第9話 幻狼と堅牢
僕とステラは互いに間合いを取り、向かい合っていた。
「僕、剣なんて握ったことないですよ?」
「私もこの手の武器は得意じゃないけど……まあ、やってみましょうか」
ステラは微笑むが、目の奥は一切笑っていない。
「だから丁度いいんだよ」
リーン師団長がニヤリと笑う。
「リーンは彼のどこを買ってるんだい?」
隣のジーク師団長が肩をすくめる。
「まあ、見てりゃ分かるって」
その言葉を合図に、ステラが木剣をスッと構えた。
僕は両手で震えながら、どうにか前に突き出す。
(重っ……木剣ってこんなに重いの?)
「軽いケガなら治してあげるわよ。じゃ、始め」
ミーリア師団長が気だるそうに片手を上げる。
「大丈夫。命までは取らないから」
ステラが優しげに微笑む——が、吹きつけてくる殺気がヤバい。
(いやいや、命まではとか軽く言うな!)
次の瞬間、ステラが空気を切り裂くように踏み込み、目の前に迫った。
上段から振り下ろされる木剣。
なんとか半身になってギリギリで避ける。
だが次の瞬間——
「がっ……!」
肘が胸に突き刺さり、僕は盛大に地面に転がる。
ステラは止めを刺すように木剣を振り上げた。
反射的に僕は、右手の木剣を横からぶつけ、軌道を逸らす。
ズドンッ!!
僕の右隣の土が大きく抉れた。
ステラが、ほんのわずかに目を見開く。
「止め!」
リーン師団長の声が響いた。
殺気が霧のように消え、ステラが手を差し出してくる。
「タクト、大丈夫でしたか?」
「勘弁してください……」
半泣きでその手を掴む。
「初撃で仕留めるつもりだったんですが……驚きました」
「仕留めるって言いましたよね!? 今、普通に言いましたよね!?」
ジーク師団長が腕を組む。
「構えは素人なのに、妙な勘があるな……いや目がいいのか」
リーンが木剣を担いでニヤリ。
「よし、次は俺らの番だな」
「キミは本当にせっかちだね」
ジークも、不敵に笑って構える。
「二人とも離れて」
ミーリアに言われて僕とステラは下がる。
「盾使っていいぜ? 演習で殉職なんてダサいからよ」
「そっちこそ、サーベルでも何でもどうぞ。どうせ僕には通用しない」
「はっ、言ってろ」
合図もなしに、リーンが半身になって独特な構えをとる。
ジークは正統派の両手構え。
次の瞬間だ。
リーンの体がブレて——残像? 影?
二つのリーンが同時にジークへ斬りかかった。
「えっ……二人!?」
ジークは当然のように受け止める。
リーンの体は気付けば元の位置に戻っていた。
「ミーリア師団長……今、一瞬リーン師団長が二人見えたんですけど」
「見えるのね、あんた。あれは歩法と剣気で残像を飛ばしてるの。リーンの通り名である、
「私の矢を落としたのも、あの技か」
ステラが頷く。
「この世界では、魔法とは別に“マナを剣技に昇華”できるのよ」
「へぇ〜、なるほど……っ」
(この世界……?)
妙な言い回しに思わずミーリアを見る。
「別に、私はそんな迷信気にしないわ?」
ミーリアは軽くウィンクした。
…迷信?
「コホン」
ステラが僕の腕を引っ張り、ミーリアから引き離すように座る。
なんで嫉妬してんの……?
二人の試合はさらに白熱し、残像が四方から迫る。
それを全部裁くジーク。何度か当たってるが全くの無傷。
「仕方ねぇ! これで決める!」
リーンが大技を放とうとした瞬間——
「二人ともストップ!!」
ミーリアが叫んで止める。
「ちぇー、今からだったのに!」
リーンが子どもみたいに不満を漏らす。
「これ以上は本当に危ないっての」
ミーリアが腰に手を当てる。
「いやあ、リーン。腕を上げたねぇ」
ジークは息一つ乱れていない。
「くそっ、上から言いやがって!」
そのとき——
「ジーク〜〜〜っ!!」
甲高い声が飛び、派手なピンクドレスの女性が走ってきてジークに飛びつく。
ガンッ!
「いったぁ……鎧着てましたのね……」
(え、なにこの人……大丈夫?)
「大丈夫ですか、ラーミア第一王女」
ジークが手を差し伸べる。
「……第一王女!?」
僕ら全員が揃って叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます