紹介

 あまりいい目覚めとは言えなかった。

頭が痛い。

顔をしかめながらカーテンを開けた。

光り輝く窓が鬱陶しい。


結露してできた水滴一つ一つにも反射して、光が俺の目から入り込み二日酔いで本調子ではない脳に突き刺さる。


「ヒェェ……」

と言いながら窓から顔を背け、俺はベッドに再度倒れ込んだ。


昨晩、調子に乗って飲み過ぎた。

今日は俺と同じように二日酔いの連中がたくさんいることだろう。


みんなタダ酒だからってバカみたいに飲んでたからな。


ハァ……。

こういう時は日光と大きな音が心底憎らしく感じる。


15分ほど枕で頭を覆うようにしてベッドに伏していたのだが、やる気を奮い起こしてなんとか立ち上がった。


「仕事探さねぇと」


よく考えたらトウゲンたちのパーティーに入らなかったのだから、他のパーティーを探さなければならないのだ。


申し訳ないが、またユブメに頼むことにしよう。

と、いうことで俺は今日もギルドに向かうことにした。



 で、ギルドに到着してユブメを発見し、相談を持ち掛けたわけだが、ユブメは俺の話を聞いて不思議そうに首を傾げた。


「シラネさんは調査団に入ろうとは思わないんですか?」

「え?」

今度は俺が首を傾げた。


「ちょっと小耳に挟んだんですけど、シラネさんは調査団の仮免許を取られたんですよね? そのまま調査団に入るという選択も可能だと思うんですけど。というか、普通はそうするんじゃないですか? せっかくのチャンスですし。収入もきっと桁違いに増えますよ?」


「あー」

言われてみて、自分でも少し驚いた。

何故だか、まったくその考えに至らなかったのだ。


確かに調査団に入ることは人から羨ましいと思われるようなことで、そのチャンスが目の前にあってそれを掴まないというのは奇妙だとさえ言えるだろう。


しかし、俺はその選択肢を無意識にありえないと思っていた。

自分でも本当に不思議だ。


「君に言われて、確かにそうだなとは思ったんだけどさ、でもなんか違う。冒険者を辞めるっていうのが、俺の中でありえないというか、あってはならないというか。……んー。なんて説明すればいいか分からないな」


悩む俺を見て、ユブメはこう問うてきた。

「シラネさんには冒険者でいなければならない理由でもあるんですか?」


俺は考えた。

考えれば考えるほど分からなくなった。

理由があるように思えないのだ。


危険な仕事だし、ギルドのみんなからは基本的に嫌われてるし。

辞める理由はいくらでも思いつく。


でも、じゃあ辞めたいかって言われると、辞めたくない。

なんで辞めたくないのか自分でも分からない。

困ったな。


ユブメはそんな俺の様子を見て

「何かこの仕事に対する自分でも気づいていない気持ちがあるんでしょうね」

と言った。


「そうなのかもな」

なんとなく釈然としなかったが、今は放っておくことにした。


「とりあえずこの話はこのくらいにしてさ、お願いがあるんだけど」


俺が切り出すと、分かってますよとでも言うようにユブメは頷いた。


「また他のパーティーをご紹介します」

「助かる~」


ありがたい。

この子、本当にいい子だな~とか思っていると

「ちょっと訊いてもいいですか?」

とユブメは言った。


「どうした?」

「いや、なんでトウゲン君たちのパーティーに入らなかったのかなぁと。クエストから帰ってきたばっかりの時はギスギスしてましたけど、結局なんだかんだ仲良くなったんですよね?」


「あー。俺も一瞬やっていけそうだなって思ったんだけど、リサに断られた。『あなたがいるとなんだかズルしてるみたいで嫌です』って言われてな」

俺はリサの口調を真似るように高い声を出しながら言った。


「なるほど。彼女らしいですね」

ユブメはちょっとだけ笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る