第29話 白銀の翼

「はまはがね? なにそれ?」


「孤児院の避難所の周りに作られている格子のことだよ。あれの素材が破魔鋼っていう特殊な金属みたいなんだ。もう効果がないらしいから新調したほうがいいと思ってね」


「避難所? あ〜、中庭にあるあれのこと? 物置かと思ってた。なんか入れないように囲われてるよね。避難場所だったんだ」


そうか。サイラとルミナは魔物大繁殖が終わった後に孤児院に入ったと言っていたから使ったことはないんだな。


「なんでも当時いた孤児院の子達がその中に隠れて助かったとか。特殊素材を使った格子結界だとシスターさんも言ってました」


「うん。これから同じことがないとも限らないし安全が確保されるなら直しといた方がいいだろう」


「いいじゃん!その話乗った」


と親指を立てるサイラ。

ルミナも笑顔で控えめに親指を立てている。


そしたら、まずは冒険者ギルドでオーダーがないかの確認だ。



夕暮れとあって、ギルドは仕事帰りの冒険者達で賑わっていた。


「なさそうだね」


「たまに見るけど、そんなに良くあるオーダーじゃないもんね」


「オーダーなくても行ってみようか? シスカさんならどこにあるか知ってるんじゃない?」


「そうだな」


受付が空くタイミングを見計らって、しばし待合スペースで時間を潰す。そんな俺らに冒険者達の視線が集まる。


「なんか今日はやけに皆見てくるよ」


「なんだろう」


「俺達のことが珍しいんだろ。話によるとちょっとした有名人みたいだからな。とっとと話だけ聞いて帰ろう」


来る時間を失敗した。自分だけの時は人がいない時間を狙って来るのだが、今日はそこまで気にしていなかった。


噂に尾ひれがついて変なことになってないといいが。


好奇の視線を無視してしばらく座っていると、一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。


綺羅びやかな鎧に手入れの行き届いた武器や小物はベテラン冒険者の風格を漂わせている。


「はじめまして。あなたがグンジーさんですか?」


「ええ、そうですが」


「私は『白銀の翼』リーダーのアリシアと申します。私が出したメンバー募集の依頼書は見ていただけましたか?」


「あぁ、前に拝見しましたよ」


シスカが持ってきたメンバー募集の用紙に入っていた。確か破格の報酬が記載されたBランクパーティーだったはずだ。


「とても優秀なポーターの方とお聞きしました。本当に噂通りのスキルをお持ちなのでしたら、是非うちのパーティーにも参加いただきたいのですが、いかがでしょうか?」


有り難い申し出だが、あまり束縛されるのは好きじゃない。俺は自分のペースでのんびりやりたいのでね。


「おそらく想像されているほどの能力はありません。この歳でまだFランクですし、とてもあなたのパーティーに入る資格なんてありませんよ」


Fランクだってよ。おっさんなのに?

おっさんだからだろ。

もう魔力なんてあるわけねぇじゃん。

やっぱりただの噂か。


などといった声があちこちから聞こえる。


こんなところで赤っ恥を晒すことになるとは思わなかった。


でも、これで思いがけず目立ってしまった俺の噂もだいぶ減ることだろう。


「それは失礼しました。でもスキルにランクは関係ありません。優秀な能力があるのなら力を貸していただきたい。気が向いた時だけでも構いませんので」


ポーターは特定のパーティーに所属せずフリーランスのような働き方をするのが普通と聞く。


空いてる時間ならたまに参加してみるのも悪くないか。頭ごなしに拒否する理由はないもんな。


「考えておきます」


「よろしくお願いします」


俺は差し出されたアリシアの右手を軽く握る。

この世界の握手は友好の証であり連絡先交換の手段でもある。


「アリシア!収納アイテムなら俺が持ってるだろ!わざわざそんなFランのおっさんに頼む必要なんてねえよ」


「口の悪い仲間が申し訳ありません」


「いえ、気にしてませんよ。あ、ちなみに私はまだ生活魔法のレベルが低くて文字のやりとりしかできませんので」


「承知しました。では失礼します」


アリシアは「ふっ」と若干の笑みを浮かべ、足早に去っていった。


振り向くと、二人が不安げな表情でこちらを見ている。


「私はこのままパーティーを続けたいです。あの白銀さんが相手じゃ勝ち目ないですけど」


「いなくならないでよう」


二人が今にも泣き出しそうな顔で目を潤ませる。

頼むからこんなところで泣かないでくれ。


「も、もちろん、二人が優先なのは変わらないよ。

ずっと一緒だ」


優秀な人脈は多いに越したことはないだろう。ある程度友好な関係性を築いておけば、今後必ず役に立つ。


っていうか今、勢い余ってすごい発言をしてしまったような。


「あの〜、おまたせしました〜」


一部始終を見ていたシスカが言いづらそうに声をかけてきた。ナイスタイミング。


二人の表情も元に戻っているのでとりあえず良かった。


「あぁ、はいはい。今のがこの前言ってたBランクパーティーだね」


「そう。今は三人パーティーでこの街一番の稼ぎ頭。ポーターの人はいなかったと思うけど、たぶんマジックポーチを持ってるんじゃなかったかな」


「なるほど」


リーダーは礼儀正しくて人格者といった印象だった。


ランクというのは同じランクのオーダーを規定回数以上クリアすると認定されるシステムらしい。


Eランクの場合であれば、パーティーでも個人でも3回以上Eランクオーダーをクリアする必要がある。


なので、俺もパーティー(登録してないので正式なものではないが)としてはすでにEランク、個人ではFランクということになる。


「ところで、破魔鋼という特殊な金属の採集をしてみたいんだけど、何か知らないかな?」


「うーん。今はオーダー出てなかったと思う。場所はファビアス洞窟の少し先にあるレスタ鉱山だけど、Dランクダンジョンだから三人で行くにはちょっと厳しいと思うよ。魔力で言ったら平均4000くらい必要かな」


4000?!


俺が盛大に足を引っ張てるわけだが、二人の魔力ですら足りないのか。単独クリアするにはいったいどれだけ必要なんだ?


「Dランクはまだ難しそうですね」


「怖くて無理」


「即席パーティーを組んでみたら? さっきの白銀さん、、とか?」


「あそこはランクが違いすぎるし、相手にしてくれないだろう」


それに面倒なのは避けたいからな。とりあえず何か良い方法を考えないとダメか。

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