隠しダンジョン

 俺は驚きすぎてしばらくじっと隠しダンジョンの入り口を見つめた。

リーダーはすぐにランに駆け寄った。


「大丈夫!? 何があったの?」

ランは興奮した様子で説明した。


「服が臭くなったことにムカついて、八つ当たりのつもりでその辺の壁を思いっきり蹴ったの。そしたらなんか扉が開いた!」


八つ当たりで壁を蹴る系魔法使い女子怖い……。


いや、そんなことより。

これは大変なことだ。

隠しダンジョンなんて滅多に見つかるものじゃない。


今までドンピシャでCランクだと思っていたこのダンジョンのランクも変更されるだろう。


隠しダンジョンは、もし見つけたらギルドに報告しなければならない。


そしたらすぐに調査団が派遣されて、その調査結果によりランクが設定される。

でも、馬鹿正直に報告される事例は少ない。


ほとんどのダンジョンというのは、すでに探索し尽されていて、冒険者は基本的にモンスターの落とす素材が目的でダンジョンに入る。


しかし、新たに発見されたダンジョンとなれば話は別だ。

まだ誰にも見つかっていないお宝がある。

一攫千金の大チャンスである。


報告して調査団に回収される前に、自分たちがゲットしてしまおうというわけだ。


だが、当然リスクもある。

誰も見たことがないのでどんな仕掛けがあるのか、どんなモンスターが生息しているのか、まったく分からない。


というか、隠しダンジョンというものは総じて危険性が高い。


だからちょっとくらい経験を積んでいる者ならば、誘惑を振り切ってギルドに報告するのだが、そうなることは少ない。


なぜなら隠しダンジョンはランクが低めのダンジョンの中にしかないからだ。


ベテランは当然ランクが高いダンジョンに行くことが多く、必然的に隠しダンジョンを見つけるのは経験の浅い者ということになる。

で、大体事故る。


金に目が眩んだ初心者パーティーが勝手に隠しダンジョンに入って全滅するというのは定番の流れだ。

案の定、ランがはしゃぎ始めた。


「やったー! めっちゃラッキーじゃん。さっそく入ろうよ」


俺は慌てて止めた。

「待って待って。危険です。素直にギルドに報告した方が身のためですよ」


ランから予想通りの反応が返ってくる。

「そんなのもったいないじゃない。せっかく目の前にお宝があるのにその場から立ち去るなんて冒険者としておかしいでしょ」


「うーん。確かにそうよね。シラネさん、どうせ今回きりの関係なのにあまり口出ししてこないでください。これは私たちパーティーの問題です」

リサも冷めた目で俺のことを見ながら呆れたようにそう言った。


「そうだそうだ!」

ランは隠しダンジョンを見つけたことで完全に舞い上がっているようだ。


「二人とも!」

「いや、いいですよ」

リーダーが二人を注意しようとしたのを制して俺は続けた。


「確かにその通りですね。あなたたちが勝手に無謀なことして無様な死を遂げたところで、俺はどうでもいいです。むしろあんたら二人については結構嫌いだからちょっとスカッとするかもしれない」


「なっ!」

リサが俺のことを睨みつけてきた。

俺は構わず続ける。


「でも、それは俺の評判に関わるんですよ。初心者パーティーと同行しておいて、どうして危険な行動を止めなかったんだってね。ただでさえ低い俺の評価がこれ以上下がっちまったらマジでやばい。お前らの言う通り、俺は部外者みたいな立場だけど、自分のために止めないわけにはいかない」


「……やっぱり、あなたってクズなんですね。噂通りです」

リサが吐き捨てるように言った。


「自分の損得しか考えていない。私たちのために言ってくれてるのならまだ聞く耳を持ったかもしれませんけど、はっきりと自分のためだって言われて素直に従うと思います?」

「従ってもらいたいな」


「嫌ですね。ラン、無視して行こ」

「うん!」

リサとランは俺から逃げるように走って隠しダンジョンに侵入した。


「ちょっと! 何してるの、戻ってきて!」

リーダーが扉の向こうに叫んだ。


「……あんたも大変だな」

こんな事態になった以上、もうどうやったってこのパーティーに入ることはないと確信した俺は、今まで一応使っていた敬語を完全にやめて、心底同情しながらリーダーの肩に手を置いた。


「シラネさん、どうしましょう……」

リーダーは顔面蒼白で俺の顔を見た。


「応援を呼びに行ってたら二人ともお釈迦っちまうだろうし、追いかけるしかないだろうな」

「……そうですね。行きましょう!」

「おう」


そういうわけで、不本意ながら俺とリーダーも隠しダンジョンに突入した。

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