最終話 第九章「策謀」
笠井たちは獣魔侵将と対峙していた。
本来、この状況で彼らと戦うことは「死」を意味する。この黄金迷宮に誘い込まれた時点で、笠井たちの行動は相手に筒抜けだった。すべては奴らの謀略であり、この空間において、二人の生死はまさに彼らの掌の上にあった。
だが、絶望的な状況でも希望の光は消えていない。現在、外部から黄金迷宮への侵入は、ハイラが手にする宝玉から生じた強力な結界によって阻まれている。しかし、もしその宝玉を破壊できれば、
二人は覚悟を決め、決戦に挑む。そんな中、玉座に座るクビラが静かに立ち上がった。
「申し訳ありませんが、われわれにも都合がありまして。私はここで失礼させていただきます」
そう言い終わるや否や、クビラは闇に溶けるように姿を消した。
(俺たち以外に何か目的があるのか? こんな大規模なことを起こしてまで何をするつもりだ?……いや、今はそんなことを考えている場合じゃない)
笠井は雑念を振り払うと、現状の打破へと思考をシフトする。
「
「了解!」
「芦谷さんは月樹のサポートを」
”OK!”
「この状況でもなんとかなると思って? 随分と楽観的ね」
とハイラが笑う。
「いいさ、奴らの作戦に乗ってやる。クビラが役目を果たすまでは時間があるからさ」
「まあ、そうね。なら、少し余興に付き合ってあげましょうか」
ハイラは手に持っていた扇を宙に投げた。
回転する扇はまるで生きているかのように蠢き始め、華麗な孔雀の羽で飾られていた扇は、やがて機械仕掛けの鳥の怪鳥へと変貌する。
「この子は『
そして、ハイラは逢魔天暁の胸に赤い宝玉をはめ込む。それが完了すると、逢魔天暁は空高く飛翔し、雄たけびを上げる。
「さあ、始めようか」
シンダラの宣言とともに、笠井たちの姿が一瞬で消え、空中で激しい衝突音が響き渡る。
笠井はシンダラとハイラを相手取り、一進一退の攻防を繰り広げる。狛枝もまた、鳶法師へと変身した芦谷と共に逢魔天暁を追いかけていた。
シンダラが放つ斬撃を、笠井は風塵鴉鎚の一閃で相殺する。
「随分と成長したようだね」
と、シンダラが恍惚の表情を浮かべる。
「馴れ馴れしく語るな、ゲス野郎」
笠井の一撃はシンダラを吹き飛ばすが、すかさずハイラが割り込む。
スカートの裾をたくし上げたハイラの足は重火器に変わり、銃弾の嵐が笠井を襲う。
笠井は風の障壁を展開し、弾丸を弾き返す。
「お前の方がよほど下品だな」
と笠井が吐き捨てると、ハイラは宙返りし、攻撃の合図をシンダラに送る。シンダラの斬撃が風の障壁を切り裂き、笠井を後方へ吹き飛ばされる。
宮殿の柱に叩きつけられた笠井は、土煙の中から立ち上がる。
笠井が敵を睨むと、ハイラの顔に当たった攻撃の一部が、彼女の頬を抉っていた。傷から露わになったのは、機械の骨格であった。
ハイラの怒りが頂点に達する。
「よくもこの美しい顔を! ……今すぐてめえの臓物をぶちまけてやる!!」
「切れちゃったな」
とシンダラが呟く。
「舐めるな、ガキが!」
怒りに狂うハイラの全身から怖気がするほどの禍々しいオーラが立ち上る。
そして――。
「
その叫びとともに、ハイラの体は盛り上がる。ドレスが裂け、中から冷たい鉄の骨格が現れる。翼、鋭い爪、そして赤く光る双眸が不気味に輝いていた。
それはまるで飢えた機械仕掛けの龍であった。
「な、なんだ!?」
「我ら獣魔侵将の奥の手だ」
シンダラの説明の隙に、獣魔化したハイラが笠井へ猛然と襲いかかる。
その速度は目で追うことすら困難だ。笠井は経験でギリギリの回避に成功するが、左腕に深い切り傷を負う。
笠井の攻撃はハイラには通じず、ハイラの猛攻が嵐のように続く。
笠井は何とかハイラの攻撃を捌いていたが、その隙をシンダラが見逃すはずがなかった。
シンダラは寄生虫へと変化した右腕を、脇腹の傷口に侵入させた。
「これは、『
寄生虫の侵入によって、笠井は強烈な不快感に襲われる。
シンダラの高笑いが遠のく中、虫は笠井の精神世界へ潜り込んでいく。
意識が薄れていく中、笠井は誰かの声を聞く。
それは、はっきりと聞き覚えのある声だった。
「ふ、藤本……?」
笠井がその声に向けて意識を集中すると、人影が浮かび上がった。
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