第2話 僕
学校の裏の海に、人魚が出るらしい。そんな噂を聞いたのは、夏休み明けのことだった。
高三の先輩が、学校で行われている夏期講習の帰りに、ふらっと学校の近くの海に寄ったところ、人魚らしき影を見たらしい。
そんなの、嘘か見間違いに決まっている。
僕はその話を笑い飛ばして、すぐに忘れた。
しかし僕はその噂をすぐに思い出すことになる。なぜなら、噂好きな友だちに付き合わされることになったからだ。
それは放課後。隣の席のスズキが話しかけてきたのだ。
「おい、カトウ。人魚の噂聞いたか? 本当かどうか、見に行ってみようぜ!」
「やだよ、めんどくさい」
「いーじゃん。早く行こうぜー」
僕の抗議は受け入れられず、スズキと他、数人と一緒に、僕は半ば強制的に海へ向かうこととなった。
「はぁ」
僕の気分は最悪だった。
貴重な時間がこんなくだらないことに奪われるなんて、到底受け入れられない。
「なんだよカトウ。ワクワクしないのか?」
「別に」
僕は素っ気なく返した。早く家に帰ってゲームをしたい。
「ほら、着いた。じゃ、誰が一番最初にあそこまで行けるか勝負だ!」
スズキはいきなり走り出した。
「おい、待て!」
皆、スズキに続いて走り出す。
「あっ、ちょっと、待って!」
僕も慌てて走った。しかし砂浜はとても走りづらい。
「はい、一番はオレ!」
「いや、俺だった!」
「じゃあもう一回!」
僕は思わず提案した。僕は負けず嫌いだ。負けたままで終わるのは悔しい。
「じゃ、今度はあっちまでだ!」
「おう!」
その後、僕たちは何度も走った。走るのに飽きると、波で遊んだ。靴に砂が入ったり、濡れたりするのも構わず、全力で遊んだ。人魚を探すという目的を忘れて。
僕は、なんだかんだで海を楽しんでしまったのだ。
次の日も僕たちは海へ行った。
当たり前だが、人魚はいるわけがなかった。
しかしその後も、僕たちは海へ通った。理由は簡単。海で遊ぶことにハマってしまったからだ。子どもっぽい遊びだとは思いつつ、僕たちはやめられなかった。
毎日、走って濡れて砂だらけになって。
僕たちは全力で楽しんだ。
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