旅シリーズ8 フランス城めぐり 修正版
飛鳥竜二
第1話 フランス入国 修正版
※この小説は「フランス城めぐり」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。
トラベル小説
5月に長谷川さんから連絡があり、
「6月にフランス・ロワール川流域の城めぐりをしませんか? わたし、ジャンヌ・ダルクの足跡を旅してみたいんです。一人では心ぼそくて・・」
ということであった。6月下旬ならば1週間あいているので、
「いいですよ。でも木村くんは?」
「木村くんは、新任教員で休みはとれません。わたしと二人ではだめですか?」
「いえ、そんなことはありません。今までも国内の城めぐりはしていましたから、断る理由にはなりません」
「ありがとうございます。そう言っていただくとうれしいですわ。それでは飛行機とホテルとレンタカーの手配はわたしがします。わたしはフランスで運転する自信がないので、運転お願いできますか?」
「わかりました。お願いします」
ということで、今回の旅は長谷川さんの企画で始まった。
「ジャンヌ・ダルクをめぐる旅か? それも悪くないな」
とその時は思っていた。
6月20日、パリ行きの日系A航空のカウンターで待ち合わせをした。今回は、なんとビジネスクラスである。社員割引で格安で購入できたということだが、エコノミーより高いのには変わりはない。でも、快適だった。
座るとすぐにウェルカムシャンパンがでてきた。飛行機でシャンパンを飲むのは初めてだ。じっくりと味わう。となりの長谷川さんは無口だ。後で聞くと、知り合いのCAさんがいるので、男性と親し気に話すと後がうるさくなるからだということだった。偶然となりに座った人というのを演じてほしいと小声で言われた。
水平飛行に入ると、テーブルに白いクロスがしかれ、フルコースの料理がでてきた。前菜はサーモンのマリネ。スープはコンソメ。A航空のいつものコンソメスープとは違う。タマネギがおいしい。そしてカニサラダ。もうこれで満足という量だが、メインのステーキがでてきた。それも平べったいステーキではなく、塊だった。ほどよい硬さでおいしかった。デザートはババロアとバニラアイス。口直しには最高だ。初めて機内のフルコースを堪能することができた。
「満足できましたか?」
と、やっと長谷川さんが口を開いてくれたので、
「はい、とても満足しました」
と、隣人が答えるように話した。長谷川さんはその受け答えに笑みを返してくれた。
食事が終わると、機内が暗くなった。シートはフルリクライニングになる。隣の長谷川さんとも仕切りがでてきた。全くのプライベート空間だ。モニターで日本映画を見ていたが、自然に寝入ってしまった。
起きたのはパリまで2時間という時で、機内が明るくなった時だ。5時間近く寝ていたことになる。時差ボケになるかもしれないと思った。
またもや機内食。軽食だが、あったかいスクランブルエッグがでてきた。さすがビジネスクラスだ。コーヒーもおいしい。エコノミークラスでも同じコーヒーのはずなのだが、カップが違うからなのだろうか。
夕方4時にシャルルドゴール空港に着陸。入国審査や税関を通り抜けて、空港近くのHインの着いたのは6時だった。満腹で食欲はない。機内では食べるか寝るかのどちらかだった。長谷川さんも食欲はないらしく、8時にホテルのラウンジで会うことにした。
8時にラウンジに行くと、長谷川さんはすでに来ていた。ドレスアップしている。さすがCAさんだ。年齢は30才を越えているはずだが、5才は若く見える。私はブレザーを着ただけでやってきた。
「似合いますね。城めぐりかCAさんの姿しか見ていないので、今日の長谷川さんはまぶしく見えます」
と言うと、
「ありがとうございます。そう言っていただくとうれしいですね。たまにはこういう姿を木村さんに見てもらわないといけないなと思って・・」
「ふだんのラフな姿もいいですけれど・・今日はエレガントですね」
「あら、ふだんはがさつということですか?」
「いえ、そんなことは・・」
と返事に困る私を見て、長谷川さんは笑っていた。この人は時々イジワルを言う。
二人で白ワインを飲んだ。つまみはチーズとソーセージにしたが、食欲はないのでワインを味わっていた。すると長谷川さんが話を切り出した。
「木村さんは奥さんとどこで知り合ったんですか?」
「お見合いですよ。会社からベルギーの工場に3年派遣されるということが決まって、母親がお見合い相手を探してきたんです。てっきり相手から断られるかと思っていたら、とんとん拍子にすすんで、派遣前に結婚式を挙げたんです。後で妻に聞いたら、(わたしもあなたが断ってくると思っていました)と、言っていました」
「そうなんですか? よかったですね。いい方と巡り会えて。お子さんは?」
「娘が一人。ベルギーで産まれました。言葉が分からず大変でしたよ。今は東京に嫁いでいます。あなたとほぼ同じ年だと思いますよ」
「あら、年齢の話はなしですわ。お孫さんは?」
「孫はいません。作る気はないみたいです」
「再婚するつもりはないんですか?」
「妻が亡くなって3年が過ぎました。再婚をすすめる人もいますけれど、今さら知らない人といっしょに暮らす気にはなりません。どうしても亡くなった妻と比べてしまうでしょう。それは相手にとっても私にとっても不幸です。こうやって、たまに長谷川さんと旅にでられるだけで充分です」
「へぇー、そうなんですか? いっしょに旅をするのはわたしだけですか?」
「えぇー、そういえば木村くんもいました」
「木村くんね。楽しい人ですね」
「木村くんとは、その後どうなんですか?」
「毎日、メールがきますよ。勤務報告みたいで、今日〇〇しました。ってやつ」
「木村くんらしいや」
「ベルギーで大変だったというのはどういうことですか?」
「言葉が通じないというのが一番ですね。ホームドクターが変な日本語を使うのも困りましたね」
「変な日本語?」
「破傷風の予防接種をしたんですよ。その時、アチョフって言うんですよ。英語でもフランス語でもない。それでドクターが書いたスペルを見たらhashohuと書いてあったんです。きっと辞書をみて、アチョフと言ったんでしょうね」
「病院は大変でしょうね」
「通訳がいります。会社に通訳担当がいたので、妻が病院に行く時は頼んでいました。出産の時は大変でしたよ。医大生がたくさん見学に来ていたそうです」
と。長谷川さんは私の過去をお酒の肴にして飲んでいた。今さら隠すこともないので、私もいやがらずに話をしていたら10時になっていた。日本時間だと朝の5時である。機内で寝たからといっても、さすがに眠くなってっきた。
「それじゃ、明日8時レストランで」
と約束して、部屋にもどった。Hインにはシングルルームがあるので、一人でぐっすり寝られる。
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