第27話 祝福と栄転


波乱の幕開けのようなパーティーだが、しかし陛下はまだ冷静だ。


「みな、静粛に。あとそこのご婦人を静かにさせてくれるか」

と国王陛下が王妃であったエスメラルダに申し付けると、エスメラルダさまは突如口をぱくぱくさせるものの声は飛んでこない。


更には王国騎士の格好をした男性たちに取り押さえられてしまった。


――――どう言うことだろう?と、フィーを見れば。


「ふふっ、よい魔道具だ」


「やっぱり魔道具なのね。作ったひとにものすごく心当たりがあるのだけど……どういうものなのしら」

ろくでもないことに使うと言うのは、あの禍々しい宝石で分かる。しかし……正確な性能までは説明できない。


「首は、隷属の首輪。腕は必要な時は両手を縛り、不要な時は自由にする手枷。足は、有事の際、影踏み効果で逃げられなくする足枷」

えっげつなぁ……。よくやるわね……。ま、ひとりは確実に製作者がぶちギレることをしたのだからそのえげつなさも納得できる。

そして王太子殿下たちも、多分絡んでいるわよね。何せ王太子殿下とは従兄弟同士なわけだし。


「そりゃぁそうよね」

今の元王妃さまからすれば当然の処置だ。あの黒い輪っかについている宝石のような物はリモコン操作するための魔石ってことか。宝石のようで禍々しかったのは、宝石のように見えて魔力を宿す石。それも闇属性の魔力を宿す希少なもの。しかしあれの製作者は自らそれを生成できるため、空の魔石さえあれば作り放題だ。


「因みに魔石を砕いた場合は枷同士がコントロールを失い、互いに非対称のものとくっつく。例えば足首と首、手と足首。複数人が一気に壊した場合は、時には他人の枷にまでくっつきコントロール不能となる」

さらにえげつないわねー……。マリーアンナ以外は確実に彼の従兄弟の指示よね。


そして国王陛下が更に続けられる。


「みなには先んじて婚姻を発表した王太子のマティアス、そして王太子妃のクレアだ。みな、よろしく頼む」

と、国王陛下が述べられるとマティアスお兄さまとクレアお姉さまが軽く会釈する。


ホール内は拍手と歓声に溢れるが、向こうでヴィクトリオとマリーアンナが騒ぎ立てる。


「ちょっと待ってください……っ!ラディーシア王国の王太子になるのは私です!そしてその女が王太子妃とはどういうことですか!」

「そうよ!王太子妃に……っ、王妃になるのはこの私よ!何でそんな変な髪の女が私を差し置いて王太子妃になるのよ!」

変な髪って、クレアお姉さまの髪は、とてもきれいなのに。シャンデリアの光に照らされるとまるで宝石のように七彩の輝きを放つのだ。

そして国王陛下への口のききかたも知らないあなたが王太子妃や王妃になったら、それこそ元王妃の二の舞じゃないの。


「やれやれ、私の話を妨害する権利はないと先ほど伝えたが。やってくれるか?」

そう国王陛下が言うと、すかさず王国騎士の格好をした男性たちがふたりを取り押さえる。ふたりは口をぱくぱくしているが、元王妃さまと同じく首輪の効果で声を出せなくなっているのだろう。

そして王国の騎士はないのに、国王陛下の言葉に従うとは。

そして彼らがあの魔動具のリモコンを持っている。


あの代物が、元々あったものではなく、新たに設計されたものだとしたら……。

あの騎士たちは、それを設計したお姫さまのためにあそこにおり、お姫さまのためになるからこそ従うのだ。その上マリーアンナはそのお姫さまを侮辱したわけである。表面上は王国の騎士を装っているが、彼らからは怒り心頭な覇気を感じる。そしてそれを止めない正真正銘王国の騎士も……仕掛人であることに変わりはない。


「また、このような着席した格好で申し訳ないが、フィーオの事情はみなも知っての通りだから許してほしい」

国王陛下がそう告げてもどよめきなどは起こらない。私はフィーのことをあまり知らなかったけれど、もしかしたら私が社交界から締め出されている時や離宮に籠っている時に、あらかじめ国王陛下が各方面に事情を明らかにしてくれたのかもしれない。


「この度の兄・マティアスの婚姻に合わせ、我が息子・フィーオは隣にいるキャルロット公爵令嬢・キアラと婚姻を結んだ」


国王陛下のお言葉を聞いて私たちが一礼すると、温かな拍手で迎えてくれた。


「さらにフィーオには公爵位を授ける。実はキャルロット公爵から広大になってしまったキャルロット公爵領の一部を是非とも有能な為政者に任せてはもらえないかと直々に私に相談があったのだ」

……そうか。それがキャルロット公爵ことお父さまの新事業だったのね。


「旧メローディナ公爵家の元領民たちは、既にお父さまの用意した土地に移住しているわ」

「そして新たにダンジョン都市の整備、それから畑も開墾したらしい」

フィーも知っていたのね。私の知らないところで、伯父と兄と、作戦を練っていたのかしら。


年々拡大していくキャルロット公爵領はキャルロット公爵ひとりでは手が回らなくなっている。――――と、言うのは多分方便だ。コンラートお兄さまもいるわけだし。だがその方便は使えるから、使うのだ。そのうちショコラとルーク兄さん夫婦にも自分が持っているほかの爵位をしれっと与え、2人に領地も与えることができるもの。


「旧メローディナ公爵領の領民たちもキアが公爵夫人としてくるならばと歓迎してくれてる」

そのひとりは師匠よね、確実に。ほんと……いつの間に連絡取り合っていたんだか。


「そして……君の夫となる俺のこともすっかり歓迎ムードだとか。先にギルド職員として現地に赴いているジュリアからの情報だ」

リア……っ!?い、いつの間に……っ!確かにダンジョン都市を作ったのなら、そこには自ずとしてギルドがあるのだけど……。

まさかフィーがあの3人を離宮に招くよう勧めたのは……。

ショコラは公爵令嬢で難しいかもしれないが、アリーとリア、どちらかを先に派遣するようエリオットさんと事前に打ち合わせしていたとしたら……っ。領民たちもいるとはいえ、私が気兼ねなく接することができる友人を、派遣してくれた。そしてリアはフィーが王子としりながらも、堂々としているなかなかの人材。フィーもリアの気概を気に入ったのね。


「そこでキャルロット公爵領の一部を一度国に返還し、新たにフィーオに公爵位を授け統治させることとした」

その言葉にホールからは歓声と拍手が届く。マリーアンナたちは愕然としていたけどね。


「次に栄転の発表を行う」

そうそう、栄転もあったのだった!しかし……一体誰の栄転が発表されるのだろうか?


「ここにいる元王妃・エスメラルダ、元第2王子兼亡聖国王太子夫妻。並びに本日は来ていないが聖国に加担した旧メローディナ公爵家の公爵夫妻については、聖国を制圧しその手に収めた帝国側に派遣する。なお、派遣した時点で我が国の戸籍から抹消し、帝国側に彼らに関する全権利を委譲する。みなのもの、かつてこの国のために貢献した元王妃・エスメラルダ、並びに元第2王子兼亡聖国王太子夫妻の新たな門出を歓迎してやってくれ!」

そう国王陛下が叫ぶと、ホール中から拍手と歓声に混じって嘲笑うような声が混じり、元王妃さま、ヴィクトリオとマリーアンナが呆然と突っ立っている。そして彼らを取り押さえていた男性たちは、いつの間にか帝国の軍服を纏っていた。


そして国王陛下の前に、ひとりの青年が躍り出る。


「陛下。此度の件、帝国との取引に応じてくださり誠感謝の至りでございます」


「よい。こちらもとても良い王太子妃を迎えられたのだから」

そう言って国王陛下がクレアお姉さまに微笑みかければ、クレアお姉さまも微笑みを返し、国王陛下の目の前にいる青年を見やる。


「お兄さま。私もよい夫、父上、それから弟妹ができてとても幸せです。どうぞ帝国の父上にもそうお伝えください」


「あぁ、幸せにな。今日はクレアの元気そうな顔を見られてよかったよ」

そう、クレアお姉さまにそっくりな水色がかった銀髪に淡い菫色の瞳を持つ美男子は告げる。


「では、国王陛下。お約束通り、帝国領内に不法侵入した旧メローディナ公爵家の2名と亡聖国の王太子夫妻並びにその王太子母は我が帝国で丁重に預かりましょう」


「あぁ。頼むぞ」

そう陛下が仰れば、美男子……帝国の皇太子殿下の指示で元王妃さまとヴィクトリオとマリーアンナが帝国軍人たちに連れられていく。


そして今頃牢にぶち込まれているであろう旧メローディナ公爵夫妻も一緒に帝国に連れていかれるのね。


血のつながった父とはいえ、今の私のお父さまはキャルロット公爵であり、あのひととはもう縁もゆかりもない。無論継母とその娘もだ。


私はこれからフィーと一緒に領地経営のため、領地へと向かうのだ。


「さぁ、みな!新たな門出を迎える者たちに祝福の拍手を!」

と、国王陛下が告げれば、みなの拍手と歓声と共にあの3人は引きずられるようにしてパーティーホールを後にしたのだった。


……ふぅ。国王陛下ったら従妹のお母さまのこと、絶対根に持ってるわよね。

まぁ、私もちょっとすっきりしたけれど。


「でも、驚いた。国王陛下からは何度も書状や辞令がいっているでしょうに本当にチェックもなにもしてなかったのね」

と、私はフィーの方を向く。


「あぁ。そうでなければ、既に帝国領になった旧メローディナ公爵領へ領民の取り立てに行こうなどとは思うまいよ」

まさか領民もろとももぬけの殻になった後のメローディナ公爵領が帝国領になっていたとは。それもまた、クレアお姉さまを妃として迎えるひとつの条件だったのかしら。


その後平和になったパーティーホールでは、お兄さまとお姉さまと一緒に、たくさんの方々に祝福していただいて、更にはキャルロット公爵家のお父さま、ショコラとルーク兄さんも来ていた。ルーク兄さんは何事もなかったかのようにけろっとしていたけど。もぅ……全くルーク兄さんったら。ま、今回はいいものが見られたからいいけど。


因みに、ショコラは相変わらず王都の冒険者ギルドで勤務だが、休暇には普段キャルロット公爵領周辺で冒険者活動をしているルーク兄さんと一緒に私たちの領地に来てくれるそうなので再びショコラとも会えそう。


その際はアリーとその婚約者も連れてきてくれるそうで。アリーったら、いつの間にかいいひとができたのね。


何だか微笑ましくなった。


コンラートお兄さま夫妻はこれから私とフィー一行を領地まで送ってくれるため、今日は王都に滞在しており、おふたりも会いに来てくださった。


明日からは長旅だ。フィーの体調にも気を付けながら与えられた領地へと向かうことになる。




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