第45話その違い、小さいようで大きくて危険


トボトボと帰っていくルイーズを見ながらアイザックが聞いてくる。


「でもなんで急にルイーズにそんな事聞いたんだ?俺も山岳地区を任されてる騎士が雪狼に乗ってるなんて初耳だったけど」


「スカーレット辺境伯には口外しないようにと命令されたんだ。………その、野蛮だからと。王国の貴族の戦い方か、リズリー領の国獣を使った戦い方しか認めんって。だから第3王子殿下にこの事を言うか悩んだんだ。まだ言ってないけど」


僕が答えるとアイザックは少し眉をひそめた。


「ああ、リズリー領みたいに独立戦争で認められた戦い方じゃ無いからか…似たようなもんなのに。残念ながらルイーズの反応は特殊だよ。第3王子殿下に話すかは任せるけど信頼出来ない奴に知られるのはベンが騎士になってからがいい」


ーーー


「食堂の貴族席に?」


次の日登校するとアイザックがそんな事を言い出した。王都内で学生向けに売られているランチボックスを3つ持っている。


「そ。俺らをリズリー派のお貴族様に紹介してくれると今よりもう少し安全になるからさ?頼むよ」


「そうは言っても私だって彼らとは初対面だぞ?」


「大丈夫だって。派閥の事は大体頭に入っているんだろ?そうじゃ無ければフォローするし、お前なら気にしなくてもあちら側から寄ってくるよ」


「……それなら、わかった」




貴族席に着くと直ぐに声をかけられる。その声があまりにも響く声だった為一瞬でその場はざわつき出した。


「リズリー公爵令息、今日はこちらで食事を取られるのか?珍しいな。アイザック殿…と君もこの前は災難だったな」


「カーヴィラ小爵令息、ごきげんよう。今日はその事もあって少し介入する事にしたんだ。我が派閥の皆んなは頼もしい人が多いから何か困った平民を見かけたらこの2人で無くとも助けてあげてほしいんだ」


「もちろんだ。それでそちらの青髪は紹介してくれないのか?」


「今紹介するよ。彼はベン・ウォード。山岳地区の出身でウォード騎士男爵のご子息なんだ」


「ベン・ウォードです。カーヴィラ小爵令息にお目通り叶った事……」


「ここではやめてくれよ。家庭教師のマナー指導を思い出してしまう…。セン・カーヴィラだ。よろしく。」


「よろしくお願いします。」


「リズリー公爵令息はこれから挨拶を受けるのだろう?また機会があったら話そう」


そう言うとカーヴィラ小爵令息は去っていった。近くで様子を見ていた候補生が近寄ってくる。


(今日は怒らなかったな…)


そこからはひたすら挨拶をして親や家の功績を褒めて紫の瞳を讃えられてそれからアイザックとベンの2人を紹介する事の繰り返しだった。


「それにしても綺麗で混じり気のない紫の瞳ですね。リズリー公爵もさぞお喜びになられた事でしょう」


「褒めてくれてありがとう。でも君も持っているじゃないか?それにこの前の授業の状況判断に関する問いの答えはなかなか核心を得ていて素晴らしかった。これからもこの学園で共に精進していこう」


「はい!ありがとうございます!………気分を悪くされたら申し訳ないのですが、何故リズリー公爵令息様は派閥違いの平民を庇護するのですか?我らは派閥外の事にあまり関心が無かったので珍しいと思ってしまい…」


挨拶の順番待ちが半分になった頃、1人の令息がこんな事を聞いてきた。相当な勇気を出したのだろう。用意していた建前を言う。


「彼の出身地は山岳地区だ。あちらの派閥の見栄によってあの地が人の物で無くなってしまうのは惜しいと思ってな」


そう言うと令息はハッと気づいたように考え始める。


「魔法素材……」


「そう。しかもリズリー側とは違った性質を持つ魔の山脈産となるとあの場所は重要な拠点だ。あちらの派閥はプライドや栄光を重視する派閥だから平民が竜殺しの称号を持っていたとなると妬む人が出てくる可能性が高い。それは王国の為に良くないと思ったんだ」


なるべく周囲にも聞こえるように言うと称賛の言葉が漂う。モヤモヤとした気持ちを押し込めるように私は穏やかな表情を作った。


「さすがですね!私ではそこまで考えがおよびませんでした。さすが知恵の祝福を受けているだけあります」


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