EASY MONEY (その3)
最初に感知したのはクメールだった。
「来るよ。ブラックウルフ10、右前、森から」
事前のシミュレーション通り、素早くトシ、クメール、ケイ、セラが配置につく。
セラの弓で数を減らし、ケイが止め、トシとクメールで残りを仕留める。
10分とかからず群れは全滅させられた。
死体をストレージに回収して出発する。
「簡単すぎてつまらないわねえ」
クメールは全然物足りなさそうだ。
「安全に越したことはないだろう」
「そういうけどねえ、トシ。、もっと歯ごたえのあるのがこないかなあ」
「よせよメル。それはフラグだ」
慌ててケイが窘めたがもう遅かった。
それからというもの出るわ出るわ。
「オーガ5、後ろ右・・・」
「ワイバーン3上・・・」
「ゴブリン23、ライダー、ウォリアー、アーチャー各5、メイジ2、ジェネラル1・・・」
「コカトリス、もう来た・・・」
「なんでここにサイクロプスが・・・」
毎日々々魔獣の群れが襲ってきては撃退の繰り返し。
それも魔族領に近づくにつれ明らかに危険度が上がっている。
これより上はドラゴンクラスになってしまうと、ガルム兄弟は生きた心地がせず魔族の神に必死に祈りを捧げる始末だった。
その甲斐があったか無かったか、ようやくはるか先に王都の防壁が見ええるところまで来た。
王都目指して記録的な速度でキャラバンは進み、その日の午後遅く、無事王都入城にこぎつけたのだが、入ったとたん緊張の糸が切れた一行はその場にへたり込み一歩も動けないのだった。
入城したその夜、なぜか黒魔団一行は王城にいた。
今まさに魔王に謁見するため控えの間に放置されている。
質実剛健ながら細部まで手の込んだ装飾が施された、王城にふさわしい調度品に囲まれ、一行は尻の落ち着かない居心地の悪さを味わっている最中だ。
一行が腰かけているソファの前には、ローテーブルを埋め尽くさんばかりのお菓子やら軽食やらが並べられている。
それもそのはず。
宿に落ち着き、さあこれから魔王領で初めての食事にありつこうかというところで、
王城からの使いによって有無を言わさず王城に拉致されてしまったのだから。
一行の後ろにはフィクションでしか目にすることのない本物の執事やメイドが控えている。
また2か所ある扉の両脇には、フルアーマーで身長は優に3mを越す、筋肉の小山のごとき威容の騎士が2名づつ、彫像の如く屹立している。
良い香りが部屋中に漂い、否が応でも食欲を刺激するものの、誰一人手を付けようとする者はいなかった。
庶民や平民の出自である一行がロイヤルマナーなど身につけている訳もなく、このようなシチュエーションでは食べたくとも食べられないというのが本当の所だった。
しかしというか、やはりこのような状況下でも平常運転の者が一人いた。
「美味しいわねえコレ。こっちのお菓子も甘くて蕩けそう!みんな食べないの?あたい全部言食べちゃうよ」
夕食をお預けを食らって機嫌の悪かったクメールが、ここぞとばかりに爆食いしている。
ものすごい勢いで料理が平らげられていく。
「帰りたい・・・」クメールのはしゃぎっぷりを横目で眺めながら、いたたまれなくなったシュウがボソっと呟いた。
そんな折、控えの間を典礼服に身を包んだ燃えるような赤毛で長身痩躯の男性魔族が訪れた。
背が高いため一見瘦せているような印象を受けるが、服で隠された体は筋肉質で動きにまるで隙が無い。
「あらぁいい男」ほぅっとミーナがため息を漏らす。
ミーナだけでなく、一同皆目を奪われてしまったレベルの美丈夫だ。
「お待たせいたしました。これより魔王ゼパルース陛下が謁見なさいます。申し遅れましたが、私は宰相のセーレスと申します。どうぞお見知りおきを」
深々と一礼して後を続けた。
「陛下に謁見される前に、皆さまに一言ご忠告を。陛下は、えー、その、何というか・・・」
なぜか額から汗を滴らせ、歯切れが悪くなった。
いい男が台無しだ。
「まあ少々アレと申しますか、いやその、まあとにかくよく言えば大変個性的な、悪く言えば型破りな御方であらせられます。ですので皆様どうかお気を強く持たれて」
「おい待て、何だよそれ」
我慢できずシンがツッコむ。
「ではこちらへ」
ゼーレスは強引に話を打ち切ると騎士に合図した。
謁見の間への扉が開かれ、一行を先導し中へ進んでいった。
釈然としない気持ちを抱きながら、仕方なく一行は謁見の間へと足を踏み入れたのだった。
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