封刃師〜旧日本軍に魔改造された妖刀を封印する使命持ちの異能美少女JKな私のスタイリッシュな日常〜

来賀 玲

序章:私の愚痴を聞いてほしいな








 心霊スポットって嫌いなんだよね。

 いや怖いとかじゃないんだよ?そんな可愛い理由できゃー!やだー!なんて言える普通の女の子だったら良かったなって。


 ふはは!何を隠そう、この銀髪超絶美少女な私こと美上みかみ 珠乃たまのちゃんは、自分で言っちゃえるぐらいの美少女!!


 こんな田舎出身に見えないぐらい手足長いしスタイルも良いし顔も良い美少女なのだよ!


 普通の女の子なんて言えなーい!




 ───なんて、言えたら良いんだけどねぇ。




「こう言う時こそ、普通の女の子がよかったって思うな」




 自称できちゃう銀髪美少女こと珠乃ちゃんは、ため息が出るほど心霊スポットが嫌いだった。


 何が心霊スポットだよ、ただの廃墟じゃん。

 それにかこつけて今後ろにいる頭の軽い男女が『バカ大人のお楽しみ』のために入り込むわ、今目の前で血まみれになってる暴走族だかのヤンキーがタバコとタバコ以外の煙吸うための場所にするわ、




 グルルル‪……‬ふしゅるぅぅ────ッ!



「結構な頻度で、幽霊じゃなくて人食うタイプの妖怪が出るんだもんね」



 これが一番嫌だ。


 次に嫌なのは私の年齢で見せちゃいけない状態にしたヤンキーだった奴を歯にこびり付けてグワーって叫ぶこのデカい顔の体臭。


 本当顔デカいな‪……‬というか顔しかないじゃんよー。



「げぇーッ!!

 ちょっと辞めてよ、デカい顔ー!!いくら自業自得でも殺された可哀想な人の血とかをくっさいツバと一緒にこんないたいけな美少女に吐きかけるってのぉっ!?常識ないんじゃねーのそれ!?」


「ふしゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!

 おんな!おまえ、ほかのやつより、うまそうだ!!」


「‪……‬私の事餌扱いぃーッ!?」


 むかつくー!!だから心霊スポットに来る妖怪って嫌い!!

 そりゃこんなねぇ!?行政が金出したりもしないし権利者がフライハーイしたような廃墟に好き好んで来るヤツ食われたって私は構わないねッ!!

 自業自得!!自己責任!!


 それを助けに来る形になる私はさ!!

 明日小テストなのに、着替えにくいこの昔の軍服みたいな戦闘用の着にくいしキツいしデリケートなところ蒸れる服を着て急いで来るわけ!!


 夏でも長袖なんだよ!?

 で今日も夜なのに暑い日!!絶好の心霊スポット巡りの日!!



「あっそ。

 とりあえずこんな可愛い女の子餌扱いにしたことあの世で後悔してね。すぐで良いよッ!!」



 心霊スポット大嫌い!!

 何が嫌いって、出る妖怪の大半は、私と私の『相棒』の前だと大概一撃で終わるから。


 着替えた労力ぅ!!!はいクソ雑魚ー!!ジャージでくれば良かったー!!


「あがっ?」


《───いただきまーす!》



 ああ、そうそう。

 相棒っていうのは、今お行儀良く挨拶して相手をぶった斬ってくれた私の手の愛刀のことだよ。


 名前は『喰霊ぐれい』。


 まぁそのね‪……‬週間少年誌の漫画にありそうなそういう刀だよ。中学二年生大好きなヤツ。


 当然というかすごい能力がある。

 具体的には名前通り、


 まるでダイソンに吸い込まれるゴミって言ったら汚い?

 ちゅるんって、切った目の前の妖怪が、真っ二つになったかと思えばこの喰霊の反り返った日本刀チックな刀身に吸い込まれるんだ。


 もう一度言うね。

 喰霊は『なんでも食べる』が基本の能力なのだ。


 しかも好きな物でも嫌いな物でも残さず食べる偉い子だ。


「今日も一撃だったねー、喰霊ー?

 美味しかった?」


《ん〜‪……‬美味しかった♪

 多分これ『ししこり』って妖怪だよ珠乃ちゃん!

 名前見たいにコリコリ美味しいよ!

 大分人間さん達食べちゃってて脂が乗ってるって感じ!》


 今日も喰霊は、怪物食べちゃうヤバい刀だけど年下の小学生みたいな声と口調で本当に美味しそうな感想を言うのであった。物騒な単語聞こえたー。


「ストックしとく?」


《しておくよ、本番はこれからなんだしさ》


 フォン、と柄から伸びるジャラジャラした四角いヤツ (※なんていうか忘れちゃったごめーんね?)が光る


「オッケー、本番か‪……‬」



 そ、本番がある。



「あの‪……‬」


 ふと、声と一緒に鼻をつく嫌な匂い。

 そう、あのカップルが大小全部漏らしてなんとか声を絞り出していたのだった‪……‬


「あー‪……‬どうも、そういう職業の者でーす」


《どういう職業?》


「そんなのいちいち説明する必要ないしねー。

 ところでお二方、立って此処の建物出れますかね?」


「え、あ‪……‬」


「簡単にいうと、さっきのクソ雑魚は前座なんですよねぇ?

 これから本番を処理しないといけないんで、処理中に逃げ出すとかでウロチョロされると困るわけで、」


 さて、長い前置き終了。どうせ聞いてないから本題を喰霊突きつけていってあげよう。



「逃げてくれないと、二人の記憶をこの刀の不思議なパワーで喰っちゃった上で気絶させる必要あって。


 具体的にいうと斬っちゃう必要あって。

 どうします?」



 剣先突きつけてそう言った結果、苦笑いを残して二人ともスタコラさっさ。

 ありがとう、2度とこんな場所でデートすんな。


「さて‪……‬」






 ───このクソ心霊スポットは、いわゆる廃病院。


 此処来るまで怨霊6体、妖怪2体を喰霊のお腹に納められるぐらいのかなーり仕上がった心霊スポット。



「多いってことは、だいぶ強いヤツだ。

 だいぶ強い上に、」


《珠乃ちゃん。すごいよ今回。

 めっちゃ刺激的な美味しい匂いだ》


 気がつけば、場所は‪……‬『放射線科』の文字。


「知ってるかな喰霊くん?

 心霊スポットでは定番の廃病院、そこの帰りに起こる体調不良の原因。


 それは、処理を忘れたレントゲン装置から漏れる放射性物質なんだってさ」


《放射性物質‪……‬放射能かぁ!

 昔、よく食べてたよ。刺激的な味だったなぁ‪……‬》


「知り合い?」


《多分そうだ‪……‬ようやく美味しそうな匂いの正体を思い出したかも‪……‬!》


 重い鉄製の扉を開く。


 中には‪……‬古めかしいレントゲン装置が。


《いたよ》


「‪……‬この圧は、放射線漏れなんかじゃないかも」




《───いや、それは間違いだとも》



 三人目の声だ。私達二人しかいないのに。

 で、古いレントゲン装置の丸い筒が、目を開いた。


《久しぶりだな、喰霊。

 私の姿が変わったことにも驚かないか》


《たしか、『眼魔がんま』くんだよね?

 随分、おっきくなったね》


 生き物の目が生えたレントゲン装置が、目を中心に生き物の血管とか青筋みたいなもの浮かばせながら変形を始める。


《旧交を温めるために来たわけじゃないのだろう?

 あの大戦からどれほど経ったかね?

 70‪……‬80年か。一体何をその変わった少女としに来たのかね?》


「‪……‬簡単に言えば、私は「アンタを封印するもの」。

 第2次世界大戦後、失われた妖機刃を回収して封印する人間‪……‬


 封刃師ふうじんし。そう呼ばれているんだ」



 気がつけば、一つ目が緑に光る細い手足の怪物が目の前にいた。



《なるほど。理屈は分かるとも。

 だが私も、だいぶ長い間そう言った状態になって久しくてねぇ?

 そろそろ、飽き飽きしているんだよ。

 大人しくするのも飽きた。飽きるには充分だろう?

 80年は》


「‪……‬大人しく着いてきてくれるのなら、手荒なことはしないよ、眼魔」


《言っただろう?大人しくしたのは飽きた。

 準備運動を手伝いたまえよ、君が死ぬ前に》



 ガギィン!!!


 眼魔の細い腕と思えないパワーの鋭い爪と、私の構えた喰霊の刃がぶつかっていた。


《おっと!長い時間は行けないか!!》


 パワーで振り払われて距離を取られた。壁に激突した私の背中が痛い!!


《もうちょっと味わいたかったな!》


《おぉ!

 私の力も爪も喰われてしまう感覚は久々だ!

 君は怖いヤツだよ、喰霊》


 相手の爪が、切れ込みが入ったみたいに削れている。

 ちぇっ!鍔迫り合い続いてたら喰霊の力で終われたのに!


「まったくさぁ、女の子の扱いがみんな雑だよね妖機刃って!!

 喰霊、さっさとコイツをお腹に色々収めて帰るよ!

 宿題今日多いんだ!!」



《心配せずとも、もう宿題は出来んとも。

 すぐに君は再起不能になる。

 この私、眼魔の力で!!》


 眼魔がそのでっかい一つ目を両手で隠す。

 瞬間、両手の後ろの眼が青白い光を徐々に強めながら放ち始める。



《気をつけてね珠乃ちゃん。

 眼魔は、たしか旧日本軍の作った唯一の‪……放射光線兵器だ》



 ピカッ、と光った瞬間、手を広げた眼魔の目からレーザービームがぶっ放された。


「見りゃ分かるかも!!!」


 すっげぇレーザービームだった。

 いやだって、部屋をぶった斬っちゃったもん。


 いや部屋どころか‪……‬あれ外の月が見えるよー?


《ハハハ!!君達の先祖は何を考えて私のような物を作り、むざむざ手放し!今また回収しようとしたのかね!?

 この私程度で苦戦するようでは!!》


「全くそうだよね。

 封刃師‪……‬お金も出ないし、辛いし苦しいし!」


 喰霊を両手で構える。

 とりあえず、一発で避けるのは無理って分かったから。


《ではなぜやるのかね?》


「それは女の子の秘密。

 ただアレだね、一個だけ言っておこうか」


 喰霊の綺麗な刀身に映る、眼魔のレーザービームで空いた隙間から見える月を見る。


「アンタ、野放しにしたのは間違いだよ。

 妖怪だけなら、人の被害なんて殆どない。

 人気ひとけがない陰気な場所に迷い込んだ人間に襲いかかるだけ。クマみたいな物だし、それぐらいなら普通のお祓い出来る人でなんとでも出来る。


 でも、妖機刃は違う。


 建物をぶった斬るレーザービームが撃てるし、そこに野放しにでもしただけでクマが寄ってくる場所が増える。


 廃墟で一発やりたいってだけのアホで善良な人間を傷つける可能性を増やす物‪……‬」



《ほう!正解だとも!

 だがそんな呪具を超えた我々を作ったのは誰かね?


 戦争に勝つという名目で、分け隔てられた隔離世かくりよなどと呼ぶあちら側の物を集めて切り刻み!


 融かして加工した超常の兵器!


 それが我々妖機刃!


 それも今や各地に散らばり、何も知らない人間達によって溶かされて、私のように加工されている!!


 まぁ、元の姿にも、こうやって動ける姿にもなれるがねぇ?》


「じゃあ余計回収しなきゃ行けないじゃんよ。

 アンタは此処で私が封印して持ち帰る」


 私の宣言に、眼魔は骨と皮みたいな腹を抱えて笑い出す。



《ほう!面白い!!

 私はね、暇なんだよ結局は!!

 君と戦う暇つぶしをして、満足した時生きていたら大人しく回収されてあげよう!!》



「上から目線だな。

 アンタは此処で私がボコして封印して持ち帰るからって言ってんの!」



《良いぞ!!やってみた前!!

 まずは私の致死量の放射線と熱エネルギーを耐えた前!!

 話はそれからだ!!!》


 再びでっかい一つ目を手で覆う眼魔。

 フルチャージの光が漏れ出てる!!


《珠乃ちゃんどうする気?》


「ストックは3だよね?

 残りは9。お腹は大丈夫?」


《僕まだ食べ足りないや》


「OK。

 腹一杯にしたげるさ」



 光の強さが最大級になる。

 身体の前で喰霊を構えて、その時を待つ。



《分かるぞ。目的は。

 乗ってあげようッ!!!》



 レーザービームが来た。



 まぁレーザーは光。放射線も似たようなもんって図書室の本の難しい本暇つぶしで読んだ時知ったよ。


 光の速度は絶対だ。上回ることはできない。


 真正面から来るなら、放たれる瞬間に刃を合わせる。


 レーザーを斬る。


 いや‪……‬!!


「喰霊!!全部食べて!!」


《いただきまぁぁぁぁぁぁすッッ!!!》


《なんとぉ────ッッ!!!》



 ───喰霊の柄から伸びるジャラジャラした四角いヤツが連なってるヤツ、確か『コンデンサ』って呼ばれてるヤツ。


 言ってしまえば、これが喰霊のお腹。

 今、光る四角いヤツの数は‪……‬7!!


 バシュウ、と光が途切れる。


《此処までか‪……‬!》


《腹八分目にもならなかったね》


「じゃ、纏めて返す!」


 喰霊のお腹メーターの光が一気に消えて、大きく振りかぶった刀身から食い尽くしたレーザーと同じ色の光を纏う。


《思い出した。喰霊は食べた物を力に変え───》



「正解ッッ!!」



 ピィン!!


 空気ごと切り裂く一閃。

 ボンと音を立てて、建物に二つ目の穴が空いた。


 眼魔の身体が真っ二つになって、崩れ落ちていく。



 ううん、違う。



《‪……‬負けたよ‪……‬力も全てが吸われたようだ‪……‬》



 私の目の前には、ライフルのような剣‪……‬それにでかい懐中電灯が付いた様な武器が落ちていた。


「眼魔、回収」


《ごちそうさまでした》


 眼魔を持って、お仕事終了。

 死ぬかと思ったけど‪……‬これが私のいつもの日常。




 封刃師、美上珠乃の日常なのだ。






「────それで?

 君は何の用?」



 日常は終わったので、

 非日常的な、何故かずっと物陰で私を見ていた相手に私は問いかけるのであった。




           ***

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