第24話 陰り

「次、僕の番なので行ってきますね」


「あれ、翡翠って借り物競走だったっけ?」


「ですです」


 翡翠は頷いてから、テントに隣接された大きなクーラーボックスの方に向かい、そこから麦茶を取り出して水分補給をする。


 クーラーボックスの中には氷水と保護者が持ってきてくれた飲み物やゼリーが氷水に浮いていて、キンキンに冷やされているんだけど、全部自由に取っていいらしい。


 保護者の人が持ってきてくれたんだけど、太っ腹だなぁ。


 そんなことを思っていると……



「こんにちは、君が二葉さんですか?」


 ハスキーボイスの凛とした声で話しかけてくる女性。


 いや違うな……


 首元を隠してて喉仏が見えないけど骨格的に男性だ、信じ難いけれど。


 雰囲気が全体的に翡翠に似ているし多分、予想が合ってれば……


「翡翠のお父さんこんにちは」


「あれ、よく自分が翡翠の父親だって分かりますね」


「結構似ていたので」


 予想通り当たっていた。


 サングラスつけてるけど目元とか、輪郭とか話し方がそっくりな所も含めて翡翠と似ている。


「どうもくちなし 琥珀こはくです」


 サングラスを外しながらそう言う翡翠の父、琥珀さん。


 これが血筋。

 梔家は、圧倒的美形が生まれる家系なのかもしれない。


 俺、結構観察力いいはずなのに、最初会った時一瞬女の人かと思いかけたし……


 それほど、男性とは思えない綺麗な人だ。



「結、ただいまー、それから……そっちの方は?」


「翡翠のお父さんの琥珀さんだよ」


 お手洗いから帰ってきた有栖にそう言う。


「こんにちは有栖さん。翡翠がお世話になっています」


「こんにちは!」




 そうして色々と話が盛り上がる。


 クラスメイトからの視線と声を感じるようになって……


「あれ、翡翠のお父さんなのか……」


「二十代のかっこいい女性にしか見えない」


「翡翠くんの素顔見れば血縁だって納得だけど……女子の私より綺麗で可愛いの納得いかないんだけど?」


「綺麗……」


 そんな声に、琥珀さんは苦笑した。


 どうやら梔家は相当な童顔女顔で生まれるらしく、苦労することもあるそうな……


 その最たる例として、翡翠と琥珀さんが姉妹に見られることがよくあるらしい。


 そう、兄弟ではなく、姉妹だ……



「やあやあこんにちはお嬢さん方。夫がどうも」


 琥珀さんがつけているのと同じサングラスを少し上にずらしながら、声をかけてくるブロンドヘアーでウルフカットの女性。


 両の腕と首筋には梔子の花のタトゥーが掘られてある。


 琥珀さんのことを夫って言ったから翡翠のお母さんなんだろうけど……


 なんか、想像してた像と全然違って困惑。


 翡翠も翡翠のお父さんも真面目な感じだから、尚更に……


 いやまあ、かっこいいけれども。


「ふむふむ、息子から聞いてはいたけれど凄い可愛いね……二葉ちゃんと有栖ちゃんであってるかな?」


「あ、はい。二葉 結です」


「私、有栖 唯です」


 俺と有栖は翡翠のお母さん、黎亜くろあさんに軽く自己紹介する。


「二人は名前がおんなじなんだね」


「そうですね、ただ漢字は有栖は唯一の方で自分が、結ぶの方です」


「なるほど」




 そんなことを話していると……


『さあ、続いては一年生借り物競走です』


『ボックスに入っているくじを引いて、書かれているお題に沿ってゴールを目指してください!』


 解説の言葉により、それぞれスタートラインに着く。


 そして、空砲の音が鳴って一斉にスタートを切った。


『青組は良いスタートを切りましたね」


『青組のあの子、俺めっちゃ好みだ』


『……実況さん、ちゃんと実況してください』


『はい……』


 実況のその言葉が翡翠に届いたのか、明らかに動揺してる気がする。


「くは、ねえ我が半身、聞いた!?」


「……黎亜、もうちょっとお淑やかにしてください。二葉さんたちが見てます」


「おっと失礼」


 漫才かな?


 とりあえず競技に集中しよ……


『さて、ボックスの中から取り出したのは一体何なんでしょうか……』


 翡翠は一番速くボックスに辿り着き、中から紙を取り出して広げ、少し立ち止まった。


『実況の人って書かれてほしいぜ全く、俺を連れ出してくれないかな』


『そろそろ黙りましょうか』


『ちょ、ま、やめ……!』


『さて、司会がなぜか私一人になってしまいましたが、実況解説、両方を務めるのであしからず』


 実況の人、一瞬で沈んでいった……

 見なかったことにしよ。



 そうして競技の方を見ると、翡翠が丁度こっちに走って来た。


「二葉さん、いいですか?」


「え、ああ、勿論」


 翡翠に連れられ、木漏れ日の下から炎天下に進む。


 眩しいな……


 それにしても、翡翠が引いたお題は何だったんだろ?


 一位を独走しながら、そんなことを思う。


『青組速い……!』


『うわぁ、二人とも俺の好み!』


『いつのまに復活していたんですか……実況はもっかい寝ていてください』


『ぐはっ……!?』


 なんか、断末魔が聞こえたような……


 気のせいか。



 二人でゴールテープを切る。

 風が心地いい。



『青組一位、続く形で白組が二位です』


 後に続く形で白組がゴールを通過する。

 その人が連れていたのは、何故か蓮華先輩だった。



「エスコートお上手ですわ」


 どうやらお題が“語尾にですわがつく人”らしい。


 作った人完全に蓮華先輩狙い撃ちして設計したよな多分……



「そういえば翡翠のお題は何だったの?」


 そう聞くと、翡翠は少し躊躇いながらも口を開けて、真剣な表情で言った。


「一番尊敬している人です」


「……へ?」


 翡翠が一番尊敬してる人、俺!?


 超絶美少女なだけで、尊敬できるところなんて全くないと思うんだけど……



 ぽかーんとしながら、翡翠と一緒にテントに戻る。


「結、見たことない顔してる」

 

「なんかに似てるのよね……ウーパールーパー?」


 いつのまにかこっちのテントに来ていた彼方。


 赤いハチマキがよく似合ってる。

 ていうか……


「誰がウーパールーパーじゃい!」


 全く……こんな美少女をあの何考えてるかよくわからないナチュラルあほずら海中生物で例えないで欲しい。



「凄い呆然とした顔だったわよ?」


「そんなに……?」


 むむむ……



 翡翠の方を見ると、親子揃って談笑していた。


「や、翡翠来たよ」


「あれ、お母さん、今日これないっていってませんでしたか?」


「いやー、ちょうど仕事が休みになってね。我が息子の活躍を見に来たんだ」



 なんか、いいな……

 親が来るって。


 なんて思いながら、少し席を外し、小走りでトイレに向かう。


 ん……?

 見間違いか?


 夏にしてはあまりにも暑苦しい黒い服と帽子、マスクと眼鏡をかけた男性。


「今すれちがったの有栖の父親……か?」


 後ろに振り返り目線でその人を追う。


 マスクと眼鏡と帽子で変装してるようだけど、間違いない……


「……何しに来たんだ」






◆◇



 


現在色別得点数


『1位.30点』

『2位.25点』

『3位.20点』

『4位.18点』

『5位.15点』

『6位.10点』


・赤組65点

・青組70点

・黄組63点

・緑組51点

・白組55点

・黒組50点

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