三十九話 言っただけ
なんか初めてヤってからタガが外れてるな、今日もシちゃったし幸せである。
こうして好きな人と身体を重ねるってのは、お互いの愛情なり絆なりを育んでいく上で健康的だと思う。好きだからシたくなるもんでしょ。
先ほどの余韻に浸りながらホクホク顔で家に帰っているのだが、なんとまぁ運の悪いことでまた
「あっ、
「またか…はぁ、なんだ この辺にでも住んでるのか?」
「あっ、うん…そこに」
彼女はそう言いながらすぐそこの家を指さした。えっ近っ!5mくらいしか離れてないぞ。
まぁそれなら仕方ない、じゃあ俺はさっさと帰るか。そう思って足を進めた。
「待って!」
「は?」
'' あんな事 '' があったんだしもう話すこともないだろうとさっさと立ち去ろうとしたら
「あのっ、えっと…」
「ちゃんと話ができるようになってから来いって言わなかったか?」
話しかけてきたクセにモジモジとして何も言えない彼女にそう言った。
こっちからすれば話すことなどない、いい加減ほっといて欲しいんだが?
「ごめん、その……もう一度やり直せないかなって」
「死ね」
あまりにもバカすぎる言葉に思わず本音が出てしまった。いやあれ見せつけたのに?
何をどう考えてやり直せると思ったのか分からない、ありえないだろ。
完全に錯乱しているなコイツ。
「っ…お願い!ウチはもう一度…」
「無理に決まってんだろ 俺には紗奈さんがいるんだよ」
これ以上の理由があるだろうか?というか言うまでもないだろうに。
現実を理解できず独り善がりな好意を押し付けたところで報われることはないと理解するべきなんだよな。……ここまで来るともう哀れだよ。
「なんで…ウチが、ウチが最初に樹と……」
「それなのにお前は俺を捨てただろ、あんな奴らとヤッたお前が言えたことか」
「してないってば…それは本当、処女だしキスだって…」
「あぁそうですか」
そうであろうとなかろうと、もう俺には関係ないこと。興味無いんだよ。
だからもう…やめてほしい。
「お前は俺を拒否したじゃないか、それなのに今更そんなこと言われたって知ったことじゃないし困るだけだ。付き合っていたといってもあんなの名ばかりだろ」
「うぅ…」
周りに流され自分勝手で、何をするにも意志薄弱で自分の大切な人にさえ寄り添えない。
そんなんじゃあ……ダメに決まってるだろう。
「……本当に 俺がお前とヨリを戻すと思ったのか?」
「それは…」
俺の言葉に弱々しく首を振っている、そりゃそうだ。ただ認めたくなかっただけだろうな。
自分のせいで招いたことなのに認めたくないとは、あまりにも滑稽だ。その執着があるのなら、どうしてあの時……
「あの時他の連中に媚びを売った時点で終わった関係なんだ。もういいだろ、それが俺たちだ」
「っ…でも……」
未だに食い下がろうとする彼女だが、もう終わらせたかった。
答えられないのならおしまいだろ、あれだけのことを意味も無かったのにしたんだから。
「俺と一緒にいることも その誘いも断って、手さえ繋ぐことだって学校にいる間だって全然 関わってくれなかったじゃないか。他の男子連中にベタベタ触れられてたこと、俺は知ってんだぞ?」
「それはっ…!」
本当に付き合っているのならこんなことにならなかった。結局は俺のこともただの友達の中の一人としか思っていなくて、'' 恋人がいる自分 ''を演じたかったなんだろうな。
「俺たちは付き合ってたんじゃない、付き合っていたフリをしてただけだ。自分は恋人ができるくらい人に好かれるんだって、ただ周りに知って欲しかっただけ。自己承認欲求の現れなんだろ」
「違うよ、樹が好きなのは本当なんだってば!」
そればかりだな、それならあの時の行動について納得のいく答えが欲しいんだが?
まぁこれでは無理だろうな。
「そう言ってばっかだけど行動が伴ってなかったら意味ないんだってば。お前はなにをして欲しいわけ?抱いてほしいってか?」
それはただ言っただけだ、お前の内面に価値がなく身体しか見ていないと暗に伝えるため。
だから 抱く という言葉が出てきたんだと、そういう演技。正直 コイツじゃ興奮しない。
「……」
なにも言わないが、首を縦に振った。
やはりなにも見えていないのか、それで俺が満足するならとっくにヨリを戻してるだろうという事さえ考えられないらしい。
「そうか、ならここで……脱いでみろよ。お前の態度で示せ」
どうせ言っているだけだ、多数の人間に流されるだけで俺が一人で言ったことなどコイツは聞かない。
いくら俺がそう言ったからってこんな人通りのある道で脱ぐとしたらそりゃよっぽどだ。それならあんなことにもならなかったろう。
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