第3話 一夜明けて…

――次の日の朝。央真は部屋にはノックの音が響いていた。


(うーー…なんだよ~・・・誰だよ~…もう少し寝かせてくれよ~…)


寝ぼけながら、掛け布団を頭まで被りノックに抵抗する。


「…央真様。そろそろ準備なさらないと、講義に遅れてしまいます」


今度はドアの向こうからセツメさんの声がする。


(講義ぃ? なんだっけ、それ…?)


「魔王候補生になられて初日から遅刻というのは、あまり良ろしくはないかと…」


(魔王候補生ぇ? ………………はっ!!!)


ガバッと勢いよく起きて、周りの様子を確認する。


(ここは…僕の部屋…じゃない! ということは昨日の事は夢じゃなかったんだ!!)


「す、すみません!! すぐに準備します!! …………っうおっ!!!!)

ドタドタバターーーン!! ゴン!! ゴロゴロ…ガン!! ドン!!


 焦りで服を着る。着替えがないので、昨日着ていたカッターシャツとズボンを履いてドアを開けた。


「も、もしかして遅刻ですか!?」


「いえ、まだ急げば間に合います。ご案内します。 ……あの、申し訳ありません。

 私がもっと踏み込んで起こしていればこんな事には…」


「い、いえ! セツメさんは全く悪くないですよ! 僕がいつまでもグースカ寝てた

 のが悪いんです! 取り敢えず走りますね」


 僕たちは廊下を走り出した。体形と運動音痴、そして日頃の運動不足から央真はすぐにバテだす。対してセツメさんは表情を変えることなく、滑る様に並走していた。


「…央真様、朝食がまだでしたよね。これをどうぞ」


 そう言うとセツメさんはどこから取り出したのか、銀のトレイに乗ったパンと水を央真に差し出した。


「フー、フー…どこに持っていたんですか、それ…? っていうか、またパンと

 水!? ヒー、ヒー…」


「朝食は一日で最も重要な食事と言います。ちゃんと摂らないと、力が出ませんよ」


「あ、はい。食べます…」


走りながら、朝食を詰め込んだ。


「あと…お召し物がシワだらけでございますね」


 セツメさんはブツブツと何かを言うと、人差し指をクルクルと回す。すると、冷たい風が僕の体に纏って、着ていた服の汚れもシワも綺麗になっていた。


「ブフォッ!! 何今の!? まさかこれって、ままま魔法!?」


驚いて、食べていたパンを噴き出そうになった。


「ええ、そうです。魔法を見るのは初めてですか?」


「ハァ…ハァ…は、はい!! 漫画やアニメ…想像や架空では僕の世界でもあるん

 ですけど、実際にこの目で見るのは初めてです!! す、すごい!!」


「魔王候補生になられた央真様なら、じきにご自分で使える様になりますよ」


「ほ、ホントですか!? それはとても楽しみです!!」


――それから僕らは目的地まで走り続けたのだった。


「ここが講義が行われる部屋でございます。…大丈夫なようですね。どうやら間に

 合ったみたいです」


扉に前で、中の様子を感じたのかセツメさんはニッコリと答える。


「ゼェ…ゼェ…そ、そうですか。よかった…案内してくれて、ありがとうござい

 ます。 ゼェ…ゼェ…」


僕の方はというと、息も絶え絶えで項垂れていた。


「では、入る前に…失礼いたします」


 セツメさんがまた人差し指をクルクルと回すと、ヒヤッとした冷気が体に纏わりつ

いて、身体の火照りと汗が引いていった。


「はぁ~~…これ気持ちいい。ありがとうございます、すごく楽になりました」


「ふふ、それでは中にお入りください。は全員揃われていますので」


「ほ、他の方? もしかして僕の他にも魔王候補生っているんですか?」


「はい。央真様を合わせて、4名の方が今回の魔王候補生になります」


(他にも人がいるのか…。どんな人たちだろう? 緊張するな…)


不安そうな顔をする央真を見て、セツメさんは僕の手を両手でキュッと握った。


「央真様なら大丈夫です。立派な魔王になれるように頑張ってください」


「は、はひ!! 頑張ります!! ……じゃあ行ってきましゅ!!」


 セツメさんに一礼して扉を開けて中に入った。そこは大学の講堂の様な広い部屋だった。階段状になっている生徒の席には、セツメさんが言っていた僕以外の候補生がまばらに座っていた。一先ず席に着こうと、開いている席に腰を下ろしたのと同時にチャイムの様な音が鳴り響いた。


「ふむ。皆、揃っているようだな」


 その声と共に、教壇近くの床に黒い円形が出現し、そこから宙に浮くポッドに乗った、後頭部が異常に大きく発達した小柄の男が現れた。





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