鏡の中の悪魔
阿院修太郎
第1話:暗黒の兆し
ロンドンの霧深い夜、冷たい風が街路を吹き抜け、ガス灯の下で揺れる影が不気味な音を立てていた。クロード・グリムは、その街を一人歩いていた。彼の顔には冷徹な探偵の面影が浮かんでいたが、その奥底には誰も知らない秘密が隠されていた。
彼はロンドン警視庁から依頼された新たな事件を解決するために、被害者のアパートへと足を運んでいた。事件の内容は残酷だった。若い女性が自宅で襲われ、酷い性的暴行を受けた後、命を奪われた。現場には手がかりがほとんど残されておらず、捜査は難航していた。
クロードはアパートの扉を静かに開け、薄暗い部屋に足を踏み入れた。家具は乱雑に散らかされ、壁には争った跡が生々しく残っている。彼は冷静に部屋を見渡し、目を細めた。
「ここには何かが隠されている...」
クロードは低く呟いた。彼の声に応えるように、頭の中で他の人格がざわめき始める。ロイスがまず現場を分析し始めた。彼の目は細部にまで及び、犯人が残した僅かな痕跡を見逃さないようにと集中していた。
「ここにあったはずのものがない。犯人は意図的に何かを持ち去ったに違いない...」ロイスは鋭い推理を展開する。
しかし、ロイスが調査を進めている中、クロードの中で別の声が強く響き始めた。サイラスだ。彼は他の人格とは異なり、凶暴で冷酷なサイコパスだった。サイラスは彼の心の奥深くから囁いた。
「もっと....もっと近づけ。被害者の恐怖と痛みを感じるんだ。それが俺たちの力になる。」
クロードは瞬間的に動揺したが、それを隠すようにして冷静さを保とうとした。しかし、サイラスの声はどんどん強くなり、彼の意識を支配しようとしていた。彼の手が自然と被害者の遺体に触れ、犯行の詳細を思い描き始める。彼の内なるサイラスが、暴力と恐怖に満ちた光景をまざまざと描き出す。
「ここで....ここで彼女は恐怖に震え、無力な状態で犯人に蹂躙されたのだ...」
クロードの声は無意識のうちに低く、暗くなった。サイラスが主導権を握り始め、彼の中で暗黒の衝動が目覚めていく。クロードは必死にその衝動を抑え込もうとしたが、サイラスの力は強大だった。
そのとき、突然クロードの意識が揺らぎ、彼は自分が次に何をするかを把握できなくなった。目の前にあるのは、被害者の恐怖と絶望に満ちた表情だった。彼の手は勝手に動き、彼女の顔を撫で始めた。
「何をしている....?俺は探偵だ....」クロードは自問する。しかし、サイラスの声が彼の心を支配し続けた。
「君は探偵だが、それだけじゃない。君の中には、闇が潜んでいる。そしてその闇こそが、君の真の姿なんだ。」
その瞬間、クロードの中で何かがはじけ、サイラスが完全に主導権を握った。彼は冷酷に微笑み、被害者の苦しみを感じ取ることに喜びを覚えるようになった。
しかし、次の瞬間、アーロンが現れ、サイラスを抑え込もうとした。アーロンはクロードの中でリーダーシップを発揮する人格であり、他の人格を制御する役割を担っていた。
アーロンは必死にサイラスを押さえつけ、クロードの意識を取り戻させようとした。
「サイラス、やめろ!俺たちは犯罪者じゃない、探偵だ!」
クロードはその言葉に反応し、徐々に正気を取り戻し始めた。彼の手は被害者から離れ、目に浮かんでいた狂気の光も消えていった。
彼は深く息を吐き出し、自分が何をしようとしていたのかに気づき、恐怖で震えた。
「俺は..一体何を...」
クロードはその場に崩れ落ちそうになるが、アーロンの助けを借りてび立ち上がった。
彼は何とか平静を装い、事件の捜査を続ける決意を固めたが、心の中にはサイラスという恐ろしい存在が潜んでいることを忘れることはできなかった。
そして、彼は決意する。自分の中に潜む闇と向き合い、再びその力に飲み込まれないようにしなければならない。しかし、果たしてそれが可能なのか、彼にはわからなかった。
この先、クロードはサイラスとの内なる戦いと、外界の事件解決との間で揺れ動くことになる。果たして彼は、自分の正義を貫き通すことができるのかーー。
少しでも面白かったらフォローお願いします
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます