マッドサイエンティストの風紀委員長とヤンキーからゾンビになるかサイボーグになるか生涯を共にするのか迫られている

桃田ほがらか

第1話 全てのはじまり

僕、朽掛 天太くちかけ てんたは憂鬱だった。

 「校外に出てどんな野花が咲いているか学習しましょうね!」なんて小学生じみた校外学習。その班分けが、最悪だったのだ。


「オイ、タラタラしてんじゃねぇよ」


 某駄菓子のタイトルのようなことを素で言いながら現れた女子、藤見 風蘭ふじみ ふうらん

 制服の上からパーカーを羽織り、堂々とガムを噛みながら、金色に染めた髪をくるくると指に巻いて不機嫌そうにしている。校則違反のトリプル役満だ。


「す、すみません、すぐ準備しますので……」

「なんで敬語なんだよ」


 君が怖いからです。なんて口が裂けても言えない。

 見た目通り、この人はこの学校では有名な不良生徒だった。


「藤見。無闇に威圧を与えるな。怯えているだろう」


 そう言って割って入ってきた女子生徒、久遠 名華くどう めいか

 ワイシャツを第一ボタンまでしっかり留め、スカートは膝丈、黒くてまっすぐな長い髪をポニーテールにして凛とした立ち振る舞いをしている。藤見さんとは全てが対照的だ。


「あ、ありがとうございます」

「何故敬語なのだ?」


 君が怖いからです。とはやはり口が裂けても言えなかった。

 この人も見た目通り、この学校では鬼の風紀委員長として有名な生徒だった。

 さて、この二人のパーソナリティで、大方察しはつくだろう。


「おい、藤見、そんな校則違反の姿で校外に出る気か 許さんぞ!」

「相変わらずうっせぇな先公かよテメェ」

「違反行為をした途端、即両断するからな」

「やってみろ。テメェをボコすのも悪かねぇな」


 この二人、水と油の関係なのだ。

 先生の無造作な抽出によって組まれたこの班はさながら火薬庫。ちょっとした火花で大爆発を起こしかねない。


「あの、そろそろ出発しないと……」


 僕の弱々しい提言を聞くと、二人はフンっとそっぽを向いて無言で教室を出て言った。僕も慌ててそれを追う。まさか、この後二度とこの教室の床を踏むことがないなど、その時の僕は思いもしなかったのだ。

 

 ◆◆◆

 

 街に出て植物を見つけ場所や種類、生育環境を記録する。そんな単純な作業ではあった。しかし、この一触即発の二人が喧嘩をしないように僕が間に立つことにした。


「ナガミヒナゲシ……っと」


  機嫌の悪そうな藤見さんが、僕のレポートを覗き込んできた。何か話してみようかな。


「この花、茎折ると汁が出るんですよね、僕、昔それでかぶれちゃって」


 藤見さんは無愛想に返事をしたと思えば、突如僕の手を取った。


「へ!? て、てててて!?」


 狼狽える僕のことなんて一切気にせず、すすっと指で手の平を撫でた。


「?え? あの?」


 小さい、女の子の指先だ、なんてキモいことを考える僕だが、藤見さんはなんてことのないように顔を上げた。


「ん、荒れてんな。お前肌弱いだろ」

「へ?」

「この花、アルカロイドって毒があんだよ。肌が弱いやつは負ける」

「く、詳しいんですね……すごい……」


 授業には滅多にでてないしヤンキーだから勉強できないという偏見を持っていた。僕は心の中で素直に謝罪した。


「おーい! こちらにも野草があったぞ!」


 通りの良い声がまっすぐ聞こえる。僕は「はいっ」と返事をして久遠さんの元に向かった。


「おお、朽掛、来たか」

「あ、はい、今写真撮りますね」


 僕はスマホを取り出す。しかし、手にあったはずのスマートフォンが用水路にぼちゃんと音を立てて沈んだ。


「画面は割れてないがしっかり水没しておるな……」

「だよね、電源つくかな……」


 僕が電源ボタンを押そうとしたその時、「待て!」と切り裂くような声によって動きは強制停止させられた。


「水分がある状態で電源を入れるのは一番よくない。基板がショートしてしまうからな! しばらく乾燥させるべきだ」


 意外だ。久遠さんってなんならスマホすら持っていなさそうなイメージがあった。そういう機器系にも詳しいんだ。頭いいもんな。またもや僕は心の中で謝罪する。


「オイ! テメェらダラダラしてんじゃねぇよ次行くぞ!」


 今度は遠くで腕を組んでいる藤見さんが会話を遮った。


「今、緊急事態だったのだ。空気を読め」

「テメェに空気読めって言われる日が来るとはな」


 まずい。二人とも喧嘩を始めてしまう。こうなったら僕はもう何もできない。


 ──その時、急展開が起きた。

 

 口論をする二人の奥から猛スピードでこちらに向かってくるトラックが目に入った。ただの住宅地でトラックが爆走する意味がわからない。しかし、トラックはぐんぐんと近づいてくる。

……まさか、止まる気がない!?


「危ないっ!!」


 僕は二人の間に割って入り、力任せに壁へ押し付けた。

 次の瞬間、体が潰れるような衝撃。痛みが襲い、視界が暗く沈んでいく。


「っう……つき……あ……て……欲しかった」


 ──急に突き飛ばしたこと謝らせて欲しかった

 

 そんな言葉も言えず、僕はここで意識が途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る