業界の輪廻

真田紳士郎

第1話






 初めてその姿を観た瞬間、

 私は彼女に釘付けになった───。


 ステージ上で光り輝いている彼女から目が離せなくなったのだ。




 週末のライブハウス。

 『最近の「」がアツイ!!』という週刊誌の記事を目にして、無趣味な私にはいいかもしれない。家と会社を往復するだけの単調な暮らしを変えられたらと思い、イベント会場へ足を運んでみることにした。


 そこで私は彼女と出会ったのである。


 彼女を目にした時、一人だけ違って見えた。

 彼女自身からとてつもない輝きを発しているのを感じたのだ。

 アイドルとはこんなにも凄いものだったのか!

 私はもう動けなくなってしまった。


 間奏中、ダンスパフォーマンスをしている彼女とふいに目が合う。

 私の顔を見るなり彼女は口を開けて「あっ!」と大きな反応を示したのだ。

 まるで友人でも見つけたかのように、パァァッと輝いた笑顔を私に向けてきたのである。

 その仕草に私の胸は激しくかき乱された。


 ライブが終わった後にはロビーで特典会というものが行われる。チェキ券を購入すれば誰でもアイドルとチェキが撮れて会話を出来るらしい。

 不慣れながらも、私はスタッフの説明を受けて券を入手した。

 こういったイベントに参加するのが初めてで、自分が周囲から浮いた場違いな存在なのではないだろうか、といささか不安だった。


 列が進むのについていきながらライブ中の出来事を思い出す。

 彼女が私に見せたあの愛くるしい笑顔が忘れられない。

 あれは一体どうして?

 真意を彼女に問いたい。

 そんな風に思い返しているうちに、いよいよ自分の順番が巡って来た。

 

 インスタントカメラを持ったスタッフにうながされ、私は緊張しながら彼女の横に立つ。

 彼女は満面の笑みで私を迎えてくれた。

 そんな彼女の隣で私はピースをするのが精一杯だった。  

 撮影が終わるなり、彼女は私の方へと向き直り両手をぎゅっと力強く握ってきた。


「ねぇ! 久しぶりなんだけど! 元気だった?」


 彼女は私に対して昔からの友人のように接してくる。


「ずっと逢いたいって思ってたんだよ!? 寂しかった。今までどこ行ってたの?」


 なおも彼女は自分のペースでマシンガンのように喋り続けている。

 その瞳は透き通るように綺麗だった。

 いやいや、見惚みとれている場合か。

 もしかしたら彼女は、私を知り合いの誰かと勘違いしているのかもしれない。

 意気揚々と語り掛けてくれているところに申し訳ないが、私は一度両手を彼女の眼前に突き出して会話を制した。


「あの、悪いんだけど」

「ん?」

「さっきから私のことを誰かと間違えていないかな? 私と君は今日が初対面だと思うんだけど……」


 私は彼女の話しを遮りそう伝えた。

 言われた彼女は一瞬キョトンとした表情で止まってから、あっけらかんと笑い出した。


「なにとぼけたこと言ってるのよ、もう~!」


 彼女は笑いながらバシバシと私の肩を馴れ馴れしく叩いてきた。

 こちらが呆気に取られていると彼女は曇り一つない澄んだ瞳で、



「私たち、で出逢ってるじゃない」



 そう大真面目な表情で私に言った。


 前世……?


 私はなにか冗談を言われたのかと思ってしばらく黙っていたが、

 様子を見る限り、

 どうやら彼女は心から本気でそう言っているようだった。






 彼女が心配だ!!!











・─・・─・・─・・─・・─・・─・



【前世】


 主にアイドルや配信者等の間で使われる用語。

 前に所属していたグループや、旧芸名での活動のことを「前世」と表現する風潮がある。



・─・・─・・─・・─・・─・・─・




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