私のお嬢様は異世界転生悪役令嬢らしいです。
友斗さと
序章
さわやかな風が吹き、青空広がる小春日和の今日、『華姫』就任の式典が開催されていた。会場には多くの人々が集まり、今か今かと華姫の登場を待っていた。
クレア公爵令嬢とそのメイドのサラも例外ではない。賑わう会場の最前列で、二人も華姫の登場を待っていた。
「クレアお嬢様。紅茶でございます」
「あら、ありがとうサラ」
そう言って紅茶を受け取るクレアは優雅そのものだった。
クレアは白い肌にエメラルドグリーンの瞳、プラチナブロンドの髪を持ち、百合の花に例えられる程美しい公爵令嬢であった。その美貌と身分に相応しく、姿勢良く穏やかな表情で座る姿はまさに令嬢の鑑。クレアの凛とした態度にサラはいつも惚れ惚れしてついつい熱い視線を送ってしまう。
そんなサラの視線に気付いたクレアは、優雅に微笑んだ。
「華姫様はまだなのかしらね」
「待ち遠しいですね」
華姫とはありとあらゆる草花に恵みを与える不思議な力を持った存在で、この国では聖女のように崇められていた。そうして今日は、数十年ぶりに現れた華姫を祝うための式典が行われるのだ。
この式典には、王国の王族貴族は全員出席している。そんな貴族の中でも指折りの上位貴族であるカサブランカ家。その末娘であるクレア=カサブランカも当然出席している。
しかし、クレアは突然ビクッと体を震わせた。
ーー『花の都』と呼ばれる王国がある。
小さな島の、あらゆるところに咲き誇る色とりどりの花達に囲まれた国の名は、インフラワーニティ王国。
この王国にしか咲かない花々には、人々に様々な奇跡をもたらす不思議な力があると言う。ーー
そんな言葉がクレアの頭の中によぎったのだ。
初めて聞いた声、初めて聞いた内容なのに、クレアは何度も何度も聞いたことがある気がした。
クレアの様子にいち早く気がついたサラは、すぐに声をかけた。
「お嬢様いかがなさいましたか?」
「え……ええ。ちょっと気になることがあっただけよ。気にしないで」
サラはいつも通りのクレアの様子に安心して、一歩後ろに下がった。
さすがのクレアでも緊張しているのだろうと、サラは思った。華姫は稀にしか生まれない貴重な存在。長い歴史の中でも片手で数えられる程度しかいない華姫にお目にかかれるのだから緊張するのも無理はない。
サラはクレアの様子をつぶさに観察し、少しの変化にもすぐ気がつけるよう目を光らせることにした。
ーー嗚呼。クレアお嬢様は今日も素敵です。
凛と佇む麗しの公爵令嬢・クレア。いつも冷静沈着なクレアを、サラは心酔していた。そのため、式典のために飾られた花々もクレアお嬢様を引き立てる装飾にしか見えない。
サラからそんなキラキラとした目で見つめられていることに気付いていないクレアは、平静を装いながらも先ほどの声のことが気になってしょうがなかった。
どこかで聞いたことがあるのに。
どうしても思い出せないのだ。
その時、一陣の風がさっと吹き花びらが会場に舞った。風さえも華姫を祝福するのかのような光景にクレアは目を丸くした。
ーーそんな不思議な花に殊の外好かれ、花の奇跡を呼び起こしたり、新たな奇跡の花を生み出したりできる存在が、この王国に時折生まれる。
その存在は、『華姫』と呼ばれていた。ーー
これは。
今クレアの目の前で起きているこれら全ては、日本の女性たちの間で流行り、アニメ化、映画化もされたライトノベル『華姫フェアリーテイル』の世界そのものだ。
クレアが前世で何度も何度も見返した『華姫フェアリーテイル』のアニメオープニングが今目の前で繰り広げられている。
そのことに気が付いて、さっと顔色を悪くした。
「サラ……」
クレアがサラに声をかけると、すぐにそばに来てくれた。
「お嬢様。気分が悪いのですか?」
真っ青なクレアの表情にサラは驚きを隠せない。ここまで取り乱したクレアを見たことがなかった。
「どうしましょう、サラ!私……私、悪役令嬢だから、破滅してしまうわ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます