十二話 悪夢は繰り返す

 言われるがまま学校に向かう俺の心は、自分でも気が付かないうちにとっくにおかしくなっていた。


 その日も俺はごちゃごちゃと訳の分からないことを言われた。

 机の汚れはもうスルーしてるものの、上履きを隠されるのは面倒だ。


 静かに募る不快感…それによって感情が爆発するのはそう遠い話ではなかった。


 きっかけなんて些細ないじめだ。

 ただ頭をいきなり殴られただけ、しかし俺はもう限界だった。

 そんな大したことない嫌がらせで爆発してしまうほどに、俺の心は限界だった。

 勢いよく立ち上がりすぐ側にいるヤツを思い切りぶん殴ると、周りの机を掻き分けながら吹っ飛んだ。


「うわ!」


「おいやめろ!」


 それがどんな感情ものか詳しくはわからないが、それでも明確な害意があったことは間違いない。

 目の前にあった自分の机を掴み、それを思い切り振り回し、そのに合わせて机から手を離しクズ共の一人にぶつける。

 自分が座っていた椅子の背もたれを掴み、思い切り投げつけると別のやつに当たる。


 どいつもこいつもふざけやがって、ぶち殺してやる。


 感情のままに暴れ回っていると騒ぎを聞きつけた教員見て見ぬふりをしていたクズが駆けつけてきて俺を取り押さえた。

 羽交い締めにされた俺は、身体の大きさが足りず振り払うことができなかった。

 まだ俺は奴らに傷を負わせていないというのに別室で閉じ込められ、その日はそのまま帰らされた。



 学校から話を聞いたであろう両親は、俺がなぜあんなことをしたんだと怒ってきた。


 やはり信用するに値しない存在だ、親とはいえ所詮は大人か。やっぱり子供のことなど興味はないんだな…と失望した。コイツらもクズだったんだと。


 両親ヤツらの顔を見たくなくて家から逃げる。その日は一晩帰ることは無かった。

 次の日、どうやら姿のない俺を心配した壱斗いちとが連絡してきた。


たつき、無事か!?』


「あー、まぁな」


 どうして電話に出たのかは分からないが、多分気まぐれだろう。

 その証拠に、俺は彼の問いかけにも投げやりに答えた。


『心配したんだぞ、お前の家に行ったら昨日からいないっておばさんに聞いた』


「そうか」


『なんで今までのこと話してなかったんだよ。おばさんたちが、そんな事情なら話して欲しかったって言ってたぞ』


 どうやら壱斗が話してくれたらしい。


「どうせ言っても信じてくれんだろ」


『……とにかく、今から迎えに行くから場所教えてくれよ、頼む』


 もうどうでもいいと思った俺は壱斗の頼みに応えた。

 そして来たのは壱斗…でも晴政はるまさでもなく、その正体は燈璃あかりだった。

 思わず舌打ちをしてしまう。


「樹!よかった、ちゃんといてくれたんだな」


「……」


 どうしてお前が…そんな言葉を飲み込んだ。


「壱斗が待ってるし行こうぜ?ほら」


 そう言って彼女は手を差し出してくるが、それをはたいて一人で歩き出す。


「っ…」


「お前の世話なんていらねぇよ」


 どうせ何か企んでるんだろ?

 そんな根拠もない妄想で彼女の優しさを無碍にして突き放した。俺はすっかり怯えていたのだ。


 また女を信じれば痛い目にあうと。



 結局あれから壱斗や晴政、燈璃の助けもあって俺の心は徐々に元気を取り戻した。

 そのおかげで女なら無条件で信用できないということは無くなった、それでも二人きりで会うとかはしんどいけどね。


 それからは、俺の近くには必ず壱斗がいるようになった。

 高校になってもそれは変わらずだったのだが、彼が部活に行く時はそれが終わるまで図書室で時間を潰していた。

 いつしかそれは日課になり、間もなくして壱斗に甘えることも無くなった。


 本当にアイツらには感謝しかないよ。

 勝手に疑心暗鬼になって、殻に閉じこもった俺に手を伸ばして助けてくれたんだ。

 それがなければ俺はもしかしたら今頃、こうして学校に通えていたい。


 ちなみにいじめ原因でありを見て見ぬふりしていた麻緒まおはいつの間にか学校から消えていた。

 どうやら家庭の事情で引っ越したらしいが、それも奴らのいじめの燃料になった。



 高校生になってどうして麻緒ヤツが現れたのかは分からない。

 もう顔も見たくないが、その願いは虚しくも裏切られることになる。



「はじめまして、馬門まかど 麻緒まおです、よろしくお願いします」


 どうやらアイツがあそこにいたのは、ウチの学校に転校する為だったらしい。

 また悪夢が始まるのかと、俺は恐怖に震えるのだった。

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