第15話
追加注文を終え、再び勉強を始めると
「……ねぇ、氷室君」
早乙女が話しかけて来た。
勉強に集中するべきだ。
しかし早乙女を無視するのも感じ悪いだろう。
……そんな言い訳を心の中でしながら、俺は早乙女に視線を向ける。
「何だ?」
「今日は何色だと思う?」
早乙女は仄かに赤らんだ顔でそう言った。
そしてどこか満足そうな表情を浮かべる。
……どうやら、ずっと言いたそうにしていたのは、そのことだったようだ。
しかし今日の色か……。
俺は参考書の問題から、早乙女のスカートの中身について思考を切り替える。
数を数えたわけではないのだが、早乙女のスカートの中身で一番回数が多いのは黒だ。
黒系の下着が好きらしい。
続いて白。
それから青と赤が続く。
ピンクは意外と少ない。
偶に黄色や緑など、それ以外の色だ。
“履いてない”可能性については、今回は除いて良いだろう。
“何色だと思う?”と聞いてきている時点で、履いてはいるはずだ。
というわけで可能性としては黒が一番高い。
だが、他の条件を付け加えると、変わってくる。
例えば体育の授業がある時は、白が多い。
黒だとキャミソールやブラジャーが透け過ぎて恥ずかしいのかもしれない。
白も透けるが……黒よりは透けにくい。
他にもその日の気分とかで、早乙女はスカートの中身の色を変えている。
そして今日は……。
「赤じゃないか?」
「……どうしてそう思うの?」
「気合いを入れるため」
テストなど、何かしら気合いを入れなければならないことがある日は、赤が多い気がする。
もちろん、例外はあるが。
「ふーん、なるほどね」
「正解か?」
俺が尋ねると、早乙女は小さく手招きをして来た。
……別に誰も聞き耳なんて立ててないと思うが。
俺は身を乗り出し、早乙女に耳を寄せた。
「青」
早乙女の吐息が俺の耳を擽った。
それから早乙女はにんまりとした笑みを浮かべた。
「残念でした」
「……そうか」
何か、腹立つな。
「集中するために、落ち着いた感じにしたくて」
……果たして下着の色で気分が落ち着くのだろうか?
俺は思わず首を傾げた。
「でも、気合いも大事だし。そういう要素も入ってるわ」
「……要素?」
「まあ、その、あれよ。……勝負下着みたいな」
早乙女は何故か、したり顔でそう言った。
「へぇ」
相手は参考書だが、効果はあるのだろうか?
そもそもそれで気合いが入るのか?
「どういうデザインだと思う?」
「う、うーん……」
デザインと言われても……。
女性用ランジェリーのデザインなんて、俺に分かるはずもない。
そもそも全部同じに見える。
「ふんどし? ……いや、冗談だ」
早乙女の目が冷たくなったので、俺は慌てて発言を訂正した。
とはいえ気合いが入りそうなデザインの下着なんて、ふんどし以外に思い浮かばないが。
「……当たらずも遠からずかしらね」
「え?」
まさか、本当にふんどしを!?
俺が困惑していると、早乙女は軽く手招きしてきた。
俺が身を乗り出すと……。
「Tバック」
早乙女はそう囁いた。
なるほど。
確かに惜しいと言えば惜しい……のか?
「試験の日は、同じデザインの赤にしようと思っているわ」
赤いTバックの勝負下着か。
……想像したら、少しドキドキして来た。
「話変わるけど、氷室君」
「な、何だ?」
「期末試験終わったら、デートしてくれない?」
「で、デート!?」
思わず声が上擦ってしまった。
勝負下着の話の後にデートと言われると、少し期待してしまう。
もっとも、理性的に考えれば早乙女にそんな気がないことは分かる。
「買い物に付き合えってことか?」
「そんな感じね」
つまり荷物持ちか。
別に構わない。
そう、答えようとすると……。
「あと、まあ、少し遊びたいかなって……ダメ?」
上目遣いで、そう頼まれた。
心臓がドクンと跳ねる。
「……もちろん、ダメじゃない」
「それは良かった。なら、試験明けの休日。よろしくね」
早乙女は嬉しそうに微笑んだ。
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