少年少女よ、iを抱け!
雪兎 夜
第一章
第0話 Once upon a time
「なんだあれ」
少年は大都会の空に、ぽっかりと開く正体不明の穴を見上げ、呟いた。
それはブラックホールのように禍々しく、ビル1棟を余裕で呑み込めてしまいそうな程の大きな穴だ。
しかしながら、流石は東京。偽物は、まるで
少年は、そう結論付けようとしていた。
直ぐ近くでは、2人目の少年が予想外の事態に困惑した表情を浮かべる。
その隣で、普段はゲラゲラと笑い声を響かせている笑い上戸な3人目の少年に異変が起こっていた。
彼は細かく指先を震わせながら、無言のまま、ぽっかりと開いた穴の方を指し示す。
その先を辿るように、少年達は目を凝らして空を見る。それは、毎日見ている色とは程遠く、先程のブラックホールのような場所から姿を現した。
「宇宙人?」
宙に浮かぶ人らしき者は全身から眩い光を放つ。彼等は思わず目を細めたが、少しずつ光に慣れてきて、やっとその姿を捉えることが出来た。
頭部よりも遥かに大きい三角の帽子、風にひらひらと揺れる黒いローブ。細かな装飾として赤の差し色や金の刺繍が施されており、神々しさを演出する。
突如、頭上で起きた不可思議な現象に謎の人物が出現した交差点にいた人々は、その場に立ち止まったり、スマートフォンを向けたりなど様々な反応を見せていた。中には映画やドラマの撮影かと話す者もいる程だ。
しかし、少年達は徐々に気付き始めていた。
これはフィクションやCGでは無い。紛れもない
「この国を治める者。全国民達よ。聞け!
我は大魔法使い、
ハキハキと話す彼女の声は、拡張機らしき物が見当たらずとも、通常の声量だけで十分、都市全体に響き渡った。
同時刻、たまたま交差点にいた配信者がこの状況を面白がり、配信開始ボタンを押していた。
コメント
:「わこつ」
:「今北。有識者、説明ヨロ」
:「大魔法使いだってw」
:「これってCGとかARって奴?」
:「おばあちゃん。おとぎ話は終わったでしょ」
:「どうせ合成だろ」
:「魔法はデタラメ。おつ」
あっという間に拡散された情報に群がるように視聴者とコメントは、どんどん増加していく。配信者もこの状況に味を占めて、宙に浮かぶ人物に、さらにズームをかけていく。
大魔法使いと名乗る彼女は、困った様子で頬を掻きながらも、こうなることを予想していたように悠然とした態度で言葉を紡いだ。
「……やはり、少しは説明が必要か。
今し
そう言った灯は、ゆっくりと目を瞑ってイメージを集中させると、再び瞼を上げて右手を前に出した。
「──ならば、証明しよう。我の
彼女の目の前には1秒も経たず、直径100メートルはゆうに超える眩い光が生まれた。周りには凄まじい風が吹き荒れ、小型の太陽のような塊には、真っ白な光の帯が何本も絡み付いていく。
すると、灯は躊躇うこと無く、出していた右手を使って邪魔な埃を祓うような感覚で軽く手首の関節を上に曲げた。
手の動きに従って上昇していった光は、交差点にいた人々の遥か上空で弾け飛び、透明な雨となって降り掛かった。
絶え間無く降り注ぐ光は、まるでレースのカーテンのように美しかったが、それは肌に触れた瞬間、直ぐに憎しみに変わった。
全ての絵の具が混じり合ったような見たことが無いグラデーションを描く空。
跡形も無く崩壊し、瓦礫の山が幾つも積み重なるビル群の残骸。
あちこちで地面がひび割れ、土が見えてくるほど剥き出しになったアスファルト。
何十メートルもの体格でこちらをじっと見つめてくる、優に100は超える怪物。
その群れの先頭、一際大きい怪物の前に立つ小さな娘と足元に転がる1人の少女。
身に纏う服はボロボロに破け、真珠のような肌も砂まみれ。これで出血していないなんて、まるで魔法のようだ。
そして、人々は嫌でも察してしまうだろう。今見た情景は、魔法で再現された彼女の記憶であり、いずれ日本に訪れる未来だと。
喧騒は静まり、強い衝撃で体が固まって動けなくなっている様子を見た大魔法使いは、サッと手を振って魔法を解く。
一瞬で元の交差点に戻すと、灯は再び声を張り上げながら、こう宣言した。
「──我、大魔法使い不知火灯は、君達が今、目にした怪物を倒し、
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