第3話

ヒカゲ達の心配をよそにヒナタ達による王都案内は何事も無く終わった。


ヒナタ達と別れたヨーゼフを迎えに来たのは勇者ツバキだった。


「王都見学は楽しかったかい?」


ツバキは隣を歩くヨーゼフに話しかける。


「うん、ここはいい町だね。

なんでも揃っていて治安も悪く無い。

すっごく住みやすい町だね」

「だろ?

私もこの町が好きだ。

なんたって美味い酒が飲める」


そう言ってツバキは酒を口に運んだ。

そしてプハ〜と気持ちよく声を出した。


そんなツバキを横目にヨーゼフはニヤリと不敵に笑う。


「本当にいい町だよ。

2人ほど私の術にかからなかった奴がいたのが想定外だったけどね。

まあそれも勇者ツバキが居ればなんとかなるよ。

人間とは本当に肩書きに弱いな」


ヨーゼフはクスッと笑い声を漏らす。

聞こえているはずなのに、そんな事など気にする様子も無くツバキは酒を飲んでいた。


と思ったらスッとヨーゼフの方を見て微笑みかける。


「それで学園はどうだった?」


ヨーゼフは術が解けたのかと一瞬警戒したが、すぐにそんな事は無いと考え直す。


「楽しかったよ。

明日から通うのがすっごく楽しみ」

「そうかそうか。

せっかく留学するんだ。

しっかり学び、しっかり遊びな」

「うん。

留学期間は有意義に使わないとね」

「その通りだ。

滅多に出来る経験じゃないからね」


ツバキは嬉しそうに笑顔を見せてヨーゼフの頭を撫でる。

その様子はまるで親子か姉妹のようだ。


「本当にお前はいい拾い物だったよ勇者ツバキ。

私はついてる。

これからも僕の盾となっててね」


その言葉にも全く意に関して無いかのようにツバキは笑顔を崩さなかった。



ホロン王国の王都にはいろんな人々が行き来している。

そんな中でも全身をボロボロのマントで覆った男は異色の空気を纏っていた。


男は何かに追われているかのように周りをキョロキョロ見回しながら王都の町を歩いている。


その足取りは重く、足取りはおぼつかない。

だが確実に目的地を目指して歩いていた。


そして男はある喫茶店へと迷いなく入っていく。


「いらっしゃいませ」


ウェイトレスのサラが愛想良く応対する。


「夜にいい夢が見れるコーヒーがあると聞いて」

「はい。

お持ちしますので奥の個室でお待ち下さい」


奥の個室へ通された男が座るとサラが水を出した。

その水を男は一気に飲み干す。


サラはすぐにおかわりを入れる。

その動作に男の気が向いた時、男の前の席にカナリアが現れた。


「ようこそナイトメア・ルミナスへ」


男は驚きカナリアを見る。

にっこり微笑むカナリアの顔を見て男は驚きの声をあげた。


「キャメロット!!

キャメロットじゃないか!?

生きていたのか!?」


あまりの大きな声に流石のカナリアも驚いた。


「ビックリするじゃないか」

「まさか生きているとは……

良かった。

本当に良かった」

「なんなの一体?

確かにキャメロットって言うのは僕がとうの昔にポイしちゃった名前だけど、おじさんはだあれ?」


男はフードを外して顔を見せる。

疲労の為かやつれているが、もとは中々のいい男だった雰囲気がある。

髪は金髪で頭の上から狐の耳が生えた獣人だ。


「私だ。

お前の父、チェスターだ」


カナリアはチェスターの顔をじっと見てから手を叩いた。


「あっ本当だ。

パパじゃん。

すっかりやつれちゃってるから誰かわからなかったよ」


カナリアは特に感動する事も無く飄々と言った。

逆にチェスターは歓喜余って泣きそうになっていた。


「まさかこんな事があるなんて……

ウッ!」


チェスターは急に心臓を抑えて苦しみ出す。

慌てて薬の入った瓶を取り出して薬を口に放り込んだ。


荒く苦しそうに息を荒げながらも、少しづつ安定していく。


「なに?

病気なの?」

「ああ。

少しな」

「ふーん。

それでなんの依頼?

言っとくけどウチは高いよ」

「ああ。

報酬は用意している」


チェスターは隠し持っていた箱を机の上に出してから開いた。

そこには中心で金色の光源が輝く水晶が入っていた。


「これって……」

「そう。

一族の秘宝だ。

それとこれもある」


チェスターは更に宝石が散りばめられた髪飾りを机の上に置いた。


「キャメロットも見た事あるだろ?

私が妻に渡した髪飾りだ」

「そんなの出したら怒られない?」

「あの世からでも怒ってくれたら声を聞けるから嬉しいんだがな」

「へぇ〜

ママ死んだんだ。

まあどうでもいいけど」

「やっぱり私達を恨んでいるのか?」

「それ聞いてどうするの?

何か過去が変わるの?」

「それは……」


チェスターは言葉を詰まらせた。

それを見たカナリアは心底どうでも良さげに見る。


「さっきも言ったでしょ。

どうでもいいんだ。

パパとママはただ血が繋がってるだけで家族だとは思ってないからね。

ボクにはもうボスがいるここのみんなが家族なんだ。

そんな事より依頼内容は?」

「そうだな。

消して欲しい者がいる」


チェスターはその者の名前を告げる。


「まあ、いいんじゃないかな。

報酬も充分だし。

じゃあ成功したらそれを貰いにくるよ」


そう言ってカナリアはチェスターの前から消えた。

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