第13話 ドスケベダンジョン攻略開始

 僕ら仲良しパーティは早速、ダンジョンへ挑むことにした。

 街のすぐ傍に、冒険者ギルドに出入り口を管理された大規模なダンジョンがある。

 その地下10階層を目指して、僕らは中へと入り込む。

 ただし、そこに住むダンジョンボスの黒龍に会うまでは極力他のモンスターと戦うことは避けなければならない。僕とラットには戦う力はほとんどないし、ヘルは黒龍以外のモンスターとは戦わないからだ。


「私が死の女神の元へ送るのは、あなたが選んだ命、黒龍のみだ」


 そうヘルが言い切るのだから仕方がない。

 となると、地下1階層のザコモンスターでさえ、出会ってしまったら僕らは詰んでしまうだろう。それくらい、僕とラットは弱い。


「……というわけで、早速ラットの隠密ユニークスキルをお願いしたいんだけど……」


 僕はさりげなく、とても自然な形でスキル『マジックミラーゴウ』の発動を促した。


「別にエッチなことを期待してるわけじゃなくてね? ダンジョン攻略のために必要なことだから、仕方なく、ね?」

「……い、いいよ」


 ラットはもじもじしながら言う。

 それから、はぁ、と息を吐いた後、僕の目をじっと見つめながら、


「じゃあ、一緒にマジックミラー発動……しよっか?」


 恥じらいと覚悟。

 ラットの目からはそんなものが読み取れた。

 ドキドキしてくる。

 これからラットと……。

 そう意識してしまうと、口ももつれるってものだ。


「そ、それで、ど、どのくらい、その、エッチなことすればいいの?」

「そ、そんなの、あたしの口から言えないよ」


 もしかして、そんなすごいエッチなことしていい……しなくちゃいけないのか!?

 それは良くないよ良くないなあ良くないですよね?


「じゃ、じゃあ、今までの経験というか、マジックミラーゴウを発動させたエッチなことってどんなやつだったか教えてくれる? それこそ、地下10階層まで行ったときはどんなエッチなことしたの?」

「……ち……」

「ち?」

「……乳首……」


 乳首!?

 地味でおとなしそうなラットの口からそんな言葉が出るだけで、ふはっ、と息が漏れたけど、まだその先があるはず……!


「ち、乳首をなに? 乳首をどうしたの?」


 とても重要な情報なので、早口で聞いてしまった。

 乳首をお触りする感じ?

 くりくりくりくりくりっくり。くりっくくりっく。

 と、突然通りすがりのクリ鳥が鳴き始めたのでびっくりした。ダンジョンにはいろんな生き物がいるなぁ。


「……その……ち、乳首、を……」


 ラットは僕と決して目を合わせないようにしながら、もごもご言いかける。

 こんな恥ずかしがってる子が自分の乳首を……。

 どうするんだ? 白い薄布着を着て、乳首を浮かび上がらせるとかもエッチだし、それとももっと変態チックに、乳首に金属の輪っかを装着して揺らしてみたりとかするんだろうか。


「……お互いに舐めあったりとか……」

「それは……っ!」


 僕は想像してしまた。

 僕とラットで乳繰り合っている姿を。

 レロレロレロレロレロレロレロレロ。

 突然、通りすがりのレロ虫が鳴き出したのでびっくりした。ダンジョンにはいろんな生き物がいるんだ。そういうものなんだ。

 それはともかく、僕は唾を飲み込んだ。


「じゃ、じゃあ、早速そのマジックミラーゴウを発動するために、や、やろうか……? まずは上の服とか装備を外して……」


 震える手で僕は身に着けているローブのボタンを外していく。

 外そうとして、ボタンが指からつるりと滑った。やり直す。また、つるり。

 もどかしい……!

 ローブ引きちぎろうかと思った。

 と、ラットが顔を真っ赤にし、僕を両手で押さえるように制してくる。


「そ、そんなまだ第1階層で、は、早すぎるってば! この辺りの上層部分なら、もっとエッチなのが少ないのでいいの!」

「そ、そうなの?」

「そう! ちょっとドキドキするくらいでいいの! 手を繋ぐとか、そういうので」

「え、それでいいの? それ、エッチ……かなぁ?」


 村祭りで女の子を初めて誘う子供みたいなんだけど。

 いや、でもまあ、確かに女の子の手をしっかり握るのってドキドキするし緊張するな……!


「わ、わかったよ。まずは手を繋ごうか……」

「う、うん」


 おずおずと差し出されたラットの手を、僕はそっと掴んだ。

 相手が意識されて、思ったより顔が熱い。

 近いし、ラットの香りも吐息も感じられた。

 で、問題は、


「……これでマジックミラーゴウは発動してるの?」

「大丈夫。今、あたし達の周りはマジックミラーで作られた空間に覆われてる。あたし達は今、存在感がすごい希薄になってるから低レベルのモンスターになら気付かれない」

「そ、そうなんだ」


 これくらいで……。

 ちょっと期待外れっていうか……。

 い、いやいや。

 別に、ダンジョンのモンスター達から見つからないようになってさえいればそれでいいんだから。主目的はそれ! だから、期待とかそんなのない!


「そういえば、これでトラップなんかもすり抜けられるんだよね?」

「手を繋いだ程度だと、トラップや鍵のかかった扉は通れないと思う。もうちょっとエッチなことしないと……」

「なるほど」


 じゃあ、第7階層に行くまでにはキスぐらいしておきたいところ。

 ところで、


「……さっきから何も喋らないけど、ヘル? どうかした?」

「……」


 僕の傍らで、ずっと無言のままでいるヘルに話しかけてみたが、返事がない。


「あれ……? あの、見えてる? 聞こえてる?」

「見えているし聞こえている。ただ、あなたと話す必要がないだけだ」


 ヘルはそっけなく言ってきた。

 静かにキレてる……?

 ふざけてると思われてるんだろうか。

 と、ヘルは僕ではなく、ラットに話しかけた。


「疑問がある。お前のスキルはお前1人で発動できるのではないか?」

「えーっと……」


 ラットは口ごもった。

 ヘルは更に言い募る。


「お前が1人で性的かつ羞恥心を感じる行為を行えば、それでスキルは発動しないのか?」


 ヘルの言葉に、僕もふと思った。


「ん? ああ、ラットがここで1人裸踊りでもすれば、それでマジックミラーは発動するんじゃないかってこと?」


 1人でくねくねストリップダンスをする。それもエッチなことには変わりない。

 なら、それでスキルが発動してもおかしくはないか。

 ヘルは冷たい目でラットを見据えている。


「つまり、お前は必要のない行為をこの者にさせているのではないか。手を繋いだり体に触れあう必要はないのでは?」

「それは、その……」


 ラットは言い淀む。

 ヘルが僕に目を向けてきた。

 なんの光もない瞳。


「やはり、この者の命を死の女神の元へ送ろう。この者の名を言え。この者は欺く者だ」

「厳しすぎない!?」


 僕は思わず声を上げてしまう。


「そんなことで一々死の女神の元へ送ってたら、人類死滅しちゃうよ!?」

「待って。確かに、あたし1人でマジックミラーは発動できるんだけど……あたし1人だけだと効力が格段に弱まるの」


 ラットは俯いている。


「……あたし1人じゃあんまりエッチじゃないみたいで……地味だしスタイルだって良くないし……だから、どうしても誰かにエッチな協力をしてもらわないとダンジョンの深くにまで行けないんだよ……」


 そうかー。

 そういうことなら、協力は惜しまないぞ!

 エッチな手助けがないと10階層まで行けないんじゃ仕方ないしね!

 ……ん? ということは?


「あのさ?」


 僕は思い浮かんだ疑問そのまま口に出した。


「以前に第10階層まで潜った時、ラットは誰に、その、協力してもらったの?」


 なぜか僕の胸はざわついていた。

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