二十六話 モヤモヤ

「分かったよ、ありがとう晴政はるまさ


『いいって別に、気にすんな。じゃあな』


 そう言って彼は電話を切った。

 話を聞けばあの 槍坂やりさか先輩と観月みづき、そして麻緒まおが夜の公園でイチャイチャしてたらしい。


 本当に意味がわからない、観月は先輩と別れたんじゃなかったのか?

 もしや美人局つつもたせか?別れたという嘘をいてまで俺に近寄ってきたことを考えると何か企んでいることは間違いない。


 麻緒だってそうだ、やっぱり俺に近付いてきたのは謝りたいとかじゃなく、槍坂にけしかけられたからだったのか……


 そう考えるとしっくりくる、あれだけのことをしておいてトンズラこいた女だ。

 ロクな人間でないことは間違いないしそれこそまたいじめに発展するようなことをやれと槍坂に指示された可能性は高い……それをして何の意味があるのかは分からないが。

 とはいえ警戒は十分にした方がいいな、中学の時だってー周りの暴走なんて真っ赤な嘘だったと考えれば辻褄も合うしそういう事なんだろう。


 反省しているフリをして近付き、また被害者のフリをして何かしたかったわけか、でも燈璃あかりによってそれが失敗したわけだから槍坂に今更ながら報告したところ慰めてもらったとかかな?

 マジで何企んでるのか分からないけど、近寄らない方が良さそうだし避けた方がいいな。

 あと抱え込むのもダメだ、アイツらに相談しないと……


 ただ……目的も動機も、分からないことが気持ち悪いな。普通に考えれば意味の無いことだから……


 ー翌日ー


 昨日は紗奈さなさん、壱斗いちと、燈璃の三人に晴政から聞いたことと俺の予想を話した。

 もちろん三人は怒っていた、何せ行動が合ってないからな。

 ちなみに後者二人にも観月とのことも話しておいた、何かあったら協力するしできるだけ未然に防げるようにすると言ってくれた。

 良い友人を持ったものだ。


 今は学校に到着し席に着いたところ、もちろん紗奈さなさんと登校してきました。マジ可愛すぎるこの子。


「樹、ちょっと……」


「失せろ」


 やはりというかなんといか、麻緒がこちらに来て何か言おうとしたのでそう言っておいた。

 その口車には乗らねぇっての。


「えっ……待ってよ、せめて話くらい」


「やめてくれるかな、樹くん嫌がってるからさ」


 詰め寄ってこようとする麻緒を紗奈が制する。

 その表情はとても厳しくハッキリと敵意を見せていた。まぁ傍からみれば俺もそんな顔してるんだろうけど。


「でも、少しくらい話を聞いてくれても良くないかな?」


「ダメだ、とっとと失せろ」


 それでも食い下がる麻緒を見兼ねて壱斗までそう言った。

 麻緒はショックを受けたような顔をしているが、槍坂と観月と結託して嫌がらせをしようとしてくるヤツなんて嫌に決まっている。

 そうでなくても関わりたくないんだし。


「おっす、おはようさん」


 いつもより落ち着いた……というか硬い声色の燈璃がやってきた。

 どことなく表情も険しい、そりゃそうか。


「よぉ、今度は何企んでるんだ?馬門まかどよぉ。相変わらず樹に嫌がらせか、飽きねぇなお前も」


 皆に制されている麻緒を見た燈璃がヤツを強く睨みそう言った。

 ヤツはそれを受けて怯んでいる。


 しかし槍坂もなんであの二人をけしかけようとしてくるんだ?

 疑問なのはそこだ、ずっと付け回っている謎。

 たしかに観月とヤツが付き合っている時は俺に謎の因縁を付けてきたが、とはいえそれだけだ。

 別にヤツとの間には何も無い。

 麻緒とヤツとの間に繋がりがあったことは驚きだが……まぁそれは麻緒の転校先の学校での出会いだろうか?

 今では観月と二股だなんてな。やっぱり顔が良い奴はそれだけで得だよ。


「別にそんなんじゃないって、樹にあの時のこと謝りたくて……」


「そう言えって槍坂にでも言われたか?」


「えっ」


 ごちゃごちゃ言う麻緒に燈璃がそう言った。

 途端に青ざめた顔をする麻緒に、俺の予想は確信に変わる。……まぁ動機は分からないままだけどな。


「ちがっ……あの人とは別に……」


「はっ、図星かよ。まぁ公園で抱き合ってたくらいだし相当ラブラブなんだろうがよ……わざわざ樹巻き込むな!」


 しどろもどろになって誤魔化そうとする麻緒に対し燈璃は少しだけ声を張った。

 理由が分からず、俺から問いかけてみる。


「その辺はどうでもいいけど、なんで槍坂はそこまで俺に突っかかってくるんだよ?わざわざお前と観月まで使ってさ」


「えっ……」


 まさか俺からここまでバレてると思わなかったのか目を見開いて絶句している。

 まぁ晴政のお陰でわかった事だけどな。


「なぁ、なんか聞いてないのか?昨日公園でデートしてたくらいだしなんか知ってるだろ?」


 俺の言葉に周りがざわついている。

 まぁ槍坂と言えばこの学校で女子にモテてるヤツだからな、公認二股デートしてるとなれば驚きだろう。


「いや、本当になんの話か分からなく……」


「あくまでシラ切んのか、じゃあいいや。失せろ」


 理由も分からずここまで嫌な思いをさせられるのは普通に嫌だし怖い。

 色々と思い出そうとしても心当たりが全くないのだ、人間とは何処で恨まれるか分からない。


「えっ……」


 話を切られた麻緒は呆然とするばかりで何も言わなかった。

 これ以上訳も分からずいじめられるのは嫌だから、俺としても毅然とした態度でいないといけないからな。残念だったな、麻緒。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る