六十四話 文化祭
あれから数日経ち、文化祭も目前となった。
無事にうちのクラスの出し物……というか店なわけだが、その準備も万全である。紗奈さんと回るのが楽しみだ。
ちなみに燈璃も一緒に回ってくれと言ってくれたし、それにほかのクラスとはいえ色々と喋っているうちに
今では彼を下の名前で呼んでいる、
彼や
という訳で今日は文化祭当日だ。午前中は俺と紗奈さんに割り当てられた仕事をして、その後から文化祭を回ろうという話になった。
燈璃と壱斗も交えて四人で昼食をとり、食べ終わってまず四人で回った。
といっても目立ったことは特になく、晴政や好透たちのクラスがやっている出し物を見に行ったりしていた。
ウチの文化祭は二日目が一般解放されているので、明日には生徒たちの家族や友人などを来たりするため今よりも人口は増えるだろう。
しかしこうして色々見ていると、クラスによって熱量が違いウチのクラスのように程々で楽しむ人たちもいれば、体育館での出し物や教室をまるまる使って全力で楽しんでいる人たちもいるようだ。
ちなみに俺はそういうのを見ている方が好きだ。ウチの家族は来ないし暇なんよー。
途中で紗奈さんと二人で回り、ちょっとだけイチャイチャしようと静かな所へ来たところ、そこには先客がいた。
「ごめんなさい」
その声はこちらに向けられたわけでなく、その主が目の前の人物に対するものだったようだ。
どうやら、告白されていたらしい。
「そっか……じゃあせめて一緒に回ってくれないかな?せっかくだし誰かと楽しみたいんだ」
「えっと……できません、ごめんなさい」
いやいや告白を断られてるんだからそんな人と回るのは気まずいだろう。なんでいけると思ったんだ?
また絡まれて可哀想だな、観月は。
「なっ、なんでだよ!ちょっとくらい良いじゃないか!」
「私が良くないんですが……」
「少しだけ!少しだけだから頼むよ!」
いつまでもみっともなく食い下がる男に呆れてため息を吐いてしまう。そんな俺を見た紗奈さんが肩に手をポンと置いた。
「助けてあげたら?樹くんほっとけないんじゃない?」
紗奈さんは俺の事をよくわかっているようで、微笑みながらそう囁いた。人として、あんな身勝手は放っておけない。
彼女に小さく礼を言ってそちらに向かう。
「みっともないからもうやめたら?観月さん、嫌がってんだろ」
俺がそう言いながら横槍を入れると二人がこちらを向いた。観月の頬が段々と朱に染まっていく。
「はぁ?誰だよテメェは、関係ないヤツは引っ込んでろよ」
「観月さん、今から一緒に回らない?」
「っ……はい、回りたいです!」
もはや問答無用だと観月を誘うと、彼女はふたつ返事で首を縦に振った。
その表情はキラキラとした笑顔で、それが俺に向けられていることがこの男はすごく気に入らないようだ。思い切り睨みつけてきている。
「そういうことなので、すみませんが他を当たってくれませんか?」
「そんな、おかしいだろ!俺の方が先に声をかけたのにどうしてそんなヤツなんか……」
「でも私断りましたよね、そんなこと言われても私が樹くんと回りたいのでもう一度言いますが、他を当たってください」
観月はそう言いながら俺の腕に抱きついて頭だけを軽く下げる。それを見た男は悔しそうな顔をしてさっさと行ってしまった。
誤魔化しは済んだのでもう良いと思うのだが、何故か観月は離れようとせずずっとくっついたままだ。
「お疲れ様、樹くん……観月さんも、もう離れてもいいんじゃない?」
「ダメですよ。まだ彼がいるかもしれませんしこと後もまた会うかもしれません。樹くん、私と一緒に回ってください、お願いします」
今度は観月から頭を下げてお願いをしてきた。
せめて離れて欲しいんだけど、テコでもそれは譲らないらしい。困ったもんだよほんとに。
紗奈さんと目を合わせて頷く、仕方ないので応えてあげるか。
「分かったよ。じゃあ今日だけ一緒に回ろうか」
「あっありがとうございます!」
眩しいほどに目をキラキラさせながら腕をギュッと抱き締めてくるが、俺もさすがに男なのでそういうのは勘弁して欲しい。
当たってんだよ何とは言わないが。
「あっあの、とりあえず離れてくれると」
「嫌です♪」
どうにもご機嫌になってしまった観月は笑顔でそう言った。マジで勘弁してくださいお願いします。
そんな俺を紗奈さんは苦笑しつつ見守るのだった。
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