第2話 変態幽霊とぴちぴちJK

「それで、いつまでこの家に居座るつもりなのよ」


 幽香ちゃんと出会った翌日の朝。

のんびりと朝食をとっていた俺に彼女がそう言ってきた。うん、この味噌汁うまい。


「いつまでって、こんな可愛い女の子が一人暮らしするなんて危ないからね。ずっと見守ってあげるよ」

「いや、アンタがいるほうが危ない気がするんだけど!」

「心外だなぁ…。純粋な気持ちだよ?」


 もう一口、味噌汁を飲む。


「純粋に見守っていたいだけなら、これは何かしら?」


 目の前に出されたものに驚いて、味噌汁を吹き出しそうになる。


「い、いやぁ……なんだろうな、それ…」


 やっべー!浴室に仕掛けてた小型カメラじゃん!バレるんだったら、せめてデータだけでも回収しておくべきだったー!

 俺の目の前でカメラを握りつぶし、幽香ちゃんが訊いてくる。


「——アンタ、盗撮しようとしたでしょ?」

「は……はははは、は、は……。ほ、ほら!浴室で何かあった危ないから念のため!ね!」


 すると、彼女はテーブルから身をのりだし、俺の頭を鷲掴みした。


「本音は?」

「はい、ピチピチJKの入浴シーンをみようとしていました…」

「…次やったら容赦しないからね」


そう言うと、彼女はパッと俺の頭を離した。


「あれ?怒らないの?」

「まぁね。今回は見られる前に気づけたから、見逃してあげるわ。——ただ、次やったら分かってるかしら?」


 毎度お馴染みの槍を俺の目の前で構える彼女はなぜか楽しそうにしていた。——この子、ドSだ!


「もうカメラなんて仕掛けません、勘弁してください…」

「分かったのならそれでいいわ。早くご飯食べましょう」


 掛かったなJK!カメラはもう仕掛けられないが、『風呂を覗くな』とは言われていないから次は俺が直々に見に行ってやる!


「それで、アンタに訊こうと思ってたんだけども、私の仕事に協力するって昨日言ってたわよね?そもそも、それを聞いたから仕方なく連れてきたんだけども、アンタって除霊とか悪霊退治とかできるわけ?」

「——できないよ?」

「はぁ⁉︎」

「いや、当たり前でしょ!幽霊の俺が除霊なんてできたら驚きでしょ!しかも、悪霊退治なんて聞いてないよ!」

「清々しいくらいに開き直るやめてくれない?アンタを連れてきた私がバカみたいに思えてくるから…」


 彼女はそう言って深くため息をつくと、何か考え事をし始めた。


「アンタ、この槍使える?」

「そんなわけないじゃん。——バカだなぁ、幽霊の俺がそんな道具使ってたら命削るだけだよ。まぁ、もう死んでるんだけどねー」

「はぁ…。もうっ、分かったわよ!——まさかアンタみたいなヤツにこれを使わせられるとは思わなかったけど……これに憑きなさい」


 そう言って渡されたのは、餅を叩いて伸ばして無理やり人型にしたような人形だった。


「これに取り憑いたらどうなるの……?」

「それがアンタの肉体になるのよ。それは私たち巫女に一つずつしか渡されない貴重な道具なんだから感謝してよね」


 幽香ちゃん…わざわざ俺のためにそんな貴重な道具を使ってくれるなんて…。


「——やだね!こんなダサい人形に取り憑くなんて拷問じゃないか!」

「はぁぁ!?文句なんて言ってないで、いいから早く取り憑くのよ!ほら!」

「うわっ!ちょっと、乱暴はダメだよ!あ、あぁんっ!」

「変な声出すな!」


 餅人形の押し付け合いをしていると、とうとう俺の額にムギュッと人形を当てられてしまった。

 すると軽い爆発音とともに煙が出て、自分の肉体がハッキリと目に映った。

 ——透けてない。

 慌てて洗面所の鏡に自分の姿を確認しに行くと、そこには少し長い金髪をした細身のイケメンがいた。


「——俺だ」

「結構イケるでしょ?それは取り憑いた魂の持ち主と同じ形に変形するのよ。ま、礼には及ばないわよ」


 幽香ちゃんが少し得意げに、あの餅人形について語り始めた。


「本当だよ…自分の姿がハッキリ映し出されるなんて…。これだと、今までみたいに女湯を覗きに行けないじゃないか!」

「……は?」

「幽霊って、言わば透明人間なんだよ!?そんなの女湯を覗くしかないじゃん!それなのにこんな肉体があったら…!」

「アンタねぇ、それ、言ってること最悪。ある意味アンタにその道具使ってよかったわよ…。私まだご飯食べ終わってないから、じゃあね」


 俺を挑発するかのように手をヒラヒラ振ってから彼女はリビングに戻った。


「ちっくしょう…。絶対に、幽香ちゃんの入浴シーン覗いてやるからなぁぁ!」

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