第二章【6】
【六】
モモカが桃香になって、一番変わったのは彼女とキューティクルスターの周辺だった。
人間の体を持ったことで、桃香は魔法少女と常に一緒にいる大親友になり、桃香を通じて数多くの友人と繋がりを持つことができた。
それによって、泣き虫の魔法少女は変化を起こした。
涙に明け暮れることはなくなり、同年代の少女と活発に話をし、朗らかな笑みを浮かべるようになった。
そして、キューティクルスターは自分の意見をハッキリと告げるようになった。
いつでも顔を上げるようになって、胸を張って歩くことが増えた。
生徒会長に立候補し、無事に任期を務めた。
その過程で様々な思い出を共有し、魔法少女も引退した彼女は、桃香に告げた。
「今までありがとう。私、自分の足だけで歩いてみようと思う」
桃香にとっても記念すべき日だった。
大学の卒業式の日。
かつての魔法少女は自らの道を定め、桃香も人間として個人の生活を営もうと思った。
そうして、子供ができ、いくつかの別れを経験し、人と繋がりながら生きてきた。
娘の琴音が大きくなった頃、脅威が現れ、その時代の魔法少女が現れた。
魔法少女キューティクルスターによる魔力の供給がなく、せいぜいは身のこなしが優れている程度では、何かあったら怯える他なかった。
空を魔獣が埋め尽くし、魔法少女プリティプディングが退治している。
避難シェルターに逃げ、桃香は幼い娘を抱きながら、脅威が去るのを待った。
「うわーーーん! 怖いよぉ。死にたくないよぉ!!」
「大丈夫。大丈夫だから……」
ヒステリックに叫ぶ人々がいる中で、桃香は娘に語りかける。
こうしていると、使い魔として、友として魔法少女といた時が恋しくなる。
あの時は、戦場の最前線にいた。
死ぬか生きるかを肌で感じ取れた。
自分たちが人類の生存を決める力を持っていた。
だが、今は違う。
すべては自分以外の誰かが世界を守っている。
力のない人間は、危機が過ぎ去るのを待つしかできない。
「おい! そのガキを泣き止ませろ!」
「ごめんなさい、すぐに泣き止ませますから……」
状況を無視して大泣きする琴音。
無遠慮にぶつけられる非難の視線には敵意も混じろうとしている。
力が懐かしかった。
力が欲しいと思った。
家族を守り、敵を打ち砕くパワーが。
「あら、桃香じゃない」
聞き覚えるのある声。
昔はどこにいるのか手に取るようにわかった相手。
元魔法少女。キューティクルスターだった女性がいた。
目には大きくて深い隈を作り、きっちりとしたタイトスカートをボロボロにし、整えた髪があちこちにほつれた。
そんな“ありきたりな避難民”をしている元魔法少女。
「やっぱりそうだ。ひさしぶりね。少し話さない?」
後に、すべてが取り返しがつかなくなってから、桃香は思う。
あの時、彼女がいたのは偶然ではない。
避難シェルターは無数にあり、二人の居住区も、職場も遠く離れていた。
本来なら異なるシェルターにいて当然だ。
だが、そこにいた。
光のないぬばたまの眼球。
充血し、まばたきも忘れるほどの憔悴。
唇もまともに動かないような在り様。
それを見ると、桃香はかつての使い魔の感情が蘇った。
――力がほしい。
――別のなにかにならなければ。
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