第5話
面会時間通りに教会へと到着したマイカは静かに扉を開けて中に入る。
中で待っていた教皇が優しく迎え入れる。
「お待ちしておりましたマイカ王女」
「お久しぶりです教皇様。
本日はお時間を頂きありがとうございます」
「いえいえ。
こちらこそ遠路遥々お越し頂きありがとうございます。
何か私にお話しがお有りだとか?」
「はい。
是非とも教えて欲しい事がありまして」
「なんでしょう?
私に分かる事でしたらお答えいたします」
「では単刀直入にお伺いします」
マイカは軽く息を吸ってキリッと教皇を見る。
そしてストレートに問う。
「愛しのナイトメアはんの正体を教えて欲しいどす」
「巷で噂のナイトメアですか。
残念ながら私にも正体はわかりかねます」
「ふふふふふふっ」
マイカは不気味に笑う。
その瞳は光が映らないほど黒く教皇を見つめる。
「またまた惚けはって。
知らんわけおまへんやろ?
なんせあんさんがお招きになりはったんやろ?」
「申し訳ありません。
何の事か私にはわかりかねます」
「まあ、そうおっしゃらんと。
私にはわかっておるんやで。
ロビン・アメシスはん」
その名を呼ばれて教皇の鼓動は一瞬早くなる。
だけど決して表には出さない。
「マイカ王女。
人違いですよ」
「カラットから伺っておりますさかい、無駄な事はやめまへんか?」
「そのカラット様を存じ上げませんが、その方は何か勘違いをされておられるのでは?」
「せっかく有意義なお話しが出来ると思っとうたのに残念どすな〜
私としてはナイトメアはんの正体に目星はついとりますさかい、答え合わせをしたかっただけどすのに……」
マイカは軽く肩をすくめる。
「では教皇様。
私の話を聞いてくださいますか?」
「構いませんよ」
「私は知っての通りカルカナ王国の王女です。
私が産まれた頃にはホロン王国との仲は良好になっていました。
でも当時の私はホロン王国を手中に収めようと目論んでいました。
幼い私がどうしてそんな事を目論んでいたと思います?」
マイカは教皇に問う。
教皇は首を横に振ってわからないと意思表示する。
「カラットですよ。
彼はロビン・アメシスに並々ならない対抗心を抱いていました。
だからロビン・アメシスが恒久の時を生きてでも守りたかった女神ティオネが眠るこのホロン王国を滅ぼしたかった。
だから幼い私を誑かしたのです。
だけど私は病に侵され死んでしまった。
焦ったカラットはすぐに今の私の魂を調達してマイカ王女の亡骸に定着させて蘇らせたのです」
「本当にそんな事を?
それは倫理に反する事ですよ」
「そんな事を気にする男ではありません。
それは教皇様もお分かりでしょ?」
教皇は黙って肯定も否定もしない。
返事が返って来ないと判断したマイカは話を続けた。
「何故私の魂が選ばれたか。
それは前世でナイトメアに恨みで成仏出来ていなかった魂だからですよ。
つまり私はナイトメアへの当て付け。
カラットの劣等感の現れと申しましょうか」
「後悔してるのですか?」
「まさか。
むしろ感謝してます。
王女としての地位、そしてカルカナ王国と言う美しい国を手に入れる事が出来たのですから。
ただね。
どうしてもナイトメアはんの事が忘れらへんのや。
ついついナイトメアはんの事を追いかけてしまいますのや。
王女と言う地位は便利どす。
調べたい事を簡単に調べられますやろ。
すると違和感があるんどす。
私の知ってるナイトメアはんは他人の事などどうでもよろしいのや。
その冷たさがまた魅力なんどす。
なのに今のナイトメアはんは他人の為に動く時があるんや」
マイカは如何にもわざとらしく何かを思い出す素振りを見せる。
そしてニヤリと笑った。
「でも思い出してみたら前世でも一度だけ他人を助けた事がありますさかいに。
それは私が日本ちゅう国でナイトメアはんとやり合うた時に一度だけ。
大学生の綺麗な女性やったどす。
その名は善正 由理。
あの時はただ綺麗な物好きの気まぐれかと思うとおたんやけど、もしかしたら彼女やから助けたかも知れへんな〜」
マイカは教皇の顔色の変化を見ようと顔を覗き込む。
それでも教皇は顔色一つ変えずに話を聞いていた。
「そう考えるとこの前アンヌはんを攫いに来たのも助ける為だったのかも知れへん。
その目線からナイトメアはんの行動を追いかけて行くと、自ずと候補が絞られていくんや」
「マイカ王女はそのナイトメア様の正体を知ってどうするつもりなのですか?」
「ふふふ。
気になるんどすか?」
「ええ。
一国の王女が危険な事に首を突っ込むとなればお止めしないといけませんので」
「ふふふ。
それはな……
なんもせえへんどす」
「何もしない?」
「強いて言うのならサインもらいに行こうかいな」
「それならどうして知りたいのですか?」
「興味どす。
私を気がおかしくなるほど散々犯し尽くして殺した男。
その男が今はどんな姿でどのような暮らしをしているのか?
ただそれを知りたいだけどす。
それ以上望むとしたら、偶にでかまへんので私と遊んで欲しいくらいどすね。
やさかいに――」
マイカは言葉を切って不気味な笑みを浮かべながら周り右をして出口に向かって歩き出した。
「正体を教えて貰えへんかったのが残念で残念で仕方おまへんのや。
こうなると自力で探らなあきまへんな〜
まず手始めにアンヌはんにちょっかい出すのまいいと思いまへん?
そう言えばカラットが言ってはりましたで。
ロビン・アメシスが愛した女、女神ティオネが依代に選んだ女性がおるって。
名前は……
ふふふ。
では教皇はん。
お話し聞いてくれておおきにな」
そう言ってマイカは含み笑いを浮かべながら協会を後にした。
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