第210話 鉄のダンジョン

 ロックゴーレムの体長は2メートル強、関節は丸い岩でできているが人間と関節の曲がる限界値が違うようで稀に吐き気を催すような不気味な動きをする時があるが大抵は変な動きになる前に倒せる。

 簡単に言うとロックゴーレムの強さは他の魔物に比べて硬くて質量があることだけで逆に弱みはスピードが遅く、硬さを攻略できる手段を持つ者に滅法弱いことだろう。


 身体強化した足の速度で近づき、魔核のある胸に向けてランドリフォームを実行するとぽっかりと胸に穴が空いて魔核が露出した。

 後ろから来たフレアが鉄ハンマーで魔核を思いきりぶっ叩くとロックゴーレムは結晶化して消え、拳くらいの大きさの鉄鉱石がドロップした。情報通りの現象が起きたので思わず二人で視線を合わせて笑いあった。


「どんどん行こう!」


「了解!」


 俺が声を掛けるとフレアが気持ちの良い返事をして8階層から10階層を駆け抜けた。

 9階層と10階層は荒地が続き、出没した魔物は代わり映えしないが、ゴーレムの種類にクレイゴーレムという土のゴーレムが増え、倒すと鉱石ではなく焼き物用の土が固まりでドロップされた。

 ヒューイの硬化粘着液が使えるので忘れがちだったが、この世界で器の大半は焼き物と木を加工した製品だからこの焼き物用の土もそれなりの値がつくドロップ品になる。

 フレアから聞いた話によると森でウッドゴーレム、つまり木のゴーレムも出没することがあるそうで、倒したウッドゴーレムは何かに使えるのか?と聞いたら、小さい魔石が取れることと、薪に利用できること以外に使い道は無いそうで劣化版トレントだと納得した。


 8階層から10階層までは下層へ向かう階段前に少し大きなロックゴーレムがいただけで俺たちの敵になるような魔物、ゴーレムは現れなかった。

 ギルドでデリアさんから聞いたとおり10階層までは全く問題なく辿り付けた。


 11階層から16階層まではブロック舗装通路の階層が続いた。

 出てくる魔物はゴブリン主体に、ホブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、オーク、ハイオーク、ロックゴーレム、クレイゴーレムなどだ。

 15階層と16階層の階段前にロックウルフという目の高さが俺と同じ辺りにある大きな狼がいた。ロックウルフは赤い目で茶色の毛色に額から尻にかけて背中の筋に沿って銀色の岩の小さな塊がたくさんついている狼で、倒すと銀を豊富に含んだ拳ほどの鉱石が大量にドロップされた。


 17階層から19階層は平地の荒地だ。

 荒地はゴーレムの存在率が高いと考えていたのでmapと探査でゴーレムを探して倒す方法でロックゴーレムを狩った。

 16階層までは土や岩だけで作られたゴーレムだったが17階層から球状の岩関節が金属になっていることに気付いた。付け加えるなら関節が金属になってから動きが速くなっていた。

もしかしたらゴーレムの身体を構成する金属率が高まって最終的に全てが金属のゴーレムも現れるのだろうかと考えた。


 オール金属のゴーレムって普通にロボットだよな?

 もし、ダンジョンの外にもいて活動の支配権を奪うことができたら利用価値が高いのにと考えながら、オール金属のゴーレムを想像すると映画スターウ○ーズで金色で執事然としたロボットが頭の中に浮かんだがブンブンと頭を振って妄想を打ち消して階段を下りた。


 20階層はブロック舗装の階層だが、まずはいつも通りにmapと探査を実行して地図を描き上げる。

 下層へ向かう階段までの距離は10キロほどあり、途中に魔物が多数いる広場は5箇所で、階段前は他の広場より広く作られている。

 更に、地図を描いていて離れ部屋のような広場があることもわかっており、途中の通路はいくつか分岐しているが、分岐の先は行き止まりになっているか落とし穴のような罠が仕掛けられているのも感知済みだ。


 先に腹ごしらえをしようとフレアとヒューイに呼びかけ、焼きおにぎりとヒュドラ肉のから揚げに野菜スープで腹を満たし、デザートにプディングを出すとフレアが幸せそうな表情で味わいながら食べていた。普段無表情なのに甘いものを食べている時の幸せそうな表情とは随分落差があるなと思う。


 腹ごしらえを終えて、装備の確認と描き出した地図を皆で見て頭に叩き込む。

 さて、20階層の攻略スタートだ。


 通路に現れた魔物はこれまでと同じ、ゴブリン、ホブゴブリン、ゴブリンメイジ、ゴブリンアーチャー、オーク、ハイオークでゴブリンメイジやゴブリンアーチャーはマジックアローや弓矢の飛び道具を使ってくるが命中率も悪く、威力も弱いので俺のウィンドカッターとウォーターアローで片っ端から倒して進み、オークやハイオークのときはフレアの魔剣で切り伏せて進んだ。


 1つ目の広場には関節と胸部分が金属になっているゴーレムが4体現れた。

 2体は幅広で湾曲した片刃の剣を装備している。


 身体を構成する金属率が高まっているが探査ではロックゴーレムと出ている。

 今までのロックゴーレムは俺がランドリフォームを使って胸の岩部分を空洞にすることで魔核を露出させることが出来ていたが、金属に変わっても可能なのか?

 まずは剣を装備していない1体に近寄ってランドリフォームを実行してみた。


 胸の金属部は変形しなかった。

 俺はバックステップで距離を取ってフレアにランドリフォームで魔核を露出できないことを告げた。


「フレア、ランドリフォームが効かない。魔核は同じ場所にあると思うがハンマーを打ち込んでみてくれるか?」


「わかった!」


 フレアは剣を装備していないロックゴーレムへ一気に駆け寄り、鉄ハンマーをぶーんと音が聞こえてきそうな速度で水平に振るった。

 ロックゴーレムに鉄ハンマーが当たった瞬間にごおんと鐘でも叩いたような音と共に叩かれたロックゴーレムは10メートル近く後ろへ吹っ飛んでいった。が、吹っ飛んでいった先でロックゴーレムはむくりと立ち上がったのが見えた。

 よく見ると胸は凹んでこそいるが破壊はされていない。


 おー!硬い!

 土魔法のピットやロックニードルなんかが使えると楽に倒せそうなのだが、ダンジョン内だと上手く動作しない。恐らくだが、ダンジョン内の壁や道は簡単に壊したり変形できないような物だと考えて間違いないだろう。


 試してみることが2つある。

 俺は吹っ飛ばされていないロックゴーレムと距離を縮めて、念動力でロックゴーレムの胸を変形させてみようとした。


 ここで2つの事象が確認できた。


 1つ目は胸の金属部分に俺の魔力が当たった瞬間に魔力が拡散したことと、2つ目は拡散し切れなかった魔力でロックゴーレムの胸部分の一部が5センチほどめくれ上がり、ゴーレムが右斜め上に吹っ飛ばされたことだ。

 1つ目の事象は魔力耐性がある金属だと予想でき、2つ目は受け止め切れなかった魔力が原因で単に吹っ飛ばされたと考えるのが妥当だろう。


「フレア、多分ミスリルか何か魔法に強い金属が使われている」


「私もそう思った、一度下がるか?」


「いや、鉄槍を打ち込んでみる。」


 剣を装備していなかった2体を先にぶっ飛ばしたがために今は剣を装備しているロックゴーレム2体が俺たちと対峙している状態だ。

 2体は剣を振りかざして俺たちへ向かってきた。

 それぞれが1体ずつを相手取り、フレアはロックゴーレムの初撃を難なく躱して鉄ハンマーで胸を下から叩き上げた。

 剣を装備したロックゴーレムの1体は先ほどの無手のゴーレムと同様に10メートルほど先へ綺麗な放物線を描いて飛んでいった。

 俺の方も初撃を躱すと腕を取って投げようとしたが、関節の稼動領域が人とは違うためにカクンという感じで腕が折れ曲がり、投げることが出来なかった。すかさず腕を放して距離を取るとフレアが隙を見逃さずに鉄ハンマーを打ち込んだ。


 またもロックゴーレムは同じ軌跡を描いて飛んでいった。

 俺は収納から鉄短槍を取り出して魔力を込め、弾丸のように回転させながら胸に穴の空いたロックゴーレムに打ち込んだ。鉄短槍は見事に胸を打ち抜き、魔核を破壊してくれたようでロックゴーレムは結晶化して消え、何かのインゴットをドロップした。

 続いて鉄短槍を無手のロックゴーレムへ同じように十分に魔力を込めて弾丸のように回転させながら打ち込むと先ほど同じように胸部分を打ち抜くことが出来た。


 4度同じ攻撃を繰り返して4体を倒せたが、もう少し簡単に、効率よく倒せないだろうか……


 鉄短槍を回収して見ると先端がひしゃげていたことから改めてロックゴーレムの硬さを実感して思わず「ちっ」と舌打ちをした。

 回収したインゴットを鑑定すると純度100%の鉄だった。

 1体から6本のインゴットがドロップされたので24本の鉄が確保できた。

 ひしゃげた鉄短槍を鍛冶魔法で整形し直し、回転にあわせて威力が出るよう鉄短槍にライフリングのように溝を切っておくことにした。


 1つ目の広場をクリアし、2つ目の広場に向けてブロック通路を進むがこの間は魔物がいなく、凄くスムーズだったが2つ目の広場から金属と金属がぶつかり合う音と声が聞こえてきた。

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