12.フォトコンテストの結果は……
それぞれ撮影した写真をフォトコンテストに応募して一ヶ月ほど。
結果発表は、クリスマスだって! もう二学期は終わっていて学校には行っていないから、二十五日はお昼から光悠堂でパーティーをしながら結果発表を待つことに。フォトコンテストの結果発表は、夕方から動画サイトで生配信されるんだよ。
結果発表はこわいけど、クリスマスパーティーは楽しみ!
今日も光悠堂に集合したけど、悠翔くんは審査結果の発表が行われる会場に行っているため、朝から留守にしている。
「結果発表、この一ヶ月ずっとそわそわして待っていました~」
紙コップを並べながら、レナちゃんが興奮のせいかピンク色になった頬で言う。
「私も! 昨日はなかなか寝られなかったよ」
みんながそれぞれ持ってきたチキンやピザを並べながら、私はうなずく。
「僕は一週間くらい前から緊張で……期末テストも上の空だった」
里吉くんが二リットルペットボトルのジュースを抱えながら、軽い口調で言う。
最初に会ったときは、お互い目を合わせられなかったのに。今はいっしょにクリスマスパーティーの準備をしている。不思議だなぁ。
「遅れてごめん」
真琳ちゃんが、カランコロンとベルの音をたてながら光悠堂のドアをあけて入ってきた。
「ママの手作りケーキ、持ってきた」
「わぁ、たのしみ!」
お店でケーキを買うか悩んだけど、真琳ちゃんのママがケーキ作りが趣味だということでお願いしたよ。
箱を開けてみると、フルーツたっぷりのタルトが出てきた。キラキラ輝いていて、宝石箱みたいなフルーツタルト。
「切り分ける前に写真撮ろう!」
私と里吉くんが一眼レフ、レナちゃんと真琳ちゃんがスマホを取り出して撮影会!
フルーツタルトがキラキラして写るよう、角度を変えながら撮影した。
食べ物をおいしそうに撮るコツも、やっぱり光。キラキラさせることでみずみずしさを表現するといいんだよ。
ケーキは結果発表のあとに食べようということで、冷蔵庫に入れられた。
いよいよ、クリスマスパーティーのはじまり!
「じゃあ、みんなでかんぱーい!」
つい二ヶ月くらいまえまで、まったく交流のなかった里吉くんと真琳ちゃん。そして私とレナちゃんの四人でクリスマスパーティーをするなんて、考えもしなかった。
カメラが繋いだ縁なんだな……そう思うと、なんだかしんみりしてきちゃう。
「幸穂さん、緊張してる?」
黙っていた私を心配するように、里吉くんが覗き込んできた。
「それもあるけど……カメラがきっかけでみんなに出会えてよかったなって思ってたんだ」
私の言葉に、里吉くんも真琳ちゃんも、そしてレナちゃんもうなずいた。
「僕も幸穂さんや……みんなに出会えて、みんなでフォトコンテストに挑戦して。すっごい楽しかった」
「わたしも混ぜてもらえてうれしいです」
真琳ちゃんはなにも言わなかったけど、色っぽい笑みを浮かべながら私にむけてシャンパンのグラスを持ち上げて見せた。……ほんとうに小六? グラスの中身は子ども用のシャンパンだけど。
私はちいさく頭を振って「真琳ちゃんは小六」と頭の中で唱えた。でないと、セクシーな大人の女性だと勘違いしそう。
「フォトコンテストでいい結果が出なくても悔いなしだな」
私がネガティブなことを言うと、里吉くんはぶんぶんと首を振った。
「幸穂さんの写真はとってもすてきだから! だいじょうぶ!」
力強い言葉に、私は顔が熱くなる。
「モデルもいいしね」
真琳ちゃんの言葉に、里吉くんは自分がモデルをつとめたことを思い出したのか、顔を真っ赤にした。
「あ、そうか。僕がモデルか……」
「それを言ったら、里吉くんの写真のモデルは私だし……」
なんか、気まずくなっちゃった。
「モデル勝負で言えば、レナがいちばんいいかもね。元プロをモデルにできたんだから」
気まずくなった空気を変えてくれようとしたのか、それとも無意識なのか、真琳ちゃんがシャンパンを飲みながらレナちゃんに話しかけた。
「そうですね! 真琳ちゃんはすごいです!」
「プロのモデルにはかなわないって」
ほっとした思いで、真琳ちゃんの話に乗っかる。
「今は無職だけどね。悠翔、まだ私を専属モデルにしてくれないから」
悠翔くんは、真琳ちゃんのマネジメント業務にまで手が回らないことを理由に専属契約はしていないらしい。
真琳ちゃんの押しが強くて、こわいって思っているのもありそうだけど……。はたして、真琳ちゃんの気持ちを悠翔くんは受け止めてくれるのか。
カメラのこと、学校でのことなどをいろいろ話していると、フォトコンテストの結果発表の時間が近づいてきた。
テーブルの上を片づけて、タブレットで動画配信サイトの生配信チャンネルにつなげる。
【生配信開始までしばらくお待ちください】
画面にうつる文字を見ると、いよいよなんだなってドキドキしてくる!
時刻は夕方四時。画面が切り替わり、フォトコンテスト結果発表の会場がうつされた。悠翔くんによると、一流ホテルの宴会場にて行われているらしくてとっても豪華。カメラの新製品発表会がメインイベントで、フォトコンテストの結果はその前に発表すると司会の人が説明している。その後ろで、悠翔くんの姿も見つけた! 椅子に座って、ちょっと緊張した面持ちで前を見ている。
「悠翔、カメラ写りがいい」
真琳ちゃんはうっとりしている。
『それでは、フォトコンテストの結果発表にうつります。フォトグラファーであり、動画クリエイターの上村悠翔さん、お願いします』
悠翔くんが呼ばれて、マイクの前に立った。
『上村悠翔です。まずはじめに、青春部門の発表です』
「わ、もう発表だ!」
「こころの準備が!」
私たちが慌てていることなど知らない悠翔くんは、話を進めていく。
『青春部門は、優秀賞五名、最優秀賞を一名に選定しました』
全部で六人か。選ばれたらいいな……でも期待しすぎるとだめだったときにつらいから、ほどほどに。
「優秀賞に選ばれた五名は、こちらです!」
悠翔くんが、うしろのスクリーンに向けて手をあげると、五枚の写真が写った。
「あ、真琳ちゃんが!」
「幸穂さん!」
レナちゃんと里吉くんが、同時に大きな声を出す。
スクリーンに映し出された五枚の写真のなかには、清涼飲料水を飲む真琳ちゃんと、横顔の私もうつされていた。
「やりましたっ! うれしいです!」
「モデルがいいからね。まあ、レナも撮るのがうまかったよ」
レナちゃんは、真琳ちゃんに抱きついている。真琳ちゃんはまんざらでもない表情で、背の低いレナちゃんの頭を撫でていた。
里吉くんもうれしそうに私の顔を見たけど、なにも言わなかった。
私が撮った写真は、ない。
最優秀賞かも……? いやいや、そんな都合よくいくわけないよ。
どんよりしている私に気付いて、レナちゃんと真琳ちゃんはよろこぶのをやめてしまった。
「ご、ごめん、気を遣わせて……」
私は作った笑顔で、ふたりに声をかける。
「幸穂ちゃん、まだ最優秀賞の発表があります」
「私をモデルにして選外なんて認めないから」
「……そうだよね、うん」
里吉くんはなにも言わなかったけど、力強くうなずいてくれた。
動画の中で、ひきつづき悠翔くんが話している。
『青春部門は、中高生のみなさんに送ってもらった中から選出しています。どれも、きらきらした青春を切り取って撮影してくれて、甲乙つけがたかったです。優秀賞からもれた人も、ぜひまたチャレンジしてほしいなと思います。では、最優秀賞の発表です』
落選しても、落ち込むのはよそう。たのしくケーキを食べて、もっと写真がじょうずになるよう練習して勉強すればいいんだから。
自分をなぐさめる術が、頭の中を高速で行き交う。
ふるえる指をおさえこむように、私は手をぎゅっと握った。
『最優秀賞は、こちらです』
再び悠翔くんが、うしろのスクリーンに手をあげる。
ぱっと写った写真は……。
「夕焼け空……」
あの日、夕焼け空の下で撮った私の写真だった。
「幸穂さん!」
「幸穂ちゃん!」
「すごいじゃない、幸穂」
信じられなくて、なんどもまばたきして、画面を見つめる。
どうやら、見間違いでも似た写真でもなく、私が撮った里吉くんと真琳ちゃんのシルエットだ。
「わ、わ、わ……私の!」
「おめでとう幸穂さん!」
「すごいです、幸穂ちゃん」
里吉くんが、私の手をつかんでぶんぶん振る。レナちゃんが抱きついてきて、真琳ちゃんは相変わらずクールにシャンパンを飲んでいて。
すごいことが、起きてしまったかも!
『実は最優秀賞の写真を送ってくれた「ゆっちゃん」さんは、ぼくのイトコで』
悠翔くんの声に、私たちはぴたりと静かになる。
何を言うのかな?
『今日の最終選考会で、ほかの審査員のみなさんに「この写真を撮った人は、ぼくのイトコなので審査できません」とお伝えしました。とてもすばらしい写真だけれど、ぼくが審査をすると身内びいきになってしまい、公平に審査できないと思ったので。でも、みなさんが「最優秀賞にふさわしい」と言ってくださったので、最優秀賞に選出しました。おめでとう、ゆっちゃん!』
悠翔くんの言葉に、私は涙があふれてきた。
うれしい!
『続きまして、風景部門の結果発表にうつります。発表は写真家の――』
私たちは、ほかの部門の受賞写真を見ながらケーキでお祝いした!
大人が撮る写真は私たちとは別格のすばらしさだった。ここまで到達するにはどれくらいの時間がかかるんだろう。まだまだ、高みを目指していかないと!
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