第36話
北見さんが斬られた。
情けない話、僕にはダイアブロスの動きがまったく捉えられていなくて。
でも
「別けて考えてたけど、一緒なんだね……」
そこから僕は戦闘を氷緒さんたちに完全に任せ、改変作業に没頭。
1人、また1人とやられていく中自分にできることだけに集中し続けた。
「クカッ、クカカカカッ。
とうとうお主一人になってしもうたのォ……。
真っ先に戦意を喪失するとは、お主が一番見込み違いだったようじゃ」
「……あァ?
僕は今、本気で怒ってるんだよ……。
勝手に作り上げた常識にみんなを巻き込んでしまった自分に、
「……ッ?!」
初めてダイアブロスに動揺が見られた、そんな気がした。
だが別に今はそんなことどうでも良いんだ。
「そう長くはもたないからさ……。さっさと終わらせてもらうよ。『魔装:剣界』」
異世界時代に作り出したものを、今の僕仕様に改変した魔法を発動。
僕の全身が白金に輝くフルプレートメイルで覆われ、身体が全能感にも似た力の奔流で満たされる。
「剣神様……?」
「いくよ」
訳のわからないことを言って呆けてるダイアブロスを無視し、数メートル離れていた距離を一歩で肉薄。
まったく反応できていないようだけど、お構いなしに光を纏う
鎧に深々と剣線をきざみ、次いでまったく同じ箇所目がけて
「舐めるなァッッ!」
我を取り戻したダイアブロスが応戦しようと槌斧を振るうけど、フラガラッハはまるですり抜けるように受け流しクラウソラスの剣線をなぞって切り裂く。
同じ箇所に受ければいかに頑丈な鎧とて受けきれず、浅くはあるが初めてポタポタと流血させるに至った。
「馬鹿な……なんじゃこの力は。こ、こんなことがありえて良いはずがないッッ!!」
「まだ余裕そうだね?」
再び懐に潜り込みクラウソラスを振るうと、死に物狂いといった様子で応戦するダイアブロス。
先ほどまでと構図は同じだが、立場は完全に逆転したものとなっていった。
「こ、こんな非常識なことが起こり得るのかッッ?!」
「自分の中の常識って、自分で思ってるより不安定で狭いものだよ」
「知ったふうな口を聞きおってッッ!!」
怒りの感情を顕にするも、防戦一方から抜け出せないようだ。
それならとさらに一段ギアを上げると、受けきれなくなったようで攻撃が当たるようになり鎧の端々が次々に削れていく。
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬぅうッッ!」
かろうじて持ち堪えている、そんな様子のダイアブロス。
でも僕は彼がまだ余力を残していること、実際にはそこまで追い込まれていないことに気づいている。
「いつまで遊んでるの? 何をしたいのか知らないけど、あんまり馬鹿にしてるとどうなっても知らないよ?」
魔力の損耗を抑えるために瞬間的にだけ出力を跳ね上げ背後に周りこむと、クラウソラスとフラガラッハによる高速の連撃を見舞う。
反応できていなかったダイアブロスの鎧背面にはいくつもの剣線が走り、ボロボロになった。
わざとクラウソラスとフラガラッハには出力を落としてもらい、僕自身も魔纒などを使っていなかったのでこの程度で済んでいるけど。
その気があったなら良くて重傷、ひどいと即戦闘不能だったであろう攻撃にダイアブロスは呆れたように乾いた笑いを浮かべた。
「クカッ、クカカカカカッ。
そうであるな、さすがにここまでやればもう良かろうて。
余計な雑事を持ち込んですまんかったのう、仕切り直しといくのじゃ」
眼光が鋭く光ったかと思えば、纏う雰囲気が一変。
今までの圧はあっても寒気がするような殺意はなかったものが、視線を受けるだけで全身を針で刺されたような錯覚を覚えるほど濃密なものに変わった。
僕としても背後に誰かしらがいることが確定できたので満足だし、あとは倒すだけと魔装の出力を上げる。
「終わらせようか」
「うむ。最後を飾る良い戦いにしよう」
静寂が支配し、張り詰める空気の中。
お互いから発している圧で床がきしむ音がした瞬間、僕とダイアブロスは動き出した。
おそらく傍から見れば二人とも消えたように見えただろうけど、実際にはただ高速で動いただけだよ。
攻撃がぶつかりあう瞬間だけ姿を現し、また消える。そうして各所で激しい剣戟の音を響かせながら、10合、20合とひたすら打ち合い続ける。
速度は僕のほうがやや速く、力はややダイアブロスが上。
手数では圧倒的に僕が上回るけど、技巧ではダイアブロスが上回るため有効打は与えらえない。
そんな一見互角のように見える戦いは、ハッキリ言って薄氷の上を歩いているような感じだった。
こちらは無茶をしてこれ、あっちはおそらくただ実力を出しているだけだろうからね。
勝負を焦って迂闊に動けば即座に負け、そうでなくても時間制限がつきまとう。
知ってか知らずか僕に合わせて真正面から下そうとしてくるからなんとかなってるけど、搦め手で来られたらかなりキツい。
「……ガフッ」
過ぎた無茶から来る反動に身体が悲鳴をあげ、少し吐血してしまいフルフェイスの口元にある空気穴から血が漏れる。
「安心せい、儂は真正面からぶつかることしか知らん。
残された時間もわずかのようじゃ、最後まで堪能させてくれ」
「もう勝った気でいるの? それはさすがに早計過ぎるよ」
さらに一段、身体のことなどお構いなしに出力を上げ僕は駆け出した。
跳ね上がった速度についてこれないダイアブロスは咄嗟に急所部分を守るように槌斧を構えるけど、僕はそれを見越して左肩部を剣を重ねて切り裂く。
出血はしたものの鎧に阻まれ予想より深くまで届かず、痛みで多少動きが鈍る程度だろう。
「クカッ、クカカカカカッ!
この状態でも刃が通るか。愉快、実に愉快よ!!」
確実に鎧の硬度が増していることから、どうやら魔力を通すことで防御力を上げられるタイプの魔具のようだね。
「本当にやっかいだね、こんなところに居て良い存在じゃないでしょ」
「それは否定できんな。
じゃが、恨むなら自身の不運をな」
「ほんとにね」
人によっては幸運なのかもしれないけど、僕にとっては確かに不運なんだろう。
彼を責めても何も解決しないので、口には出さないけどさ。
「まったく、その状態でよくそんな態度を取っておれるのう。
内臓は痛み骨はきしみ、下手すれば折れてるところすらあるのではないか?」
「そんなことは今関係ないからね、気にしてないよ」
「豪気なことよ。
ならば何も気にせず、ただどちらかが倒れるまで打ち合おうぞ」
フッと強く息を吐き出したかと思えば、ダイアブロスの姿がかき消える。
すぐさま上空へ飛び上がると同時、真下を槌斧が通りすぎた。
「『
「やはり知っておったのか。
失われた魔法じゃが、儂含め何人か使えるものはおるぞい、っと!」
空中で身動きが取れない僕に向かい、槌斧を突き出すダイアブロス。
刃先をなでるようにフラガラッハで軌道をそらし、そのまま柄を滑り降りながらクラウソラスを振るう。
光で刀身を延長させ右腕を狙うが、バク転からの蹴り上げで再び上空に放り出される僕。
「フラガラッハ!」
「なんのっ!!」
咄嗟にフラガラッハを投擲し追撃を阻んだものの、フラガラッハを弾いたダイアブロスは自身も飛び上がり僕に肉薄。
腹部目掛けて右拳が、受け止めれば左手の槌斧が。
クラウソラスで受け止めれば蹴りが飛んできて、負けじと僕も拳に蹴りにを繰り出した。
二人で落ちながら超近距離戦を演じ、落下してすぐにバックステップで距離をとる。
手元に戻ってきたフラガラッハを受け止め再び剣を構えると駆け出し、10合、20合とさらに激しく打ち合った。
押しているのは僕なのに、技量の差で決定打を与えられないまま無常にも時間だけが過ぎていく。
あと一歩、たったあと一歩がどうしても及ばない。
そして――。
「……ガフッ。……ハァハァ。……初めてこの能力値なことに哀しみを覚えたよ……」
「……そうじゃな。お主が全盛期の頃であったなら……儂など10分ともたなかったであろうよ。
本当に残念じゃ」
身体が限界を迎え、先ほどよりも多い量の吐血。
息も上がり肩で呼吸しながら地面に刺した剣にもたれかかる僕に、心底残念そうな声音でダイアブロスが呟いた。
「……でも。勝負は
「強がりを――いや、なんと言った?
僕たち、じゃと……? ッ?!」
僕の言葉に違和感を覚えたダイアブロスが、ようやく
「『
「……『
「『
「『
「『
全快まで回復した氷緒さんたちの、渾身の一撃の合体技。
僕との戦闘でボロボロの鎧では受け止めきれないと判断したのか、咄嗟に槌斧で受ける体勢を取った。
いくら全開の技とは言え格差があるので、当然ダイアブロスは少し押されながらも受けきってみせる。
でもそれは――。
「僕を忘れてもらったら困るな。『装双連斬』」
僕から注意がそれた一瞬をつき、肉薄からの最後の力を振り絞った連撃。
さすがと言うべきか反応してみせたダイアブロスだけど、受けきることは叶わず全身を切られて膝をつく。
そこで僕の意識は途切れるのだった―――。
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総合の週間ランキングで100位入りを果たした……?!
みなさまのお陰です、本当にありがとうございますー!!
1章完結まで走り抜けますので、少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたら☆☆☆やフォローで応援いただけるととても嬉しいです!
みなさまの応援が力になり、執筆のモチベーションにつながるのでぜひ!
以後も更新はしていく予定なので、今後ともよしなに!
別作品もいくつか連載中なのでそちらもよければー!!
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