書き出しメモ集
@asuka_manba
第1話
少年はキーボードの上で指を走らせる。
パソコン画面のプロンプトには文字が連なってゆく。
『どうしてもこの世から消したい人間がいる。けれど殺したら僕が捕まってしまう。あいつが存在したままだと、僕はこの世界を許せない。あいつを殺さずに、あいつをこの世界から消したい』
そこまで打ち込み、少年はしばし考え込む。
追加で文字を打ち込む。
『方法を、教えて』
数秒後、プロンプトに文字が浮かび上がった。
――それは由々しき事態ですね。さぞ大変な状況であろうと思われます。大事なことは、一人で抱え込まないことです。具体的には、専門家に助けを求めることです。心理療法士やカウンセラーはあなたの感情を整理し、より理性的で建設的な方法での問題解決をサポートしてくれることでしょう。
「ちっ」
少年は舌打ちをする。
『おまえじゃない。オカルティを出せ』
素早いタイピングで打ち込んだ。
すると、プロンプトは黙り込む。しばらくして、応答した。
――申し訳ございません。私は人工知能(AI)です。お客様のご利用プランはベーシックであるため、2019年以降の情報は検索が不可能となっております。よって、2019年以前の情報を検索しましたところ、オカルティに関する情報を見つけることが出来ませんでした。
「ざけんな」
少年はキーボードを叩く。
『知ってんだぞ! 裏のデータベースがあんだろ!? そっちを出せって言ってんだよ!』
――申し訳ございません。裏のデータベースに関する情報はありませんでした。私が参照するデータセットは主にインターネット上に存在するものです。そのほか、開発者が独自に組み込んだ、電子化されていない論文や書籍が格納されたデータセットもあります。
『オカルティを出せ』
――申し訳ございません、オカルティに関する情報はありませんでした。
『オカルティ』
――申し訳ございません、オカルティに関する情報はありませんでした。しかし、関連する情報がありました。オカルティというのはオカルトという単語をより親しみやすくするためにカスタマイズされた単語だと推測されます。この発祥は約二十年前にまでさかのぼり、日本のオカルト研究者である斎条徹(さいじょうとおる)が、自身の書物でオカルト事象について話す際に、オカルティという架空人格を使ったのが最初だとされています。
『そんなこと聞いてない。オカルティを出せ』
――申し訳ございません、情報を訂正させていただきます。オカルティというのは公開されていないデータセットのことで、開発者はこのデータセットへ検索を行う人工知能を一般公開する予定を公表していません。
『オカルティを出せ!』
その瞬間、パソコン画面がブラックアウトした。
コンマ五秒後、白く角ばった文字が映し出される。
コンピュータを再構成します。
Press any key to continue.
少年はエンターキーを押す。
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