第18話 領主相手にイキれ!
「あーすまん。やっぱり面倒くさいことになった。ジェノス、領主様がお前をお呼びだ。すまんが領主邸へ行ってくれんか?」
次の日ギルドに立ち寄るとやっぱり面倒くさいことになっていた。本当はさっさとルルナちゃんを連れ出して王都へ行きたかったんたがな。ギルマスに泣きつかれて1日だけ待ってやったのだ。
「ああ、わかった。面倒くさいことは先に片付けた方が楽でいいしな」
「本当にすまん。一応お前さんの主張は伝えておいたんだがな。仮にも伯爵様なんだからあまり面倒を起こさんでくれると助かる」
「それは伯爵様とやらに言ってくれ。俺は当然の権利を主張するだけだ」
やれやれ、用事があるならそっちから来いってんだ。法的な対象はギルドが解体したやつだけだろうに。
俺はやれやれのため息をつきながら領主邸へと向かった。領主邸はこの街の1番大きい屋敷だからな。街の真ん中辺りにあるから結構簡単にわかる。
歩くこと20分。領主邸の前に付く。門の所には門番までいるのか。まぁ街の要人ならそれくらいはするだろう。用事を伝えるのに都合がいいから助かるな。
「おいそこの門番。俺がジェノスだ。領主とやらに呼ばれたから来てやったぞ」
門番は2人。そのうちの片方に声をかけた。ろくでもない用事なのはわかっているからな。礼を尽くす気はねぇ。
「口の聞き方に気をつけろ。ジェノスだな、今取り次いでやるから待ってろ」
俺の態度に腹を立てながらも門番は屋敷の中へ入っていった。口の聞き方とか知るかボケ。
少しして門番が戻って来た。
「領主様がお会いになる。武器を持っているなら預かろう」
「今は手に武器をもってねぇ。黒龍とやり合ったときに壊れちまったからな」
予備の剣はあるけどな。手には持ってないからいいだろ。
「そうか、なら案内しよう。ついて来い」
「へいへい」
俺は門番の案内に従い領主邸の敷地内に足を踏み入れる。前庭の花壇には色とりどりの花が植えられており見事に咲き誇っていた。金かけてやがんな。
そして屋敷内に通される。待っていたのは一人の騎士っぽい格好をした奴だ。領主の護衛のために俺に付き添うつもりなのだろう。黒龍すら倒す俺をどうにかできると思ってんのかね?
「ゼスト様、冒険者ジェノスをお連れしました」
で、その領主とやらが待つ部屋まで案内されると、その護衛騎士が扉をノックする。
「入れ」
「失礼します」
入室の許可が降り、護衛騎士が先に入った後に俺を通す。どうやらここは執務室らしいな。領主とやらはデスクに座って書類仕事をしていたようだ。
「お前がジェノスか。此度の黒龍の討伐の件ご苦労だった。領主として礼を言おう。それで、その黒龍はギルドに卸してないそうだな」
礼は口だけだな。なに睨んでんだよ。どうやら穏便な話し合いにはなりそうもないな。
「キルドに卸すと俺のモノにならないらしいからな。だから自分で解体を行うつもりだ」
「そんなことが許されると思っているのか? 黒龍の素材ともなるとその希少性と価値、有用性は計り知れん。たかだか平民が手にしていいものではない」
随分勝手な言い分だな。ま、それがまかり通る世界なんだろうよ。でも何でも思い通りになると思ったら大間違いなんだぜ?
「それ、誰が決めたんだよ。そんな法律でもあるのか?」
「……今はない。だが国王陛下には徴発という権限があるのを知っているか? もし拒否すれば不敬罪が適用されるぞ」
あー、やっぱりそう来たか。ほんと、この世界の貴族ってのは平民を人間扱いしてないんじゃないかと思うわ。
「まだ徴発は施行されてないよな? それが国王の権利ならお前にはそんな権利ないだろ」
「ふん、そんなもの国王陛下の名の下に行えば済むこと。黒龍の素材の徴発であれば事後承諾でも問題はない。むしろなぜそうしなかったのかと責められるだろうな」
領主は勝ち誇ったようにほくそ笑む。ホント予想通りの展開だわ。だったらこっちにも考えがある。
「なるほど。つまり、どうあっても俺の権利は認めないということか。よーくわかったわ。つまり、それは黒龍が死んでるから問題なんだよな? だったら生き返らせてしまえばいいわけだ。その後黒龍が暴れるかもしれんが領主様の方でなんとかしてくれな。んじゃそゆことで」
「何を言ってるんだ? おい、話はまだ終わっとらんぞ」
なんか引き止めてるけどシラネ。俺は手をひらひらさせて勝手に部屋を出る。ここの前庭結構広かったしスペースは十分だな。俺は早足で外へと向かう。その後を護衛騎士が追って来た。少し遅れて領主まで来てるのか。それは好都合。
「おい待て!」
護衛騎士が俺の肩を掴むが関係ない。てめえの力で俺が止められるわけねぇのにな。構わず俺は外に出る。そして前庭を前にして立ち止まった。
「ようやく止まったか」
俺は護衛騎士を無視してアイテムボックスから黒龍を取り出す。アイテムボックスの中は時間経過がない。つまり黒龍はまだ死にたてホヤホヤだ。
「ふん、ようやく黒龍を渡す気になったようだな。だがここで解体するわけにはいかん。解体場へ運んでもらおう」
「何言ってんだ? 俺は言ったよな。黒龍を生き返らせると。 リザレクション!」
俺のリザレクションにより黒龍の傷はみるみる塞がっていく。そして黒龍の瞳に光が戻った。
「ぬう……、まさか生き返らせてくれるとは思わなかったぞ。情けをかけたつもりか?」
「いーや、違うね。ちょっとお前さんのことで揉めてな。お前が死んでいると俺にとって不都合が発生するんだわ。だから生き返らせた。それだけだ」
俺の都合に振り回してるわけだがな。リザレクションは部位欠損すらも治癒する蘇生魔法だ。俺が必要な分の牙と鱗、それに肉も回収済みなんだよな。黙ってたらわかんねーだろ。
「き、貴様正気か!? せっかく倒した黒龍を生き返らせるとはどういうことだ!」
「え? だってこいつを倒しても俺にメリットねぇんだもん。おい黒龍、恩に着せるつもりはないが生き返らせた対価にこの街のことは許してやってくれ。それくらいいいだろ?」
まぁさすがにこの街を滅ぼせとまでは言わねーよ。意味ねーしな。
「是非もない。負けたのは妾だ、勝者のお前に従おう。しかし生き返らせた対価としては安すぎる。他に何か望みがあれば聞こう」
案外素直だな。とはいえ、必要な素材はちゃっかりもらってあるからな。望みなんてねーぞ。従魔にするとか面倒くさそうだし。
「ねぇな。お前さんから素材もらってもこの領主に取られるだけだし。とりあえず貸し1つってことでいいか?」
「おい! なら牙でも鱗でも貰えばいいだろう!」
領主がなんか言っているが無視。んで黒龍の方はというと領主に警告する。
「お前には聞いていない。少し黙れ。ならばお前に魔法を1つ授けよう。妾の力を必要としたときに使うといい。そうしょっちゅうは困るが、ある程度の頼みは聞いてやろう」
お?
なんか魔法が流れ込んできたぞ。黒龍召喚か、これは使えそうだな。
「サンキュー、ありがたくもらっておくわ。じゃあ行っていいぞ」
「うむ、この街の安全は約束通り保証しよう。さらばだ!」
そして黒龍は翼をはためかせながら飛び去っていった。領主はなんか呆然としてるけどほっとくか。
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