんて珍しいわね、高校二年生になってようやくかしら。」

 春は今までにないほど優雅に朝の準備をし学校へと向かった。

 それから春は昼食の時間まで寝落ちしないように授業を受けた。

「春!お前どこ行くんだ?」

「あぁ今日は食堂に行こうと思って、お前もくるか?」

「いや俺はあいつらと食うから。」

 紫優は夢で喧嘩をしていた二人と昼食を共にするらしく、春は一人で食堂の方に向かっていった。


『昨日は正夢だったからなぁ、まぁ毎日正夢なんか見るわけないけど…念の為に。」

 春はパン売り場に群がる人の群れをうまく避けながらお目当てのパンを買い、食堂の日当たりが良い席で昼食を取り。教室へと帰っていった。


『特に怒声も響いてないし、二日連続で正夢見るわけないしょ。』


 春が教室に戻ると、夢に出ていた二人のうち一人は紫優にもう一人は担任に取り押さえられていた。

『おいおい、まじかよ。夢の通りあの二人喧嘩してたのか?』

 巻き込まれたくない春は事態の収拾が未だついてなさそうだと感じ、お手洗いへと避難した。


 春が教室に戻ってくる頃には事態は収拾し、件の二人は担任と共に生活指導室へと連れられていた。

「おい紫優、一体何があったんだ?」

「あぁ春か、お前は巻き込まれなくてよかったな。実は理由はよくわかんねーけどいきなりあいつらが喧嘩しだして、最終的には殴り合いになったんだよ。」

「まじか、てかその頬どうしたんだ?」

「あいつらの殴り合いがあまりにも激しくて止めようとしたら、思いっきり殴られたんだよ。」

「うげぇ、それは災難だったな。」

「全くだよ…」

 紫優はやれやれと言った雰囲気を春に対してだけ醸し出していた。

「ねぇねぇ猫柳くん!」

 クラスの女子は喧嘩を止めようとした事で紫優に話しかけるチャンスと思い、吾先にと話しかけに群がって来ており、春は肩をすくめながらも正夢について考えながら自らの席へと戻った。

『まさか二日連続で正夢見ることになるとは…』

 その後春が下森にキレられる事はあったが、それは最早日常であり、春は夢について思案しながら過ごしていった。


 それから春は毎日、正夢自体は見ているが何気ない、いつもの日常を過ごしていった。

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