第5話

日が落ちた夜の街に僕は繰り出した。

週末と言う事もあって王都の飲み屋街は賑わっている。


僕はその中を歩く。


「おっ!

少年じゃないか!」


探していたツバキが飲み屋の中から手を振って来た。

まだ早い時間だと言うのに周りには酔い潰れた男達と空になった酒瓶が転がっている。


一体何時から呑んでいたんだろうか?


「やあ、ツバキ」

「少年も一緒にどうだい?」


ツバキが空になった酒瓶を揺らして誘って来る。


「せっかくだし誘われちゃおうかな」

「そう来なくっちゃ」


ツバキが座っていたソファーの端に移動して横に座る様に促す。

そのお誘いを受けて隣に座ったらツバキがお酒を注いでくれた。


「かんぱ〜い」


ツバキが楽しそうに自分のグラスを出すから僕もグラスを出して鳴らす。


「なんかキャバクラみたいだね」

「また少年はそんな事言って〜

私みたいなおばさんキャバ嬢なんてみんな願い下げだよ」

「そんな事無いよ。

僕なら通っちゃうね」

「少年は本当に優しいね。

惚れちゃいそうだよ」

「僕はもうメロメロだよ」

「アハハハ。

これは一本取られたよ」


ツバキはそう言って楽しそうに酒を流し込むと新しいのを注文した。

それでもう一回乾杯する。


確かにこのスピードで飲んでたら並大抵の人は潰れるだろう。

あわよくばこの色気ムンムンのお姉さんと一晩をとか考えていた男共が哀れに感じる。


「ねえツバキ」

「なんだい少年」

「ヨーゼフってどんな奴?」

「ヨーゼフは賢い奴さ。

ちょっと生意気な所もあるけどね。

そう言う所もなんか可愛い奴なんだよ」

「いくつなの?」

「19」

「僕より年上なんだね」

「そう言えばそうだね」

「見えないよね」

「そうかい?

ちょっと背は低いけど、年相応だと思うけどな」


いや、あれはちょっと背が低いってレベルでは無いと思うけど……


「ツバキの親戚なんだよね?」

「そうさ」

「ツバキって獣人の親戚がいるの?」

「いや。

いないよ」

「そうだよね」

「ハハハ。

少年はいつも面白い事を言うね」

「別に面白い事を言ったつもりは無いんだけど……」

「それにしても君はお酒に強いね」


そう言いながら空いた僕のグラスにお酒を注いでくれた。

それを軽く飲み干す。


「ツバキみたいな綺麗な女の人と飲むと楽しいからね」

「おやおや?

もしかして酔ってるのかな?」

「シラフだよ」

「シラフでそんなお世辞を良く言えるね」

「お世辞じゃないからね。

酔った勢いでこんな事言わないよ」

「ハハハ。

でもね少年。

たまには流れに任せて呑まれてみるのもいいものだよ」



結局ツバキからは何も情報は得られなかった。

てか、途中から楽しく飲んだだけになっちゃった。

まあ楽しかったからいっか。


酒には酔って無いけど気分良く夜の街中を歩く。

ヤンチャ盛りの若者達がいくつかのグループに分かれて楽しそうに騒いでいる。

その中で1人でいる一際可愛い女の子が、次々に来るナンパを上手い具合に軽く遇らっていた。


そりゃあ、あんなに可愛かったらナンパされるよね。

仕方ないよ。


その子と目が合うとにっこり微笑みながら歩いて来る。


「やあカナリア。

よく似合ってるね」


尻尾も耳も隠して人間の女の子みたいに変装してるけど間違いなくカナリアだ。


「えへへ〜

ボスにバレちゃった」


バレたと言うのになんだかカナリアは嬉しそうだ。


「こんなに可愛い子あんまりいないからね」

「えへっ。

ボスに可愛いって言われちゃった」


カナリアは全身を見せる様にクルッと回る。

うん、可愛い。


「何してたの?」

「お仕事だよ」

「そうなんだ。

ご苦労様」

「ねえボス。

お願い聞いてくれる?」

「僕に出来る範囲ならね」

「頭を撫で撫でして欲しいな」

「ん?

別にいいけど」


僕はカナリアの頭を撫でる。


「これでいい?」

「うん!」


カナリアはニコニコしながら頷く。


「まだお願いしていい?」

「なに?」

「えーとね……

ギュってしてお仕事頑張ってねって言って欲しいな〜って……

ダメ?」


カナリアは若干俯きながら僕の顔色を伺うようにおずおずと顔を覗き込んで来る。

そのつぶらな瞳に可愛いさ100点をあげたい。


「いいよ」


僕はギュとしてあげる。


「お仕事頑張ってね」

「うん!

頑張る!」


僕の腕の中から凄く元気な返事が返って来た。


「ねえカナリア。

今度のお仕事大変なの?」

「え?

そんな事無いよ」

「ならいいけど。

もし大変だったら手伝うから言ってね」

「えへへ〜

ボス優しい〜」

「いや、一応僕がギルドマスターだし」


カナリアは僕から離れて満足そうな笑顔を見せる。


「じゃあボス。

お仕事頑張って来るね!」

「何かあったの?」

「え?

なんで?」

「いや。

なんとなく」

「なにも無いよ〜

変なボス」


そう笑いながらカナリアは深夜の闇に消えて行った。


カナリアはああ言っていたけど、やっぱりいつもと様子が違っていた。

なんと言うか甘えん坊みたいだった。

それはそれで可愛いからいいんだけどね。

少し気にはなる。

ちょっと調べてみるか。

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