第19話


 「ごめん。…なんて言った?」


 「だから、私は吸血鬼なの」


 「…へぇ。…ははは」



 この際なんでもいい。


 目の前にいる彼女は天ヶ瀬じゃない。


 それが”吸血鬼”だろうがなんだろうが、今は話を合わせるべきだ。


 じゃないと“殺られる”。


 今にもあのナイフが向かってきそうだった。


 変に機嫌を損ねないようにしなきゃ、また…




 「…わ、わかったわかった!吸血鬼…なんだな!?それで??」


 「…本当にわかってる?」


 「わ、わかってるって!」


 「…ふーん。まあ、いいや。で、どうするの?」


 「どうするって??」


 「家族に何か伝えたいこととかあるんだったら、今のうちだけど?」



 ちょっと待ってちょっと待って。


 本格的に殺る気じゃないか。


 …家族に「何」か…??


 遺言でも言えってのか?!


 冗談じゃない!



 「一旦落ち着いてくれ!」


 「それはこっちのセリフ」


 「…な、なあ、一旦話しあわないか?何が起こってんのかは正直よくわかんない。…けど、わかるだろ?」


 「なにが?」


 「やっていいことと悪いことがあるって話!」


 「聞き分けが悪いなぁ。傷が塞がったの見たでしょ?」


 「塞がっ…、ああ、…そうだな…」


 「キミの今の“状況”は、さっきも説明した通り。ナイフで刺されて、死んで、それから私が血を分け与えた。ここまでオーケー?」


 「お、おっけー…じゃない!!」


 「まだ、何かわからないの?」


 「わからないことだらけだって!!!大体“血を与えた”ってなんだ!?」


 「吸血鬼のことは知ってるでしょ?」


 「…うん」


 「吸血鬼に噛まれた人間は、同じように吸血鬼になる。吸血鬼は不死身で、心臓を持たない。それは知ってる?」

 

 「な、なんとなくは」


 「じゃあ話が早いじゃん。つまり、そういうことだよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る