婚約破棄された上に公爵家を追い出されたので、住み込み王子妃のお仕事始めました。

瓊紗

第1話 婚約破棄



――――よくもまぁ、こんな堂々と。彼には羞恥心と言うものがないのであろうか。


「キアラ・フォン・メローディナ!」

私の名前を呼び、指差して叫ぶのは、金髪にエメラルドグリーンの瞳の、この国の第2王子ヴィクトリオである。


キアラこと私は、紅葉のような赤いセミロングヘアーに母譲りのローズレッドの瞳の公爵令嬢だ。

本当は来る気などなかったのに、貴族令嬢として、目の前の男の婚約者として、義務だから仕方なく城のパーティーに参加したと言うのに。こんなことならバックレれば良かったかとも思うが……しかし公爵家の預かる領民たちのことは守らねばなるまい。だから面倒ながらも今まで貴族の義務も果たして来たわけだ。

――――だが、それも今日で終わりであろう。


「本日付で、次期ラディーシア王国第1王子であるヴィクトリオ・ゴルド・ラディーシアこと私との婚約は破棄させてもらう!」

そう……。遂に……いや、よくもまぁ今までやらなかったわね。それだけは公爵家の領民たちのためにも、褒めてあげてもいいわ。

……今日で台無しだけども。


そして彼の隣にはピンクブロンドのゆるふわロングにマリンブルーの瞳のかわいらしい美少女が立っている。ヴィクトリオは愛おしそうに彼女の腰に手を回して、こう続けた。


「本日付でこのマリーアンナ・フォン・メローディナこそが私の婚約者となった。つまりは、だ」

そう。彼女の名前はマリーアンナ・フォン・メローディナ。私の義妹。血は半分しかつながっていないけど。


「このメロンデーナ公爵家に婿入りするのはこの私だ。そして公爵夫人の座に収まるのは私のマリーだ!未来の次期メローディナ公爵が命じる!マリーを虐め、蔑んだ悪女キアラ・フォン・メローディナ。お前を公爵家から追放する!!無論除籍!貴様は平民だ!今すぐでてけ!!」


――――まず、何から語ろうか。そうだな。マリーアンナを虐め、蔑んだ件だがそんなことは一切ない。父が私の母の存命中から関係を持っていた再婚相手の娘マリーアンナ。


母が他界した後、父はかねてより溺愛していたマリーアンナとその母を呼び寄せ公爵家に招いた。その後父はマリーアンナだけを溺愛し、私は継母とマリーアンナに虐められるわ蔑まれるわ、ドレスや貴金属の類は全部このふたりにとられたし、母の遺品もほとんどがとられた。まぁ、一番大事なものは彼女らの手の届かない場所に丁重に保管しているので全く問題ないのだが。


食事は最低限だし、毎日の服装も質素なものばかり。第2王子殿下が送ってくる贈り物は私名義ではあるものの全てマリーアンナのもの。


ここ1年ほどはパーティーの同伴者にはほぼ呼ばれず、代わりにマリーアンナを連れて行くこと多数。


第2王子殿下は公爵家のことにも色々と口を出し、私が携わっていた事業からも領地政策からも追い出した。


全て冤罪、越権行為。


しかしながら私はこの公爵家に未練はない。しいて言えば事業に関わっていたひとたちや、領民たちだ。だが、彼ら彼女らも十二分に逞しいので私は私で生きていくすべを確保しなくては。


「わかりました。では、早速出て行かせていただきます」


「おぅおぅ、出てけ!出てけ!」

第2王子殿下がしっしとやるとマリーアンナは私に嘲笑を向けるが無視して立ち上がる。


「いきましょ、レナン」

私は自身の従者に声を掛けた。

彼は焦げ茶色の髪にローズレッドの瞳を持っており、肌は浅黒くどこか異国風の顔立ちをした、

ミステリアスな美少年で今年14歳だ。15歳の私よりも1歳年下である。


「はい、キアラさま」

レナンが私に礼をして一緒に立ち去ろうとすれば、不意にマリーアンナが叫ぶ。


「ちょっと!レナンは置いていきなさいよ!」

マリーアンナを見やると焦った顔で立ち上がっていた。


「なぜ、でしょう」


「だってレナンはウチの使用人よ!?まぁ今着ているものは特別に差し上げるけれどそれ以外は全て公爵家のもの!だから置いていきなさい!」


「レナンは公爵家の使用人ではありませんが」


「え?」


「レナンは私が給料を払い雇っているので公爵家の使用人ではありませんよ」


「それだって公爵家のお金でしょう!?」


「違います。アルバイトで稼いだので」


「はぁ!?あ、アルバイトぉ!?」


「なのでレナンは連れて行きます。ではごきげんよう」


「ちょ、待ちなさいよ!」

「そうだ!王子命令だ!」

とマリーアンナと第2王子殿下が次々に叫んでくる。


「ちょっと何言ってるかわかんないです」


「な……何だと!?」


「王侯貴族の権力を出されたらそれに反して生きる生き物なので、私たち」

「そう言う事です。ごきげんよう、殿下」

と、私とレナンはそう言って軽く礼をすると颯爽とその場を後にした。


「おい!第1王子命令だぞ!誰か、誰か――――っ!」

ヴィクトリオが後ろでギャンギャン騒いでいる声が遠ざかる。けれど誰も追ってはこないのは彼の人望……いや、王族を守る義務のある近衛騎士すら出てこないのは、彼が『第1王子』だからなのでしょうね。

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