Original king
@satuki_amia
第1話 オリジナル
とある大陸の、王国とは少し離れたとある村。
そこで、俺は暮らしていた。
「ちょ……! ちょっとくらい手加減してくれよ……」
俺は今、村の子供たちと一緒に鬼ごっこをしている最中だ。
鬼の俺は、この村の子供の中で最年長だ。だから八歳で最年少の、アイツには負けるわけにはいかない。
だが、今追いかけている相手のタキオンは、村の中で一番足が速い。
「年上のイデア兄が何言ってんの。僕と七つも違うのに」
「でも、能力使うのは違うじゃんか……」
そう言って、ひんやりと冷たい地面に膝と手をつく。三つ編みにしている後ろの長い赤髪が、横から落ちてくる。
……この世界には、一人一人に『能力』というのがある。
それは、タキオンのように自分を強化するものや、自然の力を操るもの、非科学的な事象をおこすものなど、様々なものがあるのだ。
「うーん……。能力もあるけど、そもそも走り方の問題もあるんじゃない? そろそろ僕が前言ったやり方でやってみようよ」
その言葉を聞き、俺は立ち上がる。
「い~や、俺には俺なりのやり方、能力はなくても俺の『オリジナル』があるんだ。このまま続けるぞ」
するも、タキオンは呆れたような顔をして、ため息をつく。こいつ本当に八歳か?
「はぁ……無能力者なのに頑張ること。オリジナルを求めるのもいいけど、他人を参考にするのも必要だと思うよ」
無能力者。そのままの意味で、能力を持たずして生まれた者。今までそんな事例は聞いたことないが、十五歳にもなって能力が発現しないということは、そういうことなんだろう。
タキオンは、そのまま走り去っていく。軽く俺の在り方を否定された気もするが、まあ俺は年上だから許してやろう。
俺は走り出す準備をする。
無能力者が能力者に勝つところ、タキオンに見せつけてやろうではないか。
――――――――――
「くそぉぉぉぉぉ! 全く勝てねぇ!」
あれからやく一時間が経過した。
呼吸が全く上手くできない。ここまで疲れたのはいつぶりだろうか?
こんなに走っても、一回も捕まえられないとは……能力、恐るべし。
「やっぱ能力じゃなくて走り方の問題だって……。走り方にオリジナル要素組み込んでも遅くなるだけだよ。だって研究され尽くされてるもん」
「でも自分のやり方で勝ったらすっごいかっこいいだろ!」
そう、俺は自分のやり方、俺の『オリジナル』を大事に生きている。だから、そんな他人のコツや技を盗むことはしないのだ。
「だからって地面からの反動を上に持ってくのはどうかと思うよ」
「……え? じゃあ俺跳んでるってこと?」
「若干ね。……あ、イデア兄、もうそろそろお祈りの時間だよ」
「わぉ、もうそんな時間か」
この村の真ん中にある巨大な教会を見る。その教会からここまで、大分距離があるはずなのに姿がくっきりとはっきりと見える。よくよく考えてみるとかなりでかい。
その教会のてっぺんには時計があり、五時を知らせていた。
「よし、じゃあ一緒にいくか」
お祈りとは、教会にある三つの巨大な守り神の像に対して祈りを捧げることだ。
その守り神は、『合成』、『複製』、『保存』という能力を使いこの世界を作ったと言われている。
そんな神に、祈りを捧げることで幸運が約束されるとか教えられたな。
「祈っても、能力を授かれるわけじゃないけどね~」
「お前は本当に煽るのが好きだな……。でも、相手のコンプレックスとかを煽らないように見極める力も育てとけよ?」
タキオンのその綺麗な青髪の頭を軽く撫でる。
「わ、わかってるよ……」
少し顔を赤くしながらそう言う。こういう可愛い一面もあるからいくら煽られても許せてしまうな。
「そ、そういえばイデア兄! いつかクラル王国に行くっていってなかっけ!?」
手を振り払われ、話題を変えられてしまう。
「……おぉ、タキオン。覚えててくれたのか」
タキオンはそんなこと覚えているような子じゃないと思ったのに、少し意外だな。
今タキオンが言ったとおり、俺は一週間後にこの村を出て、クラル王国に『騎士』になりに行くのだ。
この大陸で一番栄えている国、クラル王国。そこでは騎士団と呼ばれる組織があり、それは犯罪者を取り締まったり、国の平和と秩序を維持するための組織だ。
「騎士団行って、新しい『王』を作るんだーって騒いでたじゃん」
言われるほどそんな騒いだ記憶はないが。
「まあ、騎士王を目指すって人がほとんどだろうけど、俺は俺が最初のオリジナルの王を創る予定だよ」
騎士王とは、騎士団の中で特に優れた者に与えられる称号で、色々な権利が与えられる。
その中でも一番でかいのは、国の方針や政治に関わることができることだろう。
つい最近も現在の騎士王が、各村に危険があるとき、王国に支援要請を出せる『要請権』を発案し、導入された。
他にも膨大な収入、圧倒的な信頼などがあるだろう。
「でも、無能力者のイデア兄が、新しい王を創るとなったらなにになるの? 最近できた『炎王』とか『水王』とかなら名前ですぐどんなものかわかるのに」
「ぐぅ……あんまり無能力者のこといじるなよ……。まあ、俺には能力が無くても、オリジナルでいれるこの発想力がある! だから……『独創王』とか?」
「ふ~ん、能力のことについては触れない、賢い名前だね」
「おまっ……! ほんっと性格捻くれてるな!?」
「ほら、そんなことしてる間にもう教会着いた」
前を見ると、十メートルは超えているであろう教会と、他の約十五人の子供たちの姿があった。
「あ、イデアとタキオン! ……今日もタキオンが勝った?」
この村で一番元気な子、ポスがそう問いかける。結果はここの全員分かってるだろうけど。
「もちろん! 僕がイデア兄に負けることはないよ!」
「次こそは俺が勝ってやるから待ってな……って、皆お祈り終わったのか?」
「ん? ああ、ついさっき私が終わってそれで最後かな? だから行って来ていいよ」
お祈りは、一人ずつ行われる。教会内に一人のみ入り、守り神の前で手を合わせるのだ。
「じゃあいってくるかな」
そう言って、教会の重たい扉を開ける。キィ、と音を立てながら動くところを見ると、この教会はかなり前からあるようだ。
教会の中は、左右に横長の椅子が四つずつ、そして奥には守り神三体の像、あとは窓から光が入り込むだけだ。
守り神に目を向ける。左から『合成』の神イオル、『複製』の神マラデイ、『保存』の神ターシア。
彼らの前に片膝をつき、頭を下げる。他の皆はお祈りの時、手を合わせ頭を下げているらしいが俺は違った。
これは昔見たことがある騎士を、珍しく俺が真似ているのだ。
普通は皆のようなお祈りの仕方だろう。だが、お祈りの仕方は何も教わってない、だからなにか言われる心配はない。
そして、心で唱える。
いつか、王になれますように。
――――――――――
この村は、身寄りの無い子供たちが多い。俺もその中の一人だ。
そして、今の人口の割にこの村は広い。だからこの村では子供二人で家を一軒使うという贅沢な状態になっている。まぁそこまででかい家って訳ではないからよくある二人暮らしみたいな感じだ。
俺は、タキオンとの暮らしになっている。だいたい年齢の平均が全家同じくらいになるようにした結果、こうなった。
「あぁ~、疲れた~」
「へ~、やっぱお前は能力の扱いはあまり上手くないみたいだな~」
ベッドでグッタリと倒れているタキオンに、煽り口調で言う。
「別にイデア兄に煽られてもそんなにだなぁ……。ねぇ、ご飯できた?」
「もう少しかかる。先に着替えと洗濯してっていっただろ?」
「もう終わったから言ってんの」
「速すぎだろ」
晩ご飯である料理を煮込みながらそんな会話をする。
そんな中、ドアをノックする音が静かに会話の中に紛れ込んだ。
静かなノックの音。こんな時間に他の子供たちは来ない。ならば誰か? 来訪者?
「俺が出る。タキオンはこれ混ぜといてくれ」
誰かは分からないが、出ないわけにもいかない。だから、晩ご飯をタキオンに任せて俺が行こう。
そうして、ドアを開ける。
「どちら様……」
そこには、二メートル弱ほどの身長で、鎧を身にまとっているベージュの髪色の男と、オレンジと白の混じったセミロングの髪に、黒いティーシャツの女性がいた。
そして、男が喋る。
「どうも。私は八代目『騎士王』、バレウス・サーレントと申します」
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