第54話
*
「ほーら言ったじゃん、愛だねって」
事の顛末を美奈子に話すと、彼女は勝ち誇ったようにニヤニヤする。
「嫌いだったら、そもそも最初から同意なしに襲われてポイされるわよ」
「……ひどい」
杏子は愕然としてコーヒーをすすった。
「そもそも杏子の両親も絡んでいるんだから、無理矢理なんてできないしね。杏子に選ばれたい一心が強すぎたけど、それも含めて愛ってことで」
恐ろしい独占欲よねと言われ、それには杏子も同意した。
「よくもまあ、そんな狂暴で嫉妬深い番犬を育てたもんだわ。感心しちゃう」
「ははは……」
「良かったんじゃない。ほら、水谷さんももう入り込んでこないし」
杏子のことをライバル視していたかおりは、杏子と結婚するから無理と晴にあっさり振られた。
相当なダメージを受けたものの、プライドが邪魔したらしく、それ以上踏み込んでこなかった。
「女の魅力の神髄は中身なのよ。杏子がわんこくんの本性を知ってもなお、ずっと逃げないでいたから愛されたわけで」
「逃げようがなかったとも言えるんだけど……逃げなかったのは私の選択だったと思う」
美奈子は杏子の肩に手を回した。
「本当は小さい時からずっと、わんこくんのこと好きだったんじゃない?」
言われて、杏子は美奈子に完敗だな、と笑った。
「どっちが先に好きになったのかわからないけど……ずっとお互いに運命の人かもって思っていた気がする。晴が私の中にいない時なんてなかったから」
杏子は青空に向かって息を吐く。
「こじらせるほど重たい愛情になるとは思っていなかったけど」
「お互いにね」
晴が幸せならそれで良かった。そして自分も幸せを見つけようと努力した。それでも、ほかの人との幸せを見つけられず、お互いが一番大事だということで収まった。
「あなたたちらしいわ……結婚式は呼んでよね」
杏子は「まだ先だよ!」と驚いたが、美奈子がきっとすぐよと笑った。
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