第17話 風雲 魔王城!

「風魔ルールだって!?」


『風雲 魔王城!』ルールを提案した途端、ドワ女リーダーのトロちゃんがブチギレた。案の定って感じで。


「あたしは伝説の金盞花きんせんか 晴子はること、七星ななほし 洲桃すももと戦いに来たんだ! アスレチックをしに来たんじゃないんだよっ!」


「まあまあ。バトルありのルールは、いずれそっちのホームでやろうよ。それよりさ。このアトラクションルールを突破したら、あんたたちは名実ともに、ウッドエルフより強いってことが証明される」


 そうはるたんから提案されて、トロちゃんも渋々納得した。


「そっかー、風魔ルールか。あたし、どうしようかな」


 せっかくドワーフが来るというから、やる気に満ちていたのだが。


「あんたも参加したら? ウッドエルフのヤバさを、身をもって知るといいよ。落とし穴みたいな落下ポイントとかはあるけど、どれだけ落ちても死なないし、制限時間以内なら何度でもやり直せる」


「マジで? じゃあ、やってみるかな」


 たしか風魔ルールは、「制限時間内ならどれだけ落下しても、チェックポイントから復活できる」はず。


 アトラクション系ダンジョンがあまり得意じゃないから、この仕様はありがたい。


 ていうか、いつのまにアトラクション系のトラップなんて仕掛けたんだろう?


 ダンジョンマスターが内部の構造を丸ごと改装できるのは、せいぜい三日が限度だったはず。

 しかしデリオン姫は、それを一晩で終わらせた。しかも本人は、徹夜なんてしていないらしいし。


「自信がないのだ」


 当のデリオン姫は、ダンジョン作りにおいてベテランすぎるドワーフ学園に、ビビっている。


「心配ないよ。ここで自信をつけていこう。きっと勝てるよ」


 はるたんが、ルールの変更を提案する。


「制限時間はなし! モモも並走することになったから。モモに勝てたら、あんたらの勝ちとする」


「そいつはいいね」


「ただ、妨害はNGなんで、そのつもりで」


「……わかったよ。このトローゼ・フィングス、卑劣なマネはしないさ!」


 ユリ園のスタート地点に、トロちゃんが立つ。


[【風雲 魔王城】のルールが適用されます。これにのっとって、ダンジョン【ユリ園】の内装が新たに形成されます]


 アナウンスの後、ファンシーだったダンジョンがその真価を発揮した。

 

「うわ、なにこれぇ!?」


 いたるところに、円盤状の回転床が設置されている。円盤は、教室の床くらい広い。それも平坦ではなく、斜めに置かれている場所も。


 円盤の下は、水場になっている。プールの上で、競争するのかよ。


「ダンジョンって、こういうこともできるのか」


 風魔形式のダンジョンって、どうやって作っているのだろうかと思っていたが。


「そうだよ。ダンジョンってのはいわゆる『こことは別の次元』として形成されているからね。いくらでも、構造を変え放題なんだ」


 殺風景なダンジョンの作りしか経験していなかったため、新鮮な気持ちになる。


「デリオンと綿毛、二人は実況をよろしくね」


「了解したのだ!」


 いつの間に作ったのか、実況解説席が設置されていた。これも、本家テレビ番組と同じである。


「それでははじめるよ。モモより遅かった人が脱落だからね。では第一ステージ、スタート!」


 はるたんが、合図をした。


 同時に、あたしたちもスタートする。


「さあ、第一ステージ『くるくるダンジョン』が始まったのだ」


「回転する床を、飛び跳ねて進んでいくルールです。姫! 『負けたら【ユリ園】ダンジョンを明け渡す』ルールですが、モモさんは勝てそうですか?」

 

「わからないのだ。公平にするため、モモちゃんにもダンジョンの内容は教えていないのだ」


 そう。あたしもこのダンジョンの仕組みはわかっていない。

 だからこそ、燃えるってもんだ。


「よっしゃいくぞどぅわああ!」


 さっそく、あたしは回転床に足をすべらせて落下した。


 一瞬で、スタート地点に戻される。制服も、即座に乾いた。


「ああ、風魔ってこうなる仕組みだよな」


 大昔の本家風魔ルールだと、泥の中に落とされるんだよな。


「姫! さっそくウチのエースが落ちちゃいましたよ!」


「緊張しすぎなのだ。うわー、ドワ女のみんなもドボドボ落ちていってる。おもしろいのだ」


 デリオンと綿毛が、ゲラゲラ笑いながら様子を見ている。


「まあ、焦らない焦らない。他の選手たちも、続々と転落しているから」


 スタート地点にいたはるたんが、あたしに声をかけてきた。


「でも、あいつは粘ってんじゃん!」


 あたしは、円盤にへばりついているトロちゃんを指差す。


 何度も落ちそうになりながら、トロちゃんが必死で斜めに設置された円盤にしがみついている。


 サブリーダーのパニさんが、手を貸そうとして腕を引っ込めた。

 

 風魔ルールは、他の選手への干渉は禁止である。敵の邪魔だけではなく、味方を手助けしたら一発アウトなのだ。

 

 どうにか、自力で這い上がってきた。


 そのまま、ゴールへ。


「ああ、やっぱり体幹がいいやつは強いな」

 

「あんたも、似たようなもんでしょうが。いけるっしょ」


「まあな。第一ステージは、様子見だから。ぼちぼちいくさ」


「行ってきな」


 はるたんに見送られ、あたしは猛ダッシュする。なんとかビリから一〇番目くらいで、ゴールした。


 第一ステージは、二〇名のドワ女が生き残っている。

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