第2話 ソウル城郭 修正版

※この小説は「韓国城めぐりⅡ」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


トラベル小説


 ホテルの朝食を終えて、9時に出発。今日は3時間のハイキングだ。かつて妻と歩いた城郭めぐりをすることにした。

 タクシーで臥竜公園(ワリョンコンオン)へ。ソウル市の北の山の方へぐんぐん登っていく。歩いて登ったらそれだけでハイキング終了になるきつさの登りだ。

 公園に着くと、見晴らしがいい。ただ寒い。持ってきたダウンベストを着込む。12月のソウルの風は冷たい。

 ソウル城郭は軍事施設なので、検問所を通過しなければならない。そこでパスポートを提示し、所定の事項を記入した申込書を提出する。注意事項を確認して、通行証を胸にぶら下げる。主な注意事項は次のとおりだ。

(1)軍事施設なので、スタッフの指示に従うこと。

(2)大きな声でさわがないこと。

(3)写真撮影は許可された場所のみで行うこと。軍事施設は撮影不可。

(4)2時間半で彰義門(チャンイムン)の検問所へ着くこと。


 2人は、やや緊張しながら歩きだした。ふつうのハイキングではないと実感したようだ。私はかつて妻といっしょに歩いたことがあるので余裕だ。

 20分ほど林の中の道を歩くと、城壁の内側に出た。3mほどの高さがある。撮影不可だ。黙々と歩く。ところどころに兵士らしいスタッフが立っている。拳銃を腰につけている。向こうから重装備の兵士がやってきた。ヘルメットをかぶり、マシンガンを持ち、大きなリュックをしょっている。

「アンニョンハセヨ」(こんにちは)

 と言ってみたが、無言だった。歩くのに必死の様相だ。おそらく新兵さんが訓練で歩いているのかもしれない。山道を20kgぐらいの装備をもって歩くのは大変なことだ。

 30分ほどで北大門(粛靖門スンチュンムン)に着いた。ここは撮影OKだ。門を出ると、ソウルの北側の見晴らしがいい。ここに上がってくる道もあるみたいだ。

「南大門よりは小さいけれど、歴史を感じる門ですね」

「昔のままだからね。ここはふつうの人は使わなかったみたいだよ」

「そりゃそうですよ。こんな山道だれも通りませんよ」

 と木村くんは単純に納得している。でも長谷川さんは違う。

「では、どういう人が通ったんですか? 兵士専用ですか?」

「兵士だけではないですね。木村くんはどう思う?」

「うーん、ふつうでない人というと奴婢とかですか?」

「おーおしい。奴婢もいたと思うよ。罪人や死んだ人が通った門みたいだよ」

「本当ですか?」

「亡くなった奥さんの韓流ドラマ情報」

「そうなんですか? ちょっと・・・」

 長谷川さんは信じていないようだった。


 北大門からは城壁の外を歩く。城壁の上には有刺鉄線が張られている。おそらく城壁の中には重要な軍事施設があるのだと思う。30分ほど歩くと、木製の階段があり、城壁を越えることができた。頂上の白岳山(ペガクサン)342mはすぐだ。

 歩き始めて1時間10分で、目的地に着いた。3人で記念撮影をした。近くにいた兵士に頼んだら気軽にシャッターをおしてくれた。いかつい顔をしているが、根はやさしいのだ。ソウルの街並みが見える。南大門あたりの高層ビル群が見える。

 そこから少し歩くと、兵士の数が増えてきた。例の銃撃戦の場所だ。北朝鮮のスパイが侵入してきて、ここで戦闘があったのだ。樹木に弾痕が残っている。

 その近くの大岩から青瓦台(チョンワデン)が見えた。旧大統領府だ。ここは要注意地区だ。兵士がにらんでいる。

 そこからまた階段の上りが始まる。仁王山(イナンサン)338mだ。頂上を越えると、急な階段の下り道だ。永遠に続く感じがする。遠くには万里の長城みたいな景色が見える。今日の目的地彰義門より向こうの城壁が連なっている。このまま一気に行く気にならない距離だ。城郭は1周18kmあるということだが、今日はその3分の1の距離だ。写真OKの箇所なのでカメラをとりだしたが、いたるところに防犯カメラがある。前回来た時はなかった。監視の兵士の数を減らす方針なのだろう。

 彰義門の検問所に着いて、通行証を返却した。2時間15分だった。制限より15分早かった。昼時なので、タクシーで土俗村(トソクチョン)に行くことにした。有名なサムゲタンの店である。前に木村くんといっしょに行ったことがある店だ。

「いいですね。長谷川さんに朝鮮人参酒を飲ませたいですね」

「なに、それ? 私が飲んべみたいじゃない」

「いえいえ、たしなむ程度とは知っております」

 とか言っているうちに、タクシーをつかまえることができた。

 1時に店に入ることができ、サムゲタンを注文すると、早速小皿料理(パンチャン)とともに、朝鮮人参酒がグラスででてきた。

「これが噂の朝鮮人参酒ね。それじゃ、乾杯!」

 と言って、長谷川さんは一気に飲み干した。木村くんはちびりちびり飲んでいる。私は苦手なので、飲めないでいると

「木村さんは飲まないんですか? だったらいただけますか?」

 と長谷川さんが言ってきたので、グラスを渡すとまたもや一気飲みだった。

「これ、いけますね。ウィスキーみたいな味じゃないですか」

「やっぱり長谷川さんはいける口だ」

 と木村くんは喜んでいる。私は亡き妻を思い起こしていた。以前、この店に来た時に妻が私の分の高麗人参酒も飲んでしまったのだ。辛口がいける口だった。

 サムゲタンを食べ終わると、まだ2時だったので

「青瓦台に行ってみませんか。今、一般公開していますから3時に間に合うかもしれませんよ」

「いいですね。行ってみましょう」

 ということで、急いで青瓦台の西門へ向かった。運よく定員内におさまり、入ることができた。現大統領は青瓦台を嫌ったのか、別なところに引っ越している。警備上の問題かもしれない。中に入ると芝生広場が広がっている。山をバックにして見ると青い瓦屋根の建物が映える。交代で記念撮影をした。私が二人を撮る時、木村くんはいい笑顔をしていた。

 建物の中は宮殿の様相だ。きらびやかな装飾や豪華なシャンデリアが目を見張る。でも二人は(フーン)として顔をしている。二人ともこういうきらびやかな城にはあまり興味がない。

 5時に閉門。地下鉄で明洞にもどる。夕飯は明洞の屋台めぐりということにした。


 7時に明洞にでる。年末ですごい人混みだ。人をかきわけ進まなければならない。お菓子の「龍のひげ」の屋台では、丸い飴がだんだん細い糸に変わっていくさまを見て、二人とも驚いていた。でも、東京の新大久保で見られると分かると、ちょっとがっかりしていた。ホットケーキみたいなホットクはおいしかった。はちみつがかかっていておいしい。これだけで、おなかいっぱいになるぐらいだった。

 8時にはホテルにもどった。部屋で飲み直そうと木村くんが言ったが、男女別の階なので、行き来ができない。ホテルのレストランで飲むことはできるが、歩き疲れたので休むことにした。木村くんは少しがっかりしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る